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姫様勘弁してよっ! ~異世界戦国奇譚~  作者: 木庭秋水
第二章
123/454

幕 平八郎(一) 継直謀反の報せ

 ……見事だ。


 つい先程西で勝ち鬨が上がった。源太と……、あれは与平の部隊か。


 あの小僧……、本当に何とかしおった。


 それに伝七郎もだ。


 これ程とは流石に思ってもいなかった。藤ヶ崎で再会して以降、事ある毎にそれを思う機会はあった。だが、今日目の前で確認した。間違いない。あれは、すでに儂が知っていた伝七郎ではない。


 まだ甘さと未熟さが多分に残っていた才能は、明らかに一気に芽吹き花開こうとしている。


 これもあの小僧との巡り会いのせいか。時を見るに、そうとしか思えない。


 伝七郎は、あの小僧の事を鳳雛――鳳の雛だと言っていた。なるほど、確かに鳳凰の子よ。


 姫様を導く聖なる鳥か。


 そしてその鳳雛に才を認めさせ、伏した竜だと言わしめたのが伝七郎。目覚めて天に昇ろうとすれば、これぐらいは何事もない……か。


 儂とて伝七郎の事は大いに評価していた。だが、つもりだったようだ。眠っていた才の大きさは、儂の想定を超えていた。


 認めざるをえない。その才を正確に見極める事が出来たのは、あの小僧だけだと。


 あの小僧は、儂よりも遙かに短いつきあいの中で、伝七郎を伏した竜――――伏竜だと称してみせたのだから。


 姫様は、この巨大な二つの才能に抱かれて守られている。そればかりか、その周りを更なる才の片鱗――未だ若いが確かに有能な将たちが、害意をもって通る事かなわぬとばかりに守っている。


 確信した。伝七郎と小僧に、姫様と藤ヶ崎の未来を託した事……、やはり間違いではなかった。




「よお、伝七郎。また過激にやったもんだな?」


「ああ、武殿。本当にお疲れ様でした。何、砦で武殿がしっかりと処理して下さったおかげですよ。お陰様で、私たちは楽なものでしたよ」


 勝ち鬨が上がりしばらくすると、砦へと続く道を塞いでいた小僧がこちらへとやってきた。


 二人は互いの手を握り、成し遂げた結果を讃え合っている。


 共に笑顔を見せていた。しかし、どこかほっと一息を吐いているようにも見えた。


 儂が伝七郎に大将を譲った意味。そしてその伝七郎だけではなく、小僧にも報告をしろと敢えてあの早馬の兵に言い含めた意味。それらを正しく受け止めてもらえているようだった。


 背負う物が一国ともなれば、如何にこの二人といえども、さぞ重かったに違いない。いくら才能豊かといえども、この二人は未だ若いのだから。


 だが二人とも期待通り……、いやそれ以上の成果を出して儂の思いに応えてくれた。


 こんな事になって、無事次世代へと役目を引き継ぎ席を譲る事など完全に諦めていたというのに……。明日というものは、いつまで経っても読めるようにはならぬものだ。


 少なくともあの日。そう、伝七郎や小僧らが姫様をお連れして、この藤ヶ崎にやってきた時には、まだ想像すらしていなかった。


 これ程に期待が持てる水島家の明日を。


 思い返せば、儂も完全に余裕と希望を失っていたのだ。



 …………――――


 嘘だ……。そんな事などあるものか。御館様と奥方様がお亡くなりになっただと……。


 目の前の者はそう言った。だが、そんな事などある訳がない。ある訳がないのだ。


 藤ヶ崎の館に駆け込んできた早馬。それは、旧知の者が危険を冒してまで儂の元へと走らせてくれたものだった。


「……すまぬが、もう一度言ってくれるか。聞き逃した」


「……はっ。継直様、挙兵。謀反にございます。御館様と奥方様は碌に反撃も叶わず、富山の館で追い詰められ、自尽なされました。その騒動の中、菊様らのお働きによって、千賀姫様は富山の館より逃れる事が出来たようです。ただ、以降の消息は未だ掴めておりません」


