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98話 ポーション

俺たちが地下に降りるとそこは薄暗く誰が見ても研究室と答えるであろう部屋があった。そこには夥しい数の実験器具とポーションがあった。今もなお実験を続