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姫様勘弁してよっ! ~異世界戦国奇譚~  作者: 木庭秋水
第一章
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第七話 多分ここ最近じゃ一番頭使ってるよ今の俺 でござる

 チートされなかった……そう思い込んでた。最強な力も与えられず、俺に恋してくれる綺麗な娘っこもいない。誰得なトリップだと憤った。


 しかし、違った。


 微妙にいろいろズレてはいるが全部揃っていたんだ。


 確かにチートな力を与えられはしなかった。でも、世界の方にマイナス補正がかかってた。そこまでしたんだから、後は自分で何とかしろと言わんばかりだ。


 お菊さん発見した。俺に惚れるどころか、思わず涙目になりそうな好感度な気がするが、あれはヒロインに相応しい女だ。


 ……やってやろうじゃないか。ちょっと凹んでいたとは言え、俺を誰だと思っている? 俺は神森武だぞ? 挑戦されるとラーメンの早食いから生徒会長選挙まで、なんでも受けちゃう男だよ?


 Fuck the World!




 漲ってきた俺は伝七郎を連れて、陣へと足早に歩き戻る。無論手始めにFuckなオッサンどもを泣かす為である。


 となると、この陣周りの地形を把握しなければならない。ここに戦術レベルの策がないならば、それこそが徹底的なまでに敗戦要素満載の俺らにとって、必殺の武器になる可能性が高いからだ。


「伝七郎。まず、四季という概念はこっちにあるか? あと、今の季節とここ最近の天候は? 他にも風土に特徴があれば教えてくれ」


「は、はい。あります。まず、四季はあり、春夏秋冬で今は秋口です。少し前まで激しい風雨が来る時期だったのですが、それもおさまり、ここ一月位は晴れる事が多いです。また、これは季節のというわけではないのですが、ここの土地の特徴として昼は山に向かって、夜は谷に向かって結構強い風が吹いてます」


 山谷風、か? なるほど、その辺りの感覚は日本とほとんど同じでいいという事か。もっと情報がほしい。地図があれば地図で確認した上で、現場視察までできれば最高だ。


「なあ。この辺りの地図ってあるか?」


「あります。陣に置いてありますので戻りましょう」


「ああ。今は過ぎる時の一刻一刻が金の粒みたいなもんだ」


 つか、方向性が見えた以上、急がねばマジでまずい。いくらこっちの流儀が多少違っても、効率的な問題から、さっきの部隊と先遣隊本隊は大きく離れていない筈だ。目いっぱい離れていて二日、いや一日から半日ってところか。


 いくら兵站の概念がない世界とは言え、それ以上だと不都合がでるから、それは避ける筈。あの部隊だけで独立してないかぎりはそうである筈だ。


 かといって、もっと近ければ、伝七郎のかけた追撃は成功していない。本隊との交戦も避けられず、追撃自体が大失敗している筈だ。


 でも、伝七郎の様子から見て、そうはなってはいない。という事は、会敵しておらず、近くにはいても接敵はしていないという事だろう。


 今出ている部隊が伝七郎たちを、つまり千賀を追い詰める事ではなく、捕獲……いやこれはないな、討ち取る事を目的としているなら、百近い部隊を相手に、二、三百レベルの兵をブツ切れに運用するなどという愚は犯さんだろう。少なくとも俺ならしない。


 いくらこちらより数が多くとも、そういう目的を掲げている以上、ただ足止めしたい訳ではなく、俺らを撃破したい筈だからだ。


 そもそも敵の状況で、今俺らの足止めにいくなら、足止め部隊が仕掛ける方向が違う。逃げる方向の後ろから襲いかかっても意味はないのだ。


 あるいは包囲したいなら、どうだ? これも違う。一隊こちらに届いてれば、近辺で活発に動く別働隊がある筈。でも、それによるこちらの追撃隊への後ろからの攻撃も横撃もない。それに伝七郎も言っていた。こちらでは正面から力をぶつけ合う事こそが戦場の誉れだと。という事は、状況からの推察として──いない、となる。


 それに隊を独立させすぎると、兵站の維持と指揮系統の維持が大変になりすぎる。概念がなくとも部隊運用に必要な事自体がなくなる訳ではないのだから。


 今回のケースだと、そういう意味では指揮系統よりも、兵站の維持に裂く人的資源の方が致命的だと思われる。ただでさえ少ない兵を荷駄や連絡兵、その防衛部隊などで余分に費やすなど、部隊を分けるメリット以上にデメリットの方が大きい筈……。


