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嘘つきの護衛に助けられたら皇子でした〜婚約解消から人生逆転〜  作者: 秋月 爽良


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51 バートの存在を忘れていました、ごめんなさい

いつもご覧くださって本当にありがとうございます。

「ええっ! そうだったの!?」


 思わず大きな声を上げてしまい、エミリアーナは口を押さえた。


「ご、ごめんなさい。うるさくして」


 ソファの端に寄り集まった4人の女性たちは、ひそひそと声を潜めて話を続けていた。

 ハイゼンたちは少し離れた場所で書類の整理をしていたが、気になるのかちらりとこちらに視線を投げる。


「そうなんですよ。気付かなかったでしょう? まさかデリーさんが女性だなんて。

私達とエミィ様以外には、内緒にしておいて欲しいって言われました」


 リリーが声をひそめて言うと、エミリアーナは小さく頷いた。


「他の3人は知っているのよね?」

「はい。それと……アイオロスさんと彼女、兄妹なんだそうですよ」


 リリーの言葉にエミリアーナは息を呑む。


(あのふたりが、シルバーウッド家の子孫なのね……)


 衝撃を噛み締めつつ、彼女は落ち着いた声で答える。


「そう、分かったわ。男性のふりをしておいた方が、都合が良い時も多いでしょうからね」


 納得するエミリアーナにアダリナも頷く。


「エミィ姉さん、デリーさん達には随分お世話になったのよ。ね? アダリナ」

「はい。連絡は全て彼らにお願いしていました」


 話が一区切りついたところで、ふとエミリアーナはリリーに視線を向けた。


「そうだったの……。でもリリー、お父様がよく許してくれたわね?」

「エミィ様の元へ行きたいと願い出ておりましたが、許可はいただけませんでした。

最終的に奥様とご姉弟が味方になってくださって……、旦那様は根負けされたのです」


 肩をすくめるリリーの顔に、苦笑いが浮かぶ。


「……リリー、本当にありがとう。貴方のお祖母様と叔父様に、私は命を救われたわ」


 思いがけない感謝の言葉に、リリーは少し驚いた表情を見せた。


「それについては、もう良いではないですか。私も、エミィ様には何度も助けていただきました」


 リリーはぎゅっとエミリアーナの手を握る。その手には、今までの想いがぎっしり詰まっているかのようだった。


「祖母が長い間、真実を明らかにしなかったことについては……許されませんが」

「それは仕方がないわ。もし明らかにしていたら、あなた達まで狙われる可能性があった。

お祖母様の判断は、きっと正しかったのよ。ね?」


 やわらかな声音に、リリーはたまらず涙を浮かべながらうなずいた。


「……はい。本当に、ありがとうございます」

 

