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嘘つきの護衛に助けられたら皇子でした〜婚約解消から人生逆転〜  作者: 秋月 爽良


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30 読め、そして確認しろ

いつもご覧くださって本当にありがとうございます。

「コホン、エミリアーナ様」

「ええ、リリー。分かっているわよ」


 ふたりは目線で合図すると、クロードの前に立ちはだかる。


「……脱いでください」

「えっ?」


 クロードは、突然のリリーの言葉にポカンと口を開ける。


「いや、あの……」

「脱ぐのです」


 エミリアーナも真剣な顔をして冷静に指示する。エイシャとアダリナは、顔が真っ赤になっていた。


「エミィ姉さん!」

「だって脱がないと、火傷の程度が分からないでしょう?ライバーさん」

「そ、それは……。確かにそうですが」


 煮え切らないクロードにエミリアーナが痺れを切らし、使用人達に目で合図をする。


「ち、ちょっと待ってください。う、うわあぁっ!」


 彼は使用人達によって、ズボンを慎重に脱がされていった。

 療養院で患者の手当をしていたエミリアーナとリリーには、男性の裸を見たところで今更驚くこともない。


「ああ、やっぱり真っ赤になってしまったわね。リリー」

「そうでございますね。しかし処置が良かったのでしょうか、さほど酷くはないようです」


 さすがに下着は履いているが、ふたりにジロジロ見られてクロードは真っ赤になった。

 エイシャとアダリナは、恥ずかしくてこちらに背を向けている。


「ハッ、リリー。突然のことで神聖力があるのを忘れてしまっていたわ」

「エミリアーナ様、まだまだですね? 私は気が付いておりましたよ」

「くっ……驚いて動揺してしまったわ。もっと精進しなければ」


 エミリアーナは苦渋の表情を顔に浮かべると、クロードの前に跪いた。


「な、何をなさっているのですか! お止めください!」

「しっ、静かにしてください。ライバー様」

「じっとしててくださいね。今、治療しますから」

 

 クロードはエミリアーナが自分の前に跪いたので驚くが、リリーに窘められ(たしなめられ)黙り込む。

 彼女は両手を差し出し、真っ赤になっている彼の患部にさっとかざした。


 ドカドカドカッ――。部屋の外から大きな足音が聞こえてくる。バンッと音がして、扉が勢いよく開いた。


「どういうことだ!」

 

 部屋の中にいる者が振り返ると、そこにはハァハァと息を切らしたバートが立っていた。

 久しぶりに見た彼は、なぜか怒りで顔を真っ赤にして叫ぶ。


「なっ!? 何をやっているんだ、君たちは!」

「お待ちください、坊ちゃま! ……エミリアーナ様、お取り込み中のところ申し訳ございません」

「旦那様! お待ちください!」

 

 バートを止めようとしたが、間に合わなかったレーモンは深々と頭を下げる。

 ダッドリーも後ろから走って来ると、息苦しそうに両手を膝についていた。


「そんな格好で、一体何をしているんだ!」

「何って、見れば分かるでしょう?」

「分かるわけないだろう!」


 冷静に彼の質問に返事をするエミリアーナに、バートはさらに顔を真っ赤にする。


「ふむ……。カップのお茶が零れて、火傷されてしまったのですね?」

「ええ、正解よレーモン。さすがね貴方は」

「おやおや、本当ですねぇ。エミリアーナ様、今から治療ですね」

「ええ、そうなの。少し待っていてくれるかしら?」


 レーモンはその場にいる者達に、できる執事を見せつけ澄ました顔をしている。

 ダッドリーの状況把握の能力も、横で怒鳴るしかない唐変木(とうへんぼく)に比べてかなりのものだ。


「そんなことより、どういうことなんだ! 私達の婚姻届が受理されていないそうじゃないか!」

「そんなことではありません。……すぐに終わりますから、お待ちになってくださいませ」


 バートは相変わらず怒鳴っているが、エミリアーナは無視して下半身の治療を開始する。

 彼女の手から放たれる光は、火傷で真っ赤になっている彼の火傷を綺麗に治していった。

 バートの登場にオロオロしていたクロードだったが、大事な下半身から目を離せずじっと注目している。


「よし、これでいいわ。他に痛みはありませんか?」

「は、はい、大丈夫です。ありがとうございました!」


 エミリアーナがクロードの顔を見上げながら、彼に声を掛ける。

 彼は下着のまま素早くエミリアーナの前に跪くと、さっと片手を差し伸べ彼女を立ち上がらせた。


「まあ、素敵な方ね。お気遣いありがとうございます」

「いいえ、治療していただいたのです。当然のことでございます」

「すぐにお召し物をご用意致しましょう」

「取りあえず、大きめのタオルが必要ですねぇ」

 

 レーモンは廊下にいる使用人達に、的確に指示を出す。ダッドリーの言葉に、更に使用人達が忙しく動き出した。


「あ、ありがとうございます!」


 下半身は下着のまま、クロードは礼を言って頭を下げる。

 レーモンが使用人から大きめのタオルを受け取り、クロードの腰に巻き付けた。


「しばらくこれを巻いておかれるとよろしいかと」

「ああ、すみません。助かります」


 やっと大事な下半身を覆うことが出来て、クロードはほっと安堵している。


「お召し物が乾くまでお待ちになりますか?」

「そうですね……。まだお話の途中でしたから、待たせていただいても構わないでしょうか?」

「ええ、もちろんですわ。新しいお茶を用意させましょう。エイシャとアダリナも一緒に座って」


 レーモンの問いかけに、彼は申し訳なさそうに答えた。

 エミリアーナに促されてエイシャ達はまだ頬を赤くさせたままだったが、俯いてソファに腰掛ける。


「なんで僕のことは無視なんだ!」

「――あ!」


 エミリアーナはバートの存在を忘れていたのを思い出した。なので、そっと視線を逸らす。


「……別に無視していたわけではありませんよ?」

「今、あ!ってぼそっと言っただろう! 聞こえたぞ」

「怪我人と貴方の話と……、どちらが優先順位が高いか一目瞭然でしょう?臆病な子犬ではないのですから、そうぎゃんぎゃん怒鳴らなくても聞こえています。

さあ、そこへバート様もお座りになって。お話を聞きますから」

「……さっきの質問に答えるんだ! エミリアーナ!」


 若干馬鹿にされたのが分かったのか、怒り心頭のバートは更に怒鳴る。

 部屋の中にいる者は、異様な様子のバートを凝視していた。


「はぁ……。レーモン?」

「ゴホン。では、私からご説明致します」


 エミリアーナが名前を呼ぶと、彼は部屋の真ん中に出て恭しく一礼した。


「えー、先日城の担当者から封書が届きました。中身は坊ちゃまとエミリアーナ様がご記入済みの、婚姻届でございましたな」

「どういうことだ? それと、坊ちゃまは止めろ」

「失礼致しました、つい。……未記入の箇所がある、ということでございました。それでこちらへ返送されたのだと思われます」

「は? なぜそんなことになっているんだ」

「バート様、落ち着いてレーモンの話を聞きましょう」


 バートが横から、きゃんきゃん口を出してくる。

 エミリアーナが窘める(たしなめる)が、彼は首を横に振って聞く耳を持たない。


「落ち着いてなどいられるか!」

「……旦那様、私は申し上げたはずです。

『記入の際の注意書きが記載してございますので、よく読んで署名なさってください』と」


 バートはレーモンの言葉に一瞬動きが止まった。

 しばらくすると彼は思い出したらしく、怒りか羞恥心かみるみるうちにまた顔を真っ赤にさせた。


「そうだったとしてもだ。なぜ提出前に確認しなかったんだ、お前は!」

「あら。当主が署名した書類を、執事が確認し直すのですか?」

「レーモンがしなくても、君がしてくれても良かったじゃないか……」

「私は貴方の婚約者であって、まだ妻ではありませんもの。成人した大人が署名した書類を確認し直したりは致しませんわ。

貴方もそんなことをされてはお嫌でしょう? 信用されていないということですもの」


 エミリアーナの言葉にバートはうっと言葉を詰まらせる。彼女は澄ました顔でカップに口を付けた。


「あの時は旦那様がお急ぎでしたので、私とエミリアーナ様しかその場におりませんでしたな。

もちろんおふたりがご記入後、すぐに提出致しましたよ? ご指示通りに。

それにあの部屋には、側近のダッドリーもおりませんでしたでしょう? 書類を確認する者はおりません」


 レーモンは確認するようにダッドリーの方を見る。彼は大きく頷いた。


「レーモン、おまえ僕の執事だろう! 職務怠慢だぞ!」

「仰るように執事でございます。……ですが私の忠誠心は貴方ではなく、この辺境伯に捧げておりますので」

「何だと! お前……ここを辞めさせられたいのか!」

「旦那様お止めください! レーモンに無理を言って、ご自分の執事にされたのは貴方ではないですか。

それにこのことが大旦那様に知られてしまったら、またお叱りを受けますよ!」


 反論されるとは思っていなかったバートは驚いて目を見開いているが、ダッドリーによって暴露された事実に皆が呆然としていた。

 

「チッ。じゃあ今すぐ記入するから、ここに書類を持って来いレーモン。すぐに送り返すんだ!」

「あの……ちょっとよろしいですか?」


 クロードが片手を上げ、キョロキョロと周囲を見回している。


「ん? ……よく見たらクロードだったのか、お前どうしてここにいる?」

「それは後で説明する。バートにはこの前のパーティの件で、聞きたい事があるからな?」


 彼の言葉にバートは顔を引きつらせた。


「……婚姻届ですが今すぐ提出したところで、手続きにはふた月近く掛かると思います。確か結婚式はもうすぐでしたか?

式が終わってから提出しても、城で処理されるのは同じ時期になるはずです」

「ライバーさんはよくご存じですのね。理由を教えていただけますか?」


「はい、もちろんです。……もう少しすると収穫祭ですが、城はその出店許可を申請する者で溢れかえるのです。

王国では最大のお祭りですから、通りに出店が沢山出るでしょう? 実はあれは許可制なのです。

年々申請が増えているらしく、各領主ごとに取り纏めてはありますが膨大な数だそうで。

その処理に他の部署からも、かなりの数の人数が駆り出されます。

戸籍を担当する部署も例外ではなく、緊急でない限り処理を後回しにするそうですよ」


 クロードは深呼吸すると、ここに来た時とは違いすらすらと淀みなく語った。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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