「あっといかん。伝七郎、敵の状態はどうなっている? さっきの一戦でさらっと追撃はかけたと思うが、一応兵は戻してるんだよな? 戦果とこちらの被害状況の報告を急がせてくれ。あとは偵察隊はもうすでに出してるか? 相手の動きを丸裸にしてやれば、更に俺らが有利になる」


 俺は矢継ぎ早に伝七郎に確認と行動を要求する。


「一部はもうすでに先程申し上げましたが、改めて言いますね。今こちらに向かっている継直の追手は総勢三百二十でした。先ほどの戦闘でこの内訳は変わっていましょう。その軍の総大将は八島道永。副将は三島盛吉。この副将は武殿がこちらに現れた折、武殿に倒されております。各報告は急がせます。こちらにはまだ届いていません。今、偵察隊には先程の敵軍の生き残りの撤退状況を確認させています」


「ん? 伝七郎、偵察隊をさらに出してくれ。撤退状況だけでなく、現在の敵軍のおおよその数、現在位置、あとは可能な限りの情報を集める為だけの人間を出してくれ。頼めるか?」


「わかりました。出しましょう。しかし、武殿はすごいですね。私はあなたが言っている事、考えている事の半分ぐらいしか理解できていない」


 違う。それはお前の思い違いだ。所詮素人考えだし、持ってる知識の中でひたすら考えているだけだ。本当に正しいかどうかすら俺にはわからん。だがしかし、思った通り、本当にこいつは出来る。


 普通新参の俺の言う事をここまでは聞いてくれないだろう。しかし、こいつは一切余計な感情を挟む事なく俺と検討を重ねている。


 実質今ここの軍の責任者はこいつだ。そんなこいつが俺を対等に扱う。なかなか出来る事ではない。イケメンのくせにこいつはおかしい。できすぎだ。


 でも、それだけにこの戦い希望が持てる。なぜなら、俺はこいつらの非常識を以って戦おうと考えているのだから。


 それをしようとするならば、当然それを通してくれる人間が軍権を持っていないと話にならない。そして、こいつは最低でも俺の話を聞き、検討できるだけの器を持っているのは疑うべくもない。だから、まだ俺の、いや、俺たちの命運は尽きていない。


「そんなのは些細な差だ。それと今回の作戦立案に合わせて、将を選ぶぞ。力もさることながら、統率力というか兵たちに信頼の厚い者を何人か選出しておいてくれ。今回はぶっつけになるから、まず、すでに兵たちが言うことを聞く事が出来る人間を選ばねばならないだろう……ただしっ、それ以上に重要なのは、おまえが確実に信用できる人間である事だ。今回選ぶ人間が、今後の水島の軍の中枢となる。おまえの手足となる。それを踏まえて選んでくれ」


 おまえが感じている差は本来ない筈の差だ。俺がなんとかできるよう、この世界にマイナス補正がかかっているというだけの事で、差はそれだけの差だろう。それがなければ、お前の方がすごいだろうよ、普通にな。


 内心でそう言葉を付け加えながら、将の選出を依頼しておく。


「わかりました。選んでおきます。それにしても、些細な差などとご謙遜が過ぎましょう。私には絶望的な差にすら感じられる」


「いや、ホントだぜ?」


 だってなあ、所詮俺のは実践に裏付けられたものなんか何一つないし、それどころか、本来は身につけた知識とすら言えないものだ。比喩ではなく、実際に血と汗を流して苦労に苦労を重ねて手にした経験と知識、そして知恵とは比べられないだろ。上下以前に比べること自体(おこ)がましいわ。


 それにここは……、あまりにも『俺』に都合の良い異世界トリップものの世界だから、な。


 そんな俺という要素を抱き込んで、そして、おそらくはそれを受け入れる事が出来るように端からできているであろうこの世界でなら、おまえたちにはそう感じるだろが、それが正しいとは限らんよ。現実ではあっても真実じゃないって奴だ。


「まあ、いいや。そんな事は糞野郎をシバキ倒した後で、咲ちゃんに茶でも入れてもらって縁側で話そうか。ん?」


 俺は片目を瞑り、少々芝居じみた動作で、そう(おど)けてやった。

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