99話 後衛担当とポーションの性能
俺たちが子爵領に来て一週間が経った。今日は騎士団の後衛担当の依頼を受ける日だ。早朝から子爵領正門前集合と気合の入りようの違いに俺たちは少しの期待と不安を覚えた。
俺たちは依頼に遅れまいと集合時間の三十分前に着くように宿を出た。すると俺たちの後ろからガシャンガシャンと多数の金属音がした。俺たちはすぐに騎士団だと気がついた。俺たちはその騎士団に追い付かれなように少し早歩きで正門に向かった。
正門には槍を持った騎士がいた。その騎士はたった一人でそこに立っていた。でもその雰囲気はただの騎士ではなかった。使い込まれて傷が無数にある防具に柄の部分は返り血と切り傷が刻まれており、歴戦の猛者であることがひしひしと伝わってきた。俺たちが正門前で待っているとさっきの騎士団もやってきた。
「お前ら冒険者に遅れを取るとはどういうことだ!」
「「「はっ!」」」
俺たちは騎士団の急なやり取りに驚いた。自衛隊を彷彿とさせるその様子に俺たちは見入っていた。
「罰として腕立て五十回!始め!」
「1!2!3!…」
騎士団の団長らしき騎士が命令して腕立てを五十回やるのを俺たちは傍で見ていた。しばらくすると騎士たちは五十回終え気をつけの体制で次の指示を待っている。騎士団の団長らしき人が俺たちを含め後からやってきた冒険者にも指示を出した。
「俺の名前はディーノ・ハイネス・フリムガンだ。この騎士団の団長を勤めている。今日はお前たち冒険者には俺たち騎士団の後衛を担当してもらう。役割は主に三つだ。まず騎士団の援護だ。基本的に騎士団は防御陣形を取って魔法使いが後方から射撃して魔物を殺す。その際に冒険者諸君には魔法使いを守ってもらう。次は近接戦闘に自信のあるやつは騎士団と共に前衛で戦ってもらう。これは実際には前衛が仕留め損ねた魔物を殺す立ち位置だ。最後は物資運搬だ。行きは食糧や水、帰りは魔物の素材や傷ついた騎士たちを運んでもらう。何か質問のあるやつは?」
俺たちは特に質問はなかったため何も反応を示さないでいると一人の冒険者が手を挙げた。団長がその冒険者の発言を許すと冒険者は言った。
「俺たちは雑用ってことですか?」
何気なく言ったであろう口調に団長は眉を顰めて答えた。
「戦士に雑用はおらん!お前たちは共に戦う戦士だ!ただ、騎士団の邪魔になるような行動は我々の負け筋となる。したがって、冒険者諸君には騎士団の邪魔にならず、それでいて君たちにしか務まらない役割を設けたのだ。」
団長の気迫は凄まじく熱意と信念を感じた。この人の元についている騎士団の気持ちがよく分かった。
「他に質問があるやつはいるか?」
団長の言葉を聞くとリベルが手を挙げた。俺は少し驚いた。何か不満や意見を言うのかと考えているうちにリベルは言った。
「魔法が使える冒険者は騎士団の魔法使いと共に魔法を使ってもよろしいでしょうか?」
「お前らは魔法が使えるのか?」
「はい。」
俺たちに団長の視線が向いたため頷いて使える意思を示した。
「そうか…少し待ってくれ。」
団長はそう言うと二人の騎士と何か相談をしているようだった。冒険者が魔法を使えるのはレアケースではないと思っていたが、そうではないのかも知れない。
「よし。魔法が使える冒険者は我々の魔法使いと共に射撃してくれ。魔法の種類は問わないが、決して騎士団の邪魔になるような魔法は使わないと約束してくれ。」
俺たちが頷き沈黙が流れると団長が不機嫌そうな顔で言った。
「遅いぞ魔法師団!」
俺たちは後ろを振り向いた。そこには騎士団と同程度の数の魔法使いがいた。騎士団とは違い魔法使いたちは黒いローブを羽織っていた。騎士団の防具と同様に魔法師団は黒のローブが戦闘服なのだろう。