 やはり、聞き間違いではないのか。いや、なぜ聞き間違いではないのだ。御館様……。


 最悪の内容だった。


「伝七郎はどうした? 富山には伝七郎がいた筈だ。あれが御館様を裏切るなど、まず考えられん。抵抗したのだろう?」


「はっ。佐々木様は姫様が館を出られたのとほぼ同時期に、富山から姿を消したようです。継直様も探されているとか」


 姫様に同道している、か。なるほど、菊ら侍女だけでは逃げるのもままなるまい。そちらに尽力したか。姫様だけは意地でも何とかしようとしたのだろう。


 だが逆に言えば、それしかできなかった。


 あれほどの若者でも、まったく気がつかなかったという事か。完全に後手を踏んでいる。


 伝七郎と菊、そしておそらくはたえ殿らも一緒だろう。ならば、とりあえず姫様の事はなんとかしてくれるだろう。姫様だけでもお救いできて、本当に良かった。


 だが、これからどうする……。


「そうか……。わかった。下がれ。……ああそれと、以降は継直と呼べ。もうあれは、ただの逆賊だ。御館様の弟君などでは断じてない。よいな?」


「はっ」


 儂の言葉に、報告に来た兵は深く頭を下げて応える。そして、下がっていった。


 儂の他に誰もいなくなった謁見の間に沈黙が降りた。


 見慣れた広間が、今日は何故か広く感じる。


 落ちがちになる視線を無理矢理上げれば、閉じられた障子に風に揺れる枝木の影が映っていた。


 御館様……。奥方様……。


 こんな事になるならば、富山を離れるのではなかった。


 儂がいて、なんとかなったか。それは分からない。


 だが……。


 それでも……。


 離れるのではなかった……。


『平八郎。お前にしか頼めぬ。藤ヶ崎を守ってくれ。今の藤ヶ崎にあるのは、見せかけの平安だ。金崎ばかりか東の佐方も虎視眈々と様子を伺っていると聞く。南の霧賀は今のところ動きがあるとは聞かぬが、それもいつまでの事かはわからぬ。いつ動きだしても不思議はない。難しい状況ではあるが、水島としてはあの土地を失う訳にはいかぬ。今更お前に言うような事でもないが、あの土地の富とこの富山の富によって、我が家は周りを彷徨(うろつ)く狼どもからこの土地と民を守ってきたのだ。あそこを失えば、その力は大きく減衰してしまう。そうなれば均衡は破れる。大和は大過に見舞われよう』


 そう言って御館様は、儂が守り役を務めていた頃とまったく変わらぬまっすぐな瞳で儂の目を見た。


『なあ、平八郎。この状況であの土地を任せられる者など、お前しかいない。口惜しいが、今の我が臣らの能力では選択肢がない。が、実際の所それ以前の話でな。信じられる者がお前しかおらぬのだ。老いたお前を更に酷使するのは胸が痛いが、どうか頼まれてはくれぬか。藤ヶ崎の、大和の民を守ってくれ。この通りだ――――』


 富山を離れる前のあの日、儂は御館様にそう言って頭を下げられた。


 断れる訳がなかった。


 家臣団が腐っているのは、嫌という程分かっていた。そんな臣下らを置いて、自分が離れる事に不安がない訳ではなかった。ただ、それでも断れなかった。


 あの時の御館様の言葉――――、今でもその一言を間違える事もなく思い出せる。


 結局、儂は御館様の頼みを聞いた。


 儂は儂の代わりに、一人娘の菊を姫様の側へとやった。死んだ妻に似て、本当に出来た娘だったから、姫様のお側にあれば姫様をお守りしながら異変を儂に伝える事くらいはできる――そう考えた。姫様の守り役には伝七郎がいたから、菊一人では荷が重くとも何とかなると思った。


 だが儂の認識以上に、水島の家臣団は腐っていた。御館様が抵抗らしい抵抗もまったくできずにこうも容易くお家を覆されようとは、流石に考えてもいなかった。間違いなく家臣団の大半が、継直によって籠絡されていた筈だ。


 故にこうも鮮やかに、謀反が成功してしまったのだ。


 伝七郎や菊も、こちらに連絡する暇すらなかったのだろう。


 きつい役目を押しつけてしまった。だが、そのおかげで姫様だけでも守られた。


 あの者らは十分役目を果たした。少なくとも御館様を失った儂などよりは余程……。


 あ奴らを責める事などできぬ。


 継直の野心と妬心、そして狡猾さと狂気を――――測り間違えた儂の責任だ。


 だが、御館様。この仕打ちはあんまりですぞ……。


 いくら藤ヶ崎を守り通せても、御館様をお守りできねば意味がないではありませぬか。


 なぜ、なぜ生き残って下さらなかった。生きて、逃げ延びてさえ下さっていれば、この平八郎。命に代えましてもお守り致しましたものを……。


 これでは、我が身を省みる事すらできぬではありませぬかっ。

11/16 冒頭をやや変更

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