2話 「全ては信託のみぞ知る」
〜水島来夏が配属される前夜にて〜
今宵白亜の建物に囲まれた八課の事務所では
一際目立つ大きな時計を模したステンドグラスが
月明かりに輝き、祈りを捧げたくなるほどの
美しさを放っている。
「水島…人類初の時空犯罪者…」
「気になりますか?薫子課長」
「えぇ、霞。信託が予感した、人類史始まって以来の大規模犯罪。
今現在その首謀者であると予想される、
「水島博士」については何も手がかりがない…これは時空警察もお手上げですわね…何としても事前に対策せねばならないというのに我らスターツアーズ社上層部は何も声明を出さない…!はぁ……
全く…上層部の愚行にはため息しか出ませんわ…」
不安と苦労に疲れた声が一つ。
我らが第八課課長、花守薫子である。
まだ若いが聡明で、美しく、何よりも、誰よりも
日本の未来と過去を慮る佳人である。
「まぁまぁ薫子様もそんなにため息ばっかついてないで、たまにはゆっくり息抜きだってしなきゃダメだよ?ほら、コーヒーでもどう?いつものミルクたっぷり角砂糖3つのスペシャルコーヒーをどうぞ」
薫子は紳の出したコーヒー…と呼ばれるかどうか怪しい程の甘い飲み物に目を輝かせ、ゴホンっとひとつ咳払いをした。
「(紳のコーヒーだ!やったぁ!私苦いの飲めないから甘くて飲みやすいやつじゃなきゃダメなんだよななぁ〜!…でもこれこんなに甘かったらもはやコーヒーじゃないんじゃ…。)ゴホンッ、感謝しますわ、鬼瓦。 私としたことが、部下の前で上層部の悪態など…まだまだ未熟物なのは私ですわね。」
「あまりこんをつめないでください。薫子課長。」
薫子を心配そうに見つめる霞を月が寂しく照らす
「あのぁ…かおるこさまぁ…いらっしゃいますかぁ…?ひぃっ!霞ちゃんいるの?!!」
「チッ…貴方ですか、まだ帰ってなかったんですね。お家が待ってますよとっとと帰ってどうぞ。」
先程の不安そうに見つめる優しい美女は何処へ
「うへへ、霞ちゃん今日も冷たい…でもそんな所もカワイイ…あぁいやちょ、そんな本気で嫌そうな顔しないで、僕泣いちゃう!!紳さん助けて!」
「助けて欲しいのは私の方ですが。」
「まぁまぁ霞ちゃんも嵐くんも仲良しようね、
二人とも従兄弟同士なんだから。」
情けなく泣き真似をしている男の名は如月嵐。
前述の通り卯月霞の従兄弟で、この国を守護する
時守の十二月一族の一柱である。一応…
「ちっ、紳さんのお手を煩わせないでください、 臆病者。すみません、我が一族の汚点が歓談の邪魔をしてしまい…」
「霞、貴方もう少し嵐に優しくした方がいいんじゃなくて?ちょっとだけ嵐が可愛そうなのだわ!」
コーヒー、もといカフェオレを飲み終えた薫子はコーヒーカップから興味を失ったのか、
目の前の話題に首を突っ込むことにした。
「流石です薫子様ぁ!私のような下等なゴミにも温情をかけるだなんてぇ…ふひひっ」
「…薫子課長こいつぶん殴っていいですか?」
「うん、ダメだからね、
挙手して宣言すればいい訳じゃないからね?」
新たな星がやってくる前夜、
終わらぬ歓談に幕が開ける。
新たな星は波乱を呼ぶのか、
それとも平穏をもたらすのか、
全ては信託のみぞ知る。