 エミリアーナは、そっと目尻を拭った。しみじみとした感情が胸に広がる。


「エイシャとアダリナは、あれから危険は無かった?」

「ええ、クロードがずっと屋敷にいてくれたの。私達も外に出なかったし」

「バート様が訪ねて来ましたが、彼が追い払ってくれたんですよ」


 ああ、バートランド。すっかり存在を忘れていたわ、とエミリアーナは心の中で呟く。


「彼は、今どうしているのかしら?」

「相変わらずふらふらしているようね。最近は見なくなったけど」


 問いかけるとエイシャは苦笑しながら肩をすくめ、どこか残念そうにふうっと溜息を吐いた。


「……私達、ここに来るまでにいろいろ聞いたわ。お母様のこと、叔母様のこと。そしてバート達が何をしたのか」

「そう、知ってしまったのね……」

「母が召喚状を受け取った際に、私達も同行しようと思ったのです。エミィ姉様にもお会いしたかったですし、父はおろおろするばかりで全く頼りになりませんでしたから」


 アダリナは眉を寄せて、若干ふくれっ面になっている。どうやら、父親の評価は下がっているようだ。


「それで、アイオロスさんにリリーさんと連絡をとってもらったの。行くなら一緒がいいと思って。

彼らはいつも子爵家の近くにいて、私達を見守ってくれていたのよ」

「それは良かったわ。ずっと心配していたの」


 エミリアーナの言葉に、エイシャとアダリナは嬉しそうに頷いた。


「私はそれほど警戒されていませんでしたから、侯爵家を出るのは簡単でした。エンデルク殿下から協力を申し出ていただきましたし」

「まあ、殿下が?」

「王家が関与している恐れがあるとのことで、厳重に護衛していただけました」

「ふふっ。彼らしいわね」


 少し微笑んだエミリアーナは、ふっと力を抜くように息を吐く。


「とにかく、3人が無事で安心したわ」

「エミィ姉様は、これからどうされるおつもりですか?」


 アダリナはどうやら、次の展開が気になるようだ。


「カレンヌ王国へ乗り込むわ。今、その準備をしているの。貴女達も一緒に帰りましょう」

「私は、何処までもお供致します。エミィ様」

「私達も行くわ! あ、でもお母様が……」

「それについては心配ありませんよ?」


 にこやかに言い放つママコルタ。相変わらずの登場タイミングだ。


「ママコルタ、それはどういうこと?」

「元々彼女は参考人でしたからね。聴取が済めば、国へ帰られても問題ありません。

しばらくは守秘義務が生じますが、それ以外は自由にされて構わないんですよ。エミィ嬢」

「そう、ふたりとも良かったわね?」


 顔を見合わせて、思わず手を取り合うエイシャとアダリナ。安堵の色が頬に広がる。


「では、それに合わせて戻られるのですね?」


 リリーが小さな紙に何かを書き込んでいる。きっと段取りを考え始めているのだろう。


「そうだ。今回の事件に関わる者を、全てカレンヌ王国へ呼び集める。表向きは俺の婚約者のお披露目会の名目でな」


 ハイゼンの言葉に、一同が一斉に振り返った。

 ……そしてママコルタだけが、こっそりと小さくガッツポーズをしたとか、しないとか。


 その後は招待状の準備に始まり、ドレスの採寸衣装合わせとエミリアーナ達は怒涛のような日々を送ることとなった。

 侯爵家とは頻繁に連絡を取り合い、事は慎重に進められていく。


 特に重要人物には必ず参加させなければならない。関係者のスケジュール調整にも全力を注いだ。

 とはいえ急な予定であることに変わりはないため、余裕をもたせた日程が設定された。

 そして嵐のような準備の合間、ぽっかりと一日だけスケジュールが空いた日がやってきた。


「早く早く、行きましょっ!」

 エイシャがまるで子犬のように元気に跳ねる。すっかりいつもの調子に戻ったようだ。


「ちょ、ちょっと待ってよ……。これでいいかしら?」

 アダリナは胸元を押さえ、身だしなみを何度も確認している。


「とても素敵ですわ、アダリナさん」

「ええ、よく似合っているわよ」

 

 褒められた彼女は、嬉しさと照れの入り混じったような笑顔を浮かべて頷いた。

 3人はエイシャに急かされながら、今日の目的地へと向かうため馬車に乗り込んだ。

 今日の目的は、アダリナが将来進学を希望している植物学専門学校の下見である。


「あの、本当に良いのですか? 私の我が儘のために……」

 控えめに尋ねるアダリナの声は、どこか不安げだ。


「ハイゼンのお墨付きだから大丈夫よ。それにせっかく帝国まで来たんだから、見ておかないともったいないわ」

「……それはそうですが」

 

 自信たっぷりに答えるエミリアーナに、アダリナは一瞬口ごもる。どうやら以前の襲撃が頭から離れないようだった。


「今回は、私もハイゼン様も同行しますし。絶対に側を離れませんから」

「おふたりがいらっしゃるのなら、安心です」


 リリーはママコルタとハイゼンに、絶大な信頼を寄せているようだ。


「大きめの馬車を用意させたが……6人だとやはり手狭だな。もっと大きいのを作らせるか?」

「ハイゼン様、それ以上大きくすると橋が渡れなくなる可能性がありますよ?」

 

 ママコルタが現実を突きつける。既に道幅ギリギリのところもあったのだ。

 エミリアーナは、外を見つめながら呟く。


「帝国は街道が整備されているのね? すごく静かだわ」

「国土が広いぶん、商人の往来も多いんですよ。道が整っていれば、移動時間も短くなりますからね。

さあ、もうすぐ着きますよ」

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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