「事前に遅くなるとは伝えていたはずだが?」
「それは知っているが、もう少しなんとかならんのか?」
「無理だな。我ら魔法使いは魔力が命だ。枯渇せんためのアイテムや対策、作戦が必要不可欠なのだ。今回も戦場で足手纏いにならぬための準備をしていたら時間がかかっただけのこと。遅れたことには謝罪するが、これは騎士団を守ることにもつながることをお忘れなく。」
風格のあるおじさまが騎士団長に言うと、騎士団長は正論からか何も言えなくなっていた。
「申し遅れました。私は魔法師団長のモーディ・ハイネス・フリムガン。そちらの騎士団長ディーノの双子の兄です。」
俺たちは驚いて声も出なかった。年齢が近く親しげに話していることから同期なのかなと思ったいたが、まさか双子だとは思わなかった。言われてみれば顔のパーツがそっくりなのが分かる。
「そんなことは置いておいて、今回の作戦に異論がないなら出発する。良いな?」
「「「はっ!」」」
騎士団が返事してどうすると呆れたが、作戦に支障が出たりはしないかと考え気にしないことにした。
騎士団と魔法師団が前を歩き俺たちが冒険者が後ろという形で目的地まで歩いた。騎士団約三十、魔法師団約三十、冒険者約二十の総勢約八十人で向かった先は外界付近だった。
リベルの話によると、外界は学園長が莫大な魔力を用いて作った風魔法のアイテムによって断絶されており、それは魔物を通さないものとなっているそうだ。でも完璧とは言えず、時々魔物が侵入する。俺たちは今からその魔物を討伐するのだ。
普段歩かないから俺は三十分も歩いただけで息が上がってしまった。その様子を見たリベルとジュナに体力の少なさを笑われてしまった。俺は今度からは歩いてるように見せて一人だけ飛んで移動することを決めた。
それからもう少し進むと遠目に黒い塊が見えてきた。かなり距離が離れているにも関わらず見えるということはそれだけ大きなことが分かる。全員がそれに気づくと騎士団長と魔法師団長が指示を出した。
「騎士団防御陣形!」
「魔法師団戦闘体制!」
双子らしい息の合った指示に各団はその指示に従った。
「冒険者は魔法使いを囲うように待機!」
「魔法を使える者は私の指示を待機!」
冒険者にも的確な指示を飛ばして俺たちはそれに従い魔法のイメージを始めた。そこは開けた草原で所々に木があるだけの場所なため俺はそこそこ大きな火の玉を何十もイメージした。リベルは雷魔法をジュナは火魔法をイメージした。二人とも手のひらに魔法を出していた。俺魔物に警戒されては本末転倒だからまだ出現はさせないようにした。魔法師団の人たちは半分だけが魔法をイメージしている。団全員の魔力効率を良くするために半分だけなのだろう。
「来るぞ!」
騎士団が叫ぶとそこには見たことない魔物が数多くいた。バルンのように熊ぐらいの大きさの魔物から犬よりも小さい魔物までいる。俺が恐怖心の中見ていると反応が遅れてしまった。
「ぐっ!」
「ふっ!」
魔物たちが騎士団の大盾に突進してきていた。火魔法では騎士に影響があると思い、後ろから来る魔物たちに火魔法を打った。効果覿面で大型の魔物も討伐できた。今度は騎士たちの目の前にいる魔物に氷魔法を打った。イメージを凝るのではなく、騎士を守る思いを込めた。
「助かった!」
「残党狩りだ!」
「うおおお!」
「冒険者行くぞ!」
ある程度討伐し終わったら騎士たちが前に飛び出し始めた。それに続いて近接戦闘が得意な冒険者も飛び込んだ。その光景は虐殺だった。俺たちが討伐しないと一般の人が危険に晒されるとはいえ酷くて見るに耐えなかった。でも自分がやったことから目を背けてはいけないと思い目に焼き付けた。
「よし!第一波制圧完了!第二波に備えて各自休んでおけ!冒険者もな!」
「前衛と後衛を入れ替えて先ほど魔法を使った人は休んでおくように。消耗が激しいのなら躊躇なくアイテムを使うこと!」
各自指示を出して一時休憩となった。俺たちが運んできた食糧と水を出し騎士たちを労っていると、魔法師団長がやってきた。
「話をしたいのだが、良いかな?」
俺たちは唐突な話に何か怒られたりするのかと怖気付いていると魔法師団長は優しく言い直した。
「君たちの魔法の高みを見せて欲しいんだ。さっきの魔法も見ていたが、あれは全力ではないなだろう?」
俺たちは今の一瞬で見抜かれて驚いた。きっとこれが経験の差なのだろう。余裕を見透かされたのかグロウのように魔力感知に長けているのかは分からないが、俺たちは話をすることにした。
「はい。騎士の皆さんの邪魔にならないように控えめにしました。」
俺が応えると魔法師団長は目を見開いた。
「やはりそうだったか!三人ならあの規模の魔物もすぐに殺せるのだろう?」
俺たちは確信が持てず何も言えなかった。それに気がついたのか魔法師団長が続けた。
「君たちはまだ若いし分からないよね。ごめんね。でも恐怖心に負けずその才能を磨いていって欲しいな。」
そう言い終えると魔法師団の所に戻っていった。俺たちも落ち着き少し休んでいるとどこからともなくドドドと足音が聞こえてきた。
「防御陣形!」
「攻撃体制!」
俺たちは再び魔法を準備した。俺は騎士たちに邪魔にならないように遠くの上空に小さな火の玉を出現させた。それに当たった瞬間ガス爆発のように爆発するイメージを込めた。感情まで込めると強くなり過ぎると思いそこで止めておいた。リベルとジュナは俺の魔法を見てイメージする手を止めた。俺の魔法だけで大丈夫だと踏んだのだろう。
イメージが終わると同時に魔物の群れが俺の魔法の下に来た。俺は魔物の群れの中心に魔法がくるように落下させた。俺の魔法は魔物の群れを中心から円形に吹き飛ばした。それを見て騎士団も魔法師団も驚愕していた。残った魔物はリベルとジュナが討伐してくれた。
「だ、第二波制圧完、了…」
みんな俺の魔法の痕に近づき物珍しそうに見ていた。俺はこんな反応をされるとは思わずなんだからむず痒くなってきた。魔法痕を見てきた魔法師団長が俺の前に立って言った。
「うちの魔法師団に入るかはないか!?いや私が弟子入りしたいぐらいだ!」
そう言うと魔法師団の皆さんが駆け寄ってきた。
「団長ズルイですよ!俺だって弟子入りしたいです!」
「わ、私も!」
「俺だって!」
俺たちはあっという間に周囲を囲まれてしまい身動きが取れなくなっていた。そんな時騎士団長が叫んだ。
「第三波が来るぞ!」
その言葉を聞くと瞬時に先ほどの陣形に戻った。オンオフの差に俺たちはすごいと感心する一方で、俺たちは早く準備しないとと焦った。その時ネリーから買ったポーションを思い出した。魔法をイメージしている暇はないと思いポーションを飲んだ。俺が飲んだのは強靭上昇のポーションだ。それに倣いリベルもポーションを飲んだ。リベルは力のポーションを飲んだ。
「来るぞ!」
準備が遅かったことから第一波より魔物が多く騎士たちは辛そうだった。俺はすぐに騎士たちの元に駆けつけ、飛びながら火魔法を刀のような形にイメージして、リベルは剣を取り出し騎士たちの前に躍り出た。
俺は魔物の手が届かない所から的確に頭と首を狙い切り、リベルはその技術を大いに活かして魔物の単調な攻撃を避けながら討伐していった。攻撃を喰らわないように立ち回っていたからポーションの性能は確かめられなかった。
俺たちが魔物を討伐する様子は双子が踊っているように見えることから『双子の討伐舞踊』として、子爵領で語り継がれることとなった。
次回もお楽しみに