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嘘つきの護衛に助けられたら皇子でした〜婚約解消から人生逆転〜  作者: 秋月 爽良


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33 誘拐犯の口は、やたら軽い

いつもご覧くださって本当にありがとうございます。

「おお、気が強くていいな。俺はこの国の女が泣き叫んで許しを請うのを見てみたいんだ」


 頭目(とうもく)はエミリアーナの首筋に舌を這わせようと、顔を近づけた。

 ゴツッ! 鈍い音が響くと同時に男が仰け反り(のけぞり)、彼は額を手で押さえながら呻く(うめく)

 エミリアーナはブルブル震えながら、ハァハァと肩で息をしていた。


「痛ぇっ! テメェ、頭突きしやがったな!」

「あ、当たり前でしょう!? 貴方が顔を近づけた時、全身の血が引いたわ!

それに貴方、ちょっと匂うのではない? お風呂に入って出直してきなさい!」

「……」

「ぎゃははは! 頭目(とうもく)! ぎゃはは……あがっ」

「ジャハ、お前は笑いすぎだ! クソッ……このアマぁ、下手(したて)に出てりゃ調子に乗りやがって!」

 

 男は笑い転げている手下を殴りつけて、エミリアーナに怒鳴る。


「貴方達がいつ下手に出たのよ! 御者まで傷つけて、ここまでする必要があるの?

……このままだと彼は死んでしまうわ。先に彼を治療してから用事を済ませたらどうなの!」

「え? 死ぬのかコイツ。自分で馬車から落ちて頭をぶつけたんだが……」

「ええ、このままだと彼は危ないわ。出血が止まらないもの」


 エミリアーナの剣幕に頭目はたじろぐ。


「し、死にたくな、い……」

「どうするの! 早く決めなさい!」

「えっ! ……ど、どうって、助けられるの……か?」

「と、頭目。大丈夫っすか?」


 頭目はエミリアーナが怒鳴ると手下達を見回すが、彼らも困っているようだ。

 御者は死の恐怖からか、地面に転がったまま止めどなく涙を流している。

 エミリアーナは煮え切らない頭目の手をバッと振り払うと、御者の元へ駆け寄る。


「しっかりして! すぐに治療するわ」


 彼女のドレスが御者の血で真っ赤に染まるが、気にせず両手を彼の方へかざした。

 エミリアーナの手の平から放たれた眩しい光が、彼を優しく包み込む。彼女は全身全霊をもって女神に祈った。


「ああ、聖女さま。ありがとうござ――」


 御者は楽になったのか、そのまま気絶してしまったようだ。


「すげぇ……。兄ぃ(にぃ)、見たか?」

「……ああ」


 そんなエミリアーナの後ろ姿を、頭目と手下のひとりがじっと見つめていた。


 ◇◆◇◇◆◇


「彼を馬車の中に運んで! 今すぐよ!」


 エミリアーナは戸惑っている手下達に指示して、御者を馬車の座席に横たわらせる。

 リリーはエミリアーナに抱きついた。


「お嬢様!」

「いい、よく聞いて? 私はこのまま彼らと行くわ。貴方はこの馬車を屋敷まで走らせて。出来るわね?」


 エミリアーナはリリーの頬を両手で包むと、彼女を安心させようと無理に微笑んでみせる。

 彼女をリリーはじっと見つめると、ぐっと震える唇を噛み深く頷いた。


 「貴方もいいわね?」


 エミリアーナがアダリナを抱きしめると、彼女も頷く。

 エイシャはまだ恐怖で震えが止まらないので、ぎゅっと強く抱きしめ背中を摩った(さすった)


「さあ、行きましょう」


 エミリアーナが馬車の外に出ると、手下のジャハと呼ばれた男が叫んだ。


「おい! そこの女もだ!」

「待て、気が変わった。コイツだけでいい。……行くぞ、来い!」


 頭目はなぜかエイシャを連れ去ろうとはしなかった。

 エミリアーナは後ろ手で馬車の扉を閉めると、頭目の後ろに自ら乗る。馬の嘶き(いななき)を響かせて、4頭の馬は勢いよく走り出した。

 ボサボサの黒髪を風になびかせる頭目に、エミリアーナは問いかける。


「ところで貴方、さっきの光景を見てもあまり驚かなかったわね?」

「……余計なことを喋ってると舌をかむぞ。黙ってろ」


 彼はそう言うと黙り込んだ。木が乱立する林を抜け、しばらく走って小さな一軒家の前にたどり着く。

 周りにはポツポツと、すでに誰も住んでいなさそうな古い家が建っている。


「降りろ。……こっちだ、付いて来い」


 エミリアーナは頭目の手を借りて馬から降りた。前後を手下に挟まれ、彼女は素直に頭目の後ろをついて歩く。

 一番奥の部屋に連れて行かれると、両手と両脚を固く紐で縛られた。

 頭目は手下のひとりに命令すると、残りのふたりを連れ部屋を出て行く。


「おい! しっかり見張ってろよ」

「あいーっす! げへへっ」


 残った手下のひとりは椅子の背を抱え込むように逆向きに座り、エミリアーナをじっと見つめている。


「貴方、お名前は何ていうの?」

「げへへっ、ハンターっていうんで。覚えてくださいよぉ?」

「ハンターね、覚えたわ。素敵な名前ね?」

「そうでやんしょ? 頭目がつけてくれたんすよ」

「そうなの。頭目は何て名前なの?」


 簡単に名前を教えてくれたハンターに、さすがに頭目の名前までは無理だろう。

 そうエミリアーナは思ったが、ダメ元で聞いてみた。


「ええっとぉ……アイオロスっすね!」

「……! そうなの、教えてくれてありがとう」


 ハンターはお礼を言われて嬉しかったのか、照れながらげへへと笑っている。


「ええとぉ、何だっけ? シル……何とか。シルビ、シルバー……あっ! シルバーウッドっす!」

「えっ?」

「頭目の名前っすよ。アイオロス・シルバーウッドっす」

「シルバーウッド? 何処かで聞いたことがあるような……。どこだったかしら?」


 エミリアーナはアイオロス達が戻ってこないうちに、ハンターからできるだけ情報を聞き出そうと考えていた。

 部屋の中にハンターの笑い声が響く。


「げへへへっ。」

「ハンター? って呼んでもいいかしら?」

「あいっすよ。美人さんは……名前何でしたっけぇ?」

「貴方達、相手が誰かも知らないでこんなことをしたの?」


 エミリアーナが呆れた声を出すと、ハンターは慌てて椅子から落ちそうになる。


「おわっ! ……うっかり忘れただけすよぉ。姉さん、確かエミリアーヌでやんしょ?」

「あら惜しかったわね、エミリアーナよ」

「ああっ、そうだぁ! エミリアーナでしたねぇ。お貴族様っしょ?」


 彼は彼女とのやり取りが楽しいらしく、クルクルと表情を変える。

 ハンターは見た目はまだ若そうに見える。少しばかり明るい色の天然パーマの茶髪と紺色の瞳が印象的だった。


「ねぇ、ここって何処なの? 私まだこの土地に来たばかりで詳しくないのよ」

「ここは俺っち達の、隠れ家のひとつでやんすよぉ」

「そう、場所は分かるかしら?」

「あー、街の外れの方っすかねぇ。前は人が住んでたんすけど、みんないなくなりやした」

「確かに誰ともすれ違わなかったわね……」


 そこでお腹が空いているのか、ハンターのお腹がクルルルと鳴った。

 彼は自分のお腹を手で摩る(さする)


「ちょっと小腹が空いたっすねぇ」

「私の手提げ袋に飴が入った袋があるわ。取り出すから紐を解いてくれない?」

「それは駄目っす。俺っちが頭目に叱られるっすよ」

「……そう、じゃあ貴方が取り出してくれる?」


 エミリアーナはにこやかに微笑むと、腰に付けていた手提げ袋を差し出す。

 ハンターは袋の中を探ると、飴が入った小さな袋を取り出した。


「いいんすかぁ? じゃあ、お言葉に甘えて。げへへ」

「ええ、どうぞ好きな物を食べて。あ! 青い飴は残しておいてくれるかしら? 私、好きなの」

「あいーっす」


 彼は時間を掛けてウサギの形をした赤い飴をひとつ選ぶと、まじまじと眺めたあと口に放り込んだ。

 エミリアーナもひとつ袋から取り出すと、口に入れる。


「うんまいっすねぇ。久しぶりに食べたっすよ」

「まだ沢山あるからもっと食べてもいいのよ?」

「駄目っす。これは姉さんのすから」


 ハンターは丁寧に袋の口を閉じると、彼女の手提げ袋に戻した。

 随分律儀だなと思いつつ、エミリアーナは彼にやさしく問いかける。


「ところで貴方達、なぜ私をさらったのか理由を教えてくれるかしら?」

「あぁ、俺っちも詳しくは知らないんすけど。誰かに頼まれたとかで」

「ハンターは、その相手が誰か知っているの?」

「うぅん……。頭目は俺っちにはあんまり教えてくれないすからねぇ」


 彼は本当に知らないように見える、彼女は心当たりがないこともないが。


「あ、でも結構な報酬をもらえるって聞いたでやんすよ。それに本当はここに連れて来る予定じゃなかったす」

「そうなの?」

「確か別の場所のはずだったんすけど、予定が変わったんすかねぇ?」


 ハンターは首を傾げている。


「そういえば貴方達、最初は私の侍女も連れて行こうとしていたわね?」

「そうっすよ。あの子も連れて行くはずだったんすから」

「どうして彼女もなの?」

「俺っちもよく知らないんすけど、そう指示されたからっす」

「……」


 エミリアーナはなぜエイシャだけが指名されているのか、考え込んでしまう。


「……そう、教えてくれてありがとう」

「げへへへ。いいっすよ」


 エミリアーナはどうにかして、ここから逃げ出す方法を考えていた。


「これから私、どうなるのかしら?」

「うーん、予定が狂っちまいましたからねぇ」


 扉の向こうから、ドカドカと数人の足音と男達の声が聞こえてくる。

 頭目と呼ばれているアイオロスが、部屋に入るなり大きな声を出す。


「おい、ハンター! お前余計なことを喋ってないだろうな?」

「頭目、俺っちなにも喋ってないっすよ!」

「えぇ? 本当かぁ、ハンター」

「デリー、本当だって」

 

 小柄な男に疑われているが、ハンターはブンブンと頭を上下に振って頷く。

 彼のおかげで全員の顔と名前の区別がつくようになった。


「……まあ、いいだろう」


 アイオロスはエミリアーナをじっと見つめた。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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