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嘘つきの護衛に助けられたら皇子でした〜婚約解消から人生逆転〜  作者: 秋月 爽良


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11 ママコルタ、疑惑のスイッチ入ります

いつもご覧くださって本当にありがとうございます。

 エミリアーナが声に驚いてそちらを見ると、眩しい光は一人の女性の手から放たれていた。


「これは――!」

「見ろ! あっという間に治っていくぞ! それも3人いっぺんにだ!」


 彼女の手から放たれた光は辺りを覆い、ベッドの上の患者をみるみるうちに癒やしていく。

 エミリアーナはその神々しさに見とれてしまい、その場から動けなかった。


「お嬢様……!」


 寄りそうようにリリーが彼女の側へと来る。


「ねぇ、見てリリー。やっぱりティアナ様は――」

「ええ。途轍もない力ですね……」


 リリーは嬉しそうなエミリアーナとは逆に、心配そうな顔をしてこちらを覗き込んでいる。


「どうしたの?」

「いえ、……何でもございません」

「そう? さあ! 私も頑張らなくては」


 彼女は腕まくりをして、次の患者の元へと移動を始める。

 誰かが知らせたのだろうか、ママコルタが扉を乱暴に開け血相を変えて、部屋から飛び出してきた。


「これはどういう事ですか!?」


 彼は周りの聖職者達の襟元を掴み、激しく問い詰めている。


「ど、どうと言われましても……。落ち着いて下さいよ、ママコルタ司祭。

ご覧の通り、彼女が一度に数人の患者を治療してしまったのですよ。それも短時間で」


 彼らも彼にこの事態を上手く説明できず、返答に困っているようだった。


「何てことだ……。まさか――」


 ママコルタは眉間に皺を寄せティアナと患者を交互に見比べると、ハッとした様子でエミリアーナを見た。

 彼はそのまま黙りこくってしまう。

 エミリアーナは不思議に思いながらも、ティアナの力が開花したことが嬉しかった。

 彼女は思うように力が発揮出来ず、ずっと見習いという立場に甘んじていた。

 あまつさえ自身が、聖女としての力を発現させてしまった。


 気まずいエミリアーナとは違い、ティアナは新たな聖女の誕生を素直に喜んでくれていた。

 ならば彼女の成長を祝福して当然だと思う。

 エミリアーナは仲間が出来た事に勇気をもらった気がして、その力を使い患者を癒やしていった。

 この場の患者を治療し終えたが、自宅で寝込んでいる者も多数いるらしい。

 軽症ではあるので翌日以降、順次訪問する事になった。

 宿泊場所となっている領主館へ戻る道すがら、エミリアーナはティアナの側に駆け寄る。


「ティアナ様! 今まで隠されていたお力が、ついに花開かれたのですね!」

「エミリアーナ……。実は私自身も驚いているのよ、まさか急にこんな――」

「ティアナ様は真の聖女様ですから。当然ですわ」

「ありがとう。でもこれで皆さんのお役に立てると思うと嬉しいわ」

 

 ふふん、とエミリアーナの方が何故か自慢げだ。

 ティアナはそっと目を伏せる。

 その様子を後ろからママコルタがじっと観察していた。

 領主館へ戻ると部屋へ一旦戻り湯浴みを済ませ、一同はダイニングルームへ集合することになった。

 少し急ぎ気味にエミリアーナが部屋へ入ると、ママコルタや医師達は何やら議論中のようだ。


「お待たせしてしまいましたか?」

「いえ、我々も今来た所ですから」


 エミリアーナが尋ねると医師の一人がそう言って、まだ濡れている髪をタオルで拭いている。


「貴方もこちらへどうぞ」


 ママコルタは自分の横の席に座るよう彼女に促した。エミリアーナがちょこんと隣の椅子に座る。

 彼は少し言いにくそうに話す。


「今回の病の原因ですが……。

完治したと思われる者から順番に話を聞いたのですが、どうやらジプシーの一団が原因のようですよ」

「ジプシーですか?」

「正しくはジプシーに同行していた女性達ですかね」


 エミリアーナは首を傾げる。


「まぁ……各地を転々とする者達の中には、己の身体を売って稼いでいる者もいる訳でして」

「彼女達が持っていた病気を、貰ってしまったという事なのです」


 向かいの椅子に座っていた医師が、バッサリと言い切った。


「あ! 私がそれとなく、やんわりとお伝えしようと思ったのに!」


 ママコルタは口を尖らせる。


「まあ! そうでしたか……」

「それでですね、治療法なのですが」


 医師はママコルタを無視して話を進める。


「軽症の者は調合した薬で全快すると思われます。しかし残念ながら、重症の者にはとても効きにくいのです」


 我が国には、この病気を完全に治療出来る薬はまだ開発されていないらしい。

 特に平民は高い治療費と薬代を捻出するのは無理だ。


「本日聖女様に治療していただきましたから、後は何とかなるでしょう。

……そろそろ食事の用意が出来たようですよ」


 ママコルタはそう言うとやれやれと呟く。


 病の原因は領主のロンドへ告げられたが、夫婦間の揉め事の原因になる可能性が高い。

 穏便に済ませるため、判断は彼に任せることとなった。

 全員で治療にあたるが、その中でもティアナの力は凄まじく他の者を凌駕していた。

 喜ばしいことであるにも関わらず、何故かママコルタは渋い顔をしている。


「ママコルタ司祭、ご機嫌斜めですわね?」


 エミリアーナがのどかな景色が流れる車窓を眺めていると、侍女のリリーが徐に口を開く。

 数日の滞在のあと領民の病も落ち着いてきたため、王都への帰還が決まった。

 行きとは違い、時間に余裕があるので比較的ゆっくりと進む。


 今回の遠征でエミリアーナもリリーも、ママコルタとかなり打ち解けていた。

 帰りの馬車には前回とは違い、ティアナは乗っていない。

 彼女の神聖力に興味津々な神官達が、こぞって同乗を希望したためだ。

 

「ああ、気分を害されたのなら申し訳ありませんね」

「どうされたのです? この前からずっと難しい顔をなさっておられますよね?」


 リリーは不躾に彼に尋ねる。

 ママコルタはずり落ちそうな眼鏡を上げるが、その顔は全く悪いと思ってないように見えた。

 

「……ティアナ嬢の事ですよ。どうも何か引っかかるんですよねぇ」

「それはどういう事です?」


 エミリアーナが不思議に思って尋ねると、ママコルタはしばらく考えて頭をガシガシとかいた。


「私は彼女とそれ程長い付き合いではありませんが。

長く神殿にいる者に聞くと、このような事態が発生した事は一度も無いと」

「それはティアナ様の潜在能力が開花されたのではないのですか?」

「そう言われればそうかもしれませんが。彼女の時は、神殿の水晶がほとんど光らなかったそうなんですよ。

貴方の時とは雲泥の差だったそうです」


 ママコルタは腕を組み、天井を睨み付ける。エミリアーナにとっては初めて聞く話だった。


「そもそも人の神聖力というのは、最初から決まっていると昔の文献に記載してあります」

「では増える事はないと?」


 リリーが口を挟む。


「ええ。絶対にそうかと言われると、こちらとしては検証のしようもないので言い切れませんがね。

ただ文献を読む限りそうとしか」


 彼も聖職に就くひとりだ、そういったことは常々勉強しているのだろう。よく書物を小脇に抱えているのを、エミリアーナは見かけていた。


「でも私とティアナ様と、聖女が二人に増えたのなら良いことではないのですか?」

「それは確かにお嬢様の言う通りですね」

「まあそうですが」

 

 リリーはうんうんと頷く。ママコルタはまだ納得していないようだ。


「もしかしてお嬢様の力が影響して、ティアナ様のお力が増幅されたとか!」

「その可能性も捨てきれませんねぇ。我々の考えが及ばない次元の話なのかもしれません。

元々神聖力というのも不可解なものですから」


 彼は無遠慮にエミリアーナを見つめている。


「そういえば先日ティアナ嬢から何か贈り物を頂いたとか」

「ええ、綺麗な石がはめ込まれているネックレスを頂いたんです」


 エミリアーナは首元を手で押さえ嬉しそうに言う。


「でも今回の遠征には持って来ていないんですよ、紛失すると困りますから」


 リリーがまた口を挟む。


「そうでしたか。それを着けて体調に変化はありました?」

「無かったとおもいますよ。そうよね? リリー」

「そうですね……。多忙で目眩を起こされることはありましたが、他は特にありませんでしたね」


 探るように尋ねるママコルタに、エミリアーナはきょとんとした顔をする。


「いつか見せていただいても構いませんか?」

「ええ、もちろんいいですよ」

「……ああ、それと。おふたりとも折角今回の遠征で親密になれたのですから、司祭呼びはもう止めませんか?

是非、ママコルタとお呼び下さい」

「親密って言い方はどうかと思いますよ……」

「誤解を招きますね」


リリーとエミリアーナは眉をひそめ、顔を見合わせる。


「流石に呼び捨てにはできません。そうですね……、ママコルタさんでは駄目ですか?」

「そうですね、お嬢様。そうしましょう」

「まあ、今はそれで手を打ちましょう。では改めてよろしくお願いしますね」


 ママコルタは少し残念そうに笑う。気づけば王都まであと半分の所まで進んでいた。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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