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姫様勘弁してよっ! ~異世界戦国奇譚~  作者: 木庭秋水
第二章
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第九十七話 決着 そして一旦東の砦へ でござる



 西の盆地にて、最後の詰めが終わった。


 伝七郎の元へと行く。そして、なんとかこの難局を乗り切った事に二人で安堵の息を漏らしていると、他の皆も集まってきた。


 すると、それまでの緊張の箍が緩んだ。皆でくだらない事を言って、笑いあった。


 ここの所の流れだと、ここで生け贄となるのはなぜか俺の役目のようになりつつあったのだが、今日は与平に白羽の矢が立った。


 嘆く与平。心密かに勝ち誇る俺。


 戦にも無事勝ったし、今日の俺は『持ってる男』だった。持ってる男……、なんというすばらしい言葉の響きだろうか。


 良いところを持っていった与平は、俺の自然な誘導により、民主的な決定によって、俺らにおごる羽目になったのだ。


 大変すばらしい事だと思う。今日の俺は出来る子だった。


 もっとも、その与平は爺さんによって救われる。


 爺さんが、今回は代わりにおごると言い出したのだ。


 それによって与平へのささやかな仕返し……もとい教育を妨害されたものの、まあ大した問題ではない。ちょっとした余興が失敗に終わっただけである。


 爺さんのその言葉に、与平は先程まで大層凹んでいた表情を輝かせ、今も両手を振り上げガッツポーズを決めていた。


 ふっ。いつも俺を玩具にするから、こういう天罰が下るのだ。爺さんに救われたな、与平よ。これに懲りたら、俺を玩具にするのはもう少し控えなさい。ここ、今日一番大事なところですから。いいですね?


 心の内で、そう与平に向かって説く。


 そんな俺を、与平は何か不思議なものを見る様な目で見返していた。


 でも今の俺にとって、そんな事は些細な事だった。


 俺は勝利の余韻に浸っていた。何に勝ったのかは、今更言及するまでもない。久方ぶりの大勝利に、大いに酔いしれていた。


 ここの所こいつらにはからかわれっぱなしだったから、今俺は大変気分が良かったのだ。


「それでは武殿。この後はどうしましょうか?」


 伝七郎が小躍りしている与平を見ながら、俺にそう尋ねてくる。


「そうだな。なんにしても、一度砦に戻ろう。あそこもあのままには出来んし、何をするにせよ、一度態勢を整え直さないとな」


「ですな。町まで一日とはいえ、兵たちもこのところ無理のし通しですし、特に永倉様の兵たちは心身共に疲労が激しいでしょう。例え一日だけでも、先に小休止をとらせた方がよいかと、自分も思います。兵らも喜びましょう」


「そうですね。では、その様にするとしましょう。我々はその時間を使って、砦に残す兵の編成や、砦の修復の指示などもできますし、ちょうど良いでしょう」


 俺や信吾の進言に応え、伝七郎はそう決定した。


 だが、修復は……どうだろうな。あれは、修復できるのだろうか? いや、するべきなのだろうかと言うべきか。


 そんな思いが、思わず口から零れる。


「修復……ねぇ。いや、どうだろうな」


「何か問題があるのですか?」


 伝七郎はきょとんとした顔で、俺の顔を見る。


 いやあ、ははは。ちょっとな。そう、ちょっと――――、


「うむ。ちょっと、その、な。まあ、なんだ? ぶっちゃけ、やりすぎた」


 と、俺は気まずい思いをしながら、正直に答える。


「やりすぎた?」


 伝七郎は小首を傾げながら、俺の言葉を繰り返す。


「ああ。やった俺が言うのもなんなんだが、あそこまでやった物を直すなら、もっと防衛拠点として有意義な物を改めて造る方がいいんじゃあないか、とな。まあ予算の都合もあるから、どちらにせよ当分はその場しのぎをするしかない訳だが」


「ああ、なる程。そうですね。どちらにしても見てみない事には何とも言えません。戻ったら、すぐに皆で見て回りましょう」


 俺の言葉に得心がいったと、伝七郎は一つ頷く。


 すると、そんな伝七郎と入れ替わりに爺さんが声をかけてきた。


「なんじゃ。そんなに派手にやったのか? まあ確かに、まるで山が燃えているかの様にも見えたが」


「あははは。……はあ。かなり」


 笑って誤魔化そうとするも、最後に溜息が混じる。


 そこへ与平が、あっけらかんとした様子で、珍しく俺のフォローに入った。


「確かにあれは……。でも、俺らも策を成功させる為に必死でしたし。仕方ないっすよ、武様」


「今回お前が同行していた事を神に感謝しよう。もし違う配置だったら、お前にこそ何を言われていたか分からん」


「うわ、それは非道い。俺はいつでも武様の味方じゃないですかあ」


「言ってろ」


「まあまあ、与平も武様も」


 話が盛大に脱線しかけた。それを、それまで黙って話を聞いていた源太が宥める。


 そうして、俺らがやいのやいのと騒いでいる間も考え込んでいた伝七郎が言った。


「まあ何にせよ、一度皆で戻りましょう。そして、まずは砦の確認です。見てみない事には、何も始まりません」


 結局問題の砦の修復に関しては、現場を見てから改めて皆で再協議という事になった。


 某かの応急処置が必要になるのは間違いないが、大きな方向性も、当面処置も、現場を皆で見てみない事には碌に意見も出ない。当然の結論だった。


 そして砦へと戻る道中、少し込み入った話も爺さんに聞いた。


 ずばり、金の話だ。


 その結果は、まずまず予想通りのものだった。町の蓄財は、それなりの額があるらしい。


 しかし、かといって『もう大丈夫。なんでもドンと来いやあ』という訳でもないといった感じであった。


 砦の様な大型の建造物をどうこうしようとすれば、必要な資金はちょっとやそっとの額ではない。それに、東の砦にばかり手持ちの資金を湯水のごとく注ぐ訳にもいかない。


 砦の造りがどこもほぼ変らないのならば、藤ヶ崎の四方を守る砦――東西南北すべての砦の防衛能力はないに等しいのだ。当面だけを考えても、この四つは即座に、しかも同時に手を入れなくてはならない。


 そして当然の話ではあるが、町の金をすべて、砦の強化に使う様な事は出来ないのである。大和の国をめぐるこれからの継直との戦いに向けて、あらゆる備えを強化していかなくてはならないし、藤ヶ崎の町の統治、運営にも金がかかる。


 町や軍の改革、増強。金はいくらあっても足りなかった。どれ程あろうと、所詮は町一つの蓄財である。まったく足りない状態だった。


 そして金ばかりではない。物資も人も足りなかった。


 ありとあらゆる物を、これから充実させていかなくてはならないのだ。


 となれば、今ある金を砦に使い切るなど以ての外である。この金を原資にして、更に富を稼ぐ必要があった。


 当然、例え国防に絶対必要なものと言えども、今砦に使える金など微々たるものになってしまうのである。


 その辺りも踏まえて、砦に今費やせる金額を検討する必要があった。


 そんな事を頭の中で整理しながら、伝七郎の馬――の尻に括られつつ俺は砦への帰路を揺られていた。


 落ち着いたら、まず始めに馬に乗る訓練をしようと心に決めながら――――。

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