6話 「沈黙を選ぶか、運命と戦うか。」
「要は、真央さんは少しでもお父様に会いたい、
でも、お母様は真央さんにお父様の死に間に合わせたくない。ってことですよね…」
「そうなるねぇ…」
「ってことは、真央さんはお父様が元気だった頃に飛べば…」
「来夏、それじゃ運命の余波に巻き込まれる可能性があります。最悪の場合西田様の存在そのものが無かったことになります。 」
「へ?運命の余波?」
先程の勢いはどこに行ったのか、
来夏はキョトンとした顔で首をかしげる。
「あぁ、来夏くんにはまだ話してなかったね。
運命の余波ってのは、1度過去を改ざん、タイムトラベルすると地震の余波のように連鎖的にその時代、その人間に、衝撃を与えてしまう。物理的にも心理的にもね。
本当のことを言うと、我々現代人が過去に干渉出来ることって案外少ないんだ。 」
「だからこの人を死から救いたい、とか事故から助けたい、みたいな運命的物理現象からは逃れられないわけなんだよ。」
「だからね、来夏くん。
死の運命はからはだれも避けられない一本道なんだよ。」
紳が淡々と話す中、ゾッとした顔で来夏は固まる。
紳はゆっくりと立ち上がると席を外した。
「じゃあ、もし真央さんが元気だった頃のお父様に会えば…」
「そうです来夏さん、お父様の生命そのものが危うくなり、お父様の寿命が縮むこととなります。」
「そんなんじゃどうやってもどうしようも無いじゃないですか!!!来夏さんはお父様に会えない!」
1人の少女の願いのために、運命をねじ曲げるか
運命に従い、切なる願いの一切合切を見て見ぬフリし、沈黙を続けるか…
時の案内人とは命の選択の連続である。
来夏は段々と霞の顔が影に沈んでいくのがわかった、いつも毅然と振る舞うあの姿はもうない。
だが母親の眼にはまだ希望が映っている。
まだ、まだだ…!
まだなにか手があるのではと足掻いている。
「そうでもなくってよ?御三方?」
「薫子課長!」
「暗い顔してちゃ何もいいことは起こらないからね、薫子様の力を借りる時なんじゃないかな?霞ちゃんもさ、責任感が強いことはいいことだけど。
お客様の前でそんな顔してちゃダメだよ?」
「…っ!すみません……もう大丈夫です。紳さん」
「課長、そうでもない…というと?」
薫子はそう聞かれるとフフンっと得意げに微笑んでから、ひとつの砂時計を前に出した。
「これは生命記憶清算装置《時の砂》。
つまり現代の私たちが一定時間の間だけ、
運命の余波を気にせず干渉できる装置ですの。」
「それって…!」
「そう。 会えますのよ、西田様も西田様のお母様も…お父様にね。」