2 森の侵入者
蔦が伸び侵入者を阻むように茂っていた森は、メルルとレイウォンを受け入れるかのように蔦が2人を避け道が開ける。
2人はいつものように気にせず森の中へと歩みを進めた。
ディアレン王国は自然のマナに溢れた国。
土地だけでなく、王国で生きる民は自然と自然の魔力の宿る水、食材を体に取り込んでいた為僅かであろうとも王国民にはマナが取り込まれている。――更に、長年マナを取り込み続けた王国民の中には自ら生命エネルギーをマナに変換することが出来る者まで現れた。
体内で生成したマナは自然の魔力とほぼ同じで、親和性も非常に高い。
自然のマナのみを取り込んでいた者たちは細やかな魔法しか使うことはできなかったが、体内でマナを生成できるようになったものは魔法使いとして重宝されるようになった。
生命エネルギーが多い者は必然的にマナが多く生成され、更にマナの扱いに長けた者は、自然の魔力を多く取り込み操ることが出来るようになった。
その代表的な魔法使いがメルルの育ての親であり師匠でもある魔女ヴィセラである。
優秀な魔法使いと言われる王宮の魔法使いですら10段階中5程度だが、ヴィセラのマナの生成レベルは10段階中7だった。
7の段階は自分のマナを使い、ある一定の地域を支配出来てしまう。――シェルム森林はヴィセラのマナで支配されており、そのマナの恵みもあり他では育たないような稀な薬草が多く自生している。
森の中のどんなことでも察知できるし、彼女が許可したもの以外はその領域に入ることすら許されない。
その『許可』が条件に繋がるのだが、なぜかヴィセラは条件を満たせば侵入を許可すると決めてる。
――条件がかなり厳しくて侵入できた者はまだいないけど・・。
メルルとレイウォン。そして家で待機しているネリーの3人は、ヴィセラに森林での暮らしを特別に許可されている。
マナが8段階となると、神の加護を受けた愛し子レベル。9、10段階となれば神の領域と言われている。――その為、愛し子が現れていないディアレン国ではヴィセラが王国一の魔法使い、また畏怖の念を込め『東の魔女』と呼ばれている。
森はいつも自然の魔力に満ちていて、その力に混じってヴィセラのマナも感じられる。
彼女は今は月に数回請け負っている依頼の為森を離れているが、それでも森はしっかりとヴィセラにマナよって支配されているのだ。
今日もその依頼で森を離れているが、なんの問題もなく森は侵入者を拒み続けているらしい。
誇らしげに師であるヴィセラの事を考えながら家にむかっていた2人だったが、しばらく歩みをすすめるとざわざわと森が警戒する雰囲気を感じ取れた。
「――ねえ?なんだかおかしくない?・・・森が警戒しているわ」
「そうだな。こんなことははじめてかもしれない。・・・まさか侵入者か?!」
「侵入者――。ほんの微かだけれど、この先に微かな生命反応を感じるわ!もしかしてそれが原因?
」
「――違う・・とは言い切れないな。――俺が見てこようか」
メルルの言葉にレイウォンは警戒心を露にした。
「――駄目よ!私も一緒にい行くわ!私はこの森の管理者代行なんだから。」
メルルは13歳だが魔力は10段階中5段階で王宮魔術師並みのマナを扱うことができ、ヴィセラの唯一の弟子ということで彼女が留守中は自分が代行管理者となり森の平和維持に貢献している。
魔力の扱いならばレイウォンの方が長けてはいるが、ヴィセラはレイウォンではなくメルルに任せている。
レイウォンを制して生命反応のする方向へ歩みを進めると、木根本に力尽きて倒れている青年の姿が目に入った。
「―――人だわっ!!」
まさか生命反応が人だとは思わず2人共驚愕する。
ディアレン王国の紋章入りのマントと軽装備の鎧からして王宮騎士なのだろう。ヘンデの町に良く現れる傭兵や冒険者とは格が違うのがよくわかる。
横たわっているがぱっと見は細身に見えて鎧からちらりと覗く二の腕や太ももの筋肉の付き具合から、逞しい体つきをしていることが容易に想像できる。
兜はせず乱れていても黒く艶のある髪は全身砂だらけで目元も髪の毛で隠されているが、整った輪郭からして美青年であることが想像できた。
「お兄さん!大丈夫ですか?――もしもーし?」
頬をぺしぺしと叩くが目を覚ます様子はない。
「・・・・森の外に放り出しておけばいいんじゃないか?」
「それは駄目よ!」
「なんでだよ」
メルルの言葉にレイウォンの顔は不機嫌そうな顔を隠さずに返す。
「だって折角森の中に入れたのよ?!偶然入ってしまったなんてあり得ないわ!」
「じゃあどうするんだよ」
「家に連れて行ってあげるのよ」
「――はあ?!家って、ヴィセラの家だぞ?!」
「師匠が留守中は今は私が家主よ!」
「~~俺はこんなでっかい男背負ったりしないからな!」
「問題ないわ!私が連れていくもの」
不敵に微笑むと、メルルは魔法を唱えた。
倒れていた男の身体はふわっと浮き上がり、メルルの目線の高さまで浮き上がる。
「さぁ、それじゃおうちに帰りましょ!」
「・・・・」
にこやかに告げると家に向かってメルルは歩き出し、浮いた男もふよふよと浮かんだままメルルの後ろを付いていく。
レイウォンはふてくされつつも文句は言わずにメルルの後方を歩くのだった。




