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姫様勘弁してよっ! ~異世界戦国奇譚~  作者: 木庭秋水
第一章
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第八話 問題解決の糸口って意外な所で見つかる事が多いよね でござる

 そんなこんなを話しながら、陣内奥に伝七郎とともに足早に移動する。はやく地図を確認したい。


 しかし、神は俺に長いシリアスを許してはくれなかった。


 つか、ここの神様は誰なんだ? 日本的八百万なのだろうか? 真面目すぎて融通が利かずに信徒に戦争させる神様より、ちゃらんぽらんでいい加減な日本の神様の方が俺の好みなんだが。


「い~や~~じゃぁぁああ。暑いのじゃ。そんなに着とうないのじゃあぁぁあ」


「駄目です。姫様。湯上りにそんな恰好のままではっ。お風邪を召されますよっ!」


「かぜひかなくても、頭がぼ~っとして倒れるのじゃあぁああ。菊も咲も鬼なのじゃあっ!」


「姫様、人聞きの悪い事をおっしゃらないでくださいませっ」


 おー。なんか吠えてるな。つーか、こんな所で風呂に入れてるのかこいつらは? それに今はおやつ前だぞ? 多分陽の高さ的に。


「おい?」


「はい……」


「よくこんな場所で風呂炊く水があったな。薪はともかく」


「ええ。近くに小川がありましてね。姫様一人分くらいなら、大した量にもなりませんし」


「甘やかしてるなあ」


「まあ、それは……」


 伝七郎はポリポリと頬を指で掻きながら苦笑いだ。まあ、仕方ないだろう。可愛くて仕様がないのだろうな。


「水も近くに十分あり、薪にいたってはすぐ裏に山のようにありますから。枯草などにも事欠きませんし。ちょっと穴掘って、水入れて焼いた石を放り込めば、すぐに入れます。姫様ひとり分くらいなら、大した手間でもありませんよ」


 ふーん。なるほどね……。


「おーけー、おーけー。そう力説しなくても、できる環境でやってるなら文句は言わんよ」


 まだ奥で幼女がぎゃーぎゃー喚いてるが、とりあえず俺たちは地図を見なくてはならない。うん。


 俺には珍しく、おもっきり超絶マジモードだったんだが、一気に力が抜けた。でも、それはそれでよかったのかもしれない。マジになりすぎて視野狭窄になるのも、間抜けな話というものだ。


 ところで、お菊さんは今、白の襦袢(じゅうばん)姿なのだろうか? で、千賀が暴れて水がかかったままとか? 


 あれ透けるし、なんか色々と最高だろ? 素っ裸より良いと俺は声を大にして主張したい。


 あちらでは道夫と絶対領域とか、どの衣装が至高かとかでも、よく議論を交わしたものだ。もちろん今回の事案にも関係する『女はマッパがよいか、脱ぎかけがよいか』でもよく激論を交わした。


 あのカスには詫び寂びというものが足らん。見えればよいというものではないとあれほど丁寧に説明してやったというのに、奴の少ない脳みそではついぞ理解できなかった。故にいつも最後には拳でのお話合いになる訳だが……。


「……ける殿? 武殿!」


 はっ。いかん。思わず世界の深奥に嵌まり込む所だった。


 あれは男の世界に古来よりある極めて深い命題ゆえに、容易な話ではない。未だ我々男は唯一絶対の答えを見出(みいだ)す事はできていないのだ。深すぎて、この命題に思いを馳せると、あっという間に時間が過ぎ去ってしまう程である。


「ああ。すまない。少々考え事をしていた。急ごう」


「いいんですよ。これ程真剣になってくれるなんて。只々ありがたい事です」


 ……、うむ。




「これです。見てください」


 伝七郎は一巻の巻物を持ってきて机の上に広げた。俺と奴はそれに噛り付くように見ていく。


「今私たちがいるのはここで、敵はここを通ってやってきます。ここ以外を通ろうとすると山を大回りする事になります」


 つまり大まかに言うと、山間の谷にある狭道が隘路となっていて、その出口に俺たちの陣があり、相手はそこを通るしかないって事か。


「なるほど。隘路の出口で張って、一度にぶつかる数を減らしたのか。でも、これ、お前ら的にはまずい戦い方じゃなかったのか?」


 軽くジャブを放ってみる。この問いに対する反応次第で、奴を説得する所から始めなくてはいけなくなる。ただ、こいつはさっき戦場に謀を持ち込んでいない事を疑問に思っていると言っていた。そして、こういう戦い方をしたという事は……。


「そうですね。私はこの世界の常識的に戦の作法を無視した恥知らずとして名を残してしまうでしょう。しかし、私は勝ちました。姫様を守れました。それで満足です」


 こいつは俺に会わなくても、このまま成長すれば、戦国の異端児にして麒麟児として、名を残す人間だったのかもしれないな。奴に聞くこの世界の常識とやらと、奴の考え方とを比べると、そうであっても不思議はない。


「上等だ。おまえにその覚悟があるなら、俺たちは負けん。水島の名を戦国史に高々と残してやろう。最狂にして最強。恥知らずの悪魔の軍として」


「ははっ。悪魔の軍ですか。姫様には似合いそうもない」


「あれに似合わぬと言うなら、俺が悪魔になろうかね? 胡散臭さなら、悪魔も異世界人も似たり寄ったりだろ?」


「くくっ、武殿は面白いな」


「そう言うな。それにそういう戦いなら、俺たちはこの世界で一歩先んじている筈だ。なにせ千賀を守り切れば、俺たちとしては何がどうあれ勝ちだろ? ついでに最後まで勝ち抜いて、俺たちこそが正しかったと後世の歴史家に実力で認めさせれば、歴史的にも完全勝利ではないか」


 一気呵成の大論陣。神森武Ver.1.0である。まだ攻め手を緩めない。


「綺麗事並べて主君を死なせる臣は、臣下としては最低だ。俺はそう思うから、お前を認める。主君はともかく、臣下は主君の為に汚れてなんぼだろ。そして、臣下がそうするに足る主君だからこそ尊いんだ。そうじゃない者を主として戴くのは、大層不幸な事だと俺は思うぜ?」


 もう懸命に決断を促してますよ。ここはなんとしても奴を染め上げねば、今後死亡フラグが乱立するからな。もっとも、これは俺の本音を言えばいいだけだから、実に言葉が滑らかに出てきたが。


 あれ? なんかあいつ黙って俯いちゃいましたよ? 俺調子に乗りすぎたかしら?


「あはははっ。実にいい。まさに私が望んだ人だ。先程姫様の前で、『育った環境もあって、今更誰かに奉公する事はできない』などと言っていたくせに、それが理解できるのですか。ふふっ、ええ、いいでしょう。悪魔にでもなんにでもなりましょう。そして、姫様を守り抜いて、私たちが正しかったと証明しましょう」


「お、おう」


 俯いてたと思ったら、急に大笑いし始めました。なんかまずったかも?


 ま、まあ、本人やる気出してるし、無事染め上げる事には成功してるみたいだし、良しとしとこうか。


「あ、ああ、そう。そうだよ。それはそれとしてだ。大方針が決まった所で、具体的な策を練る事に移ろうか」


 妙な空気を払拭するように、俺は元気よくそう提案しましたよ。ええ。なんかやたら落ち着かない空気でしたので。


 いや、本当に時間もないし、さっさと具体案をまとめる必要があったんですよ? 再び尻の穴が心配になったとか、そう言う訳では決してない。ないといったらないっ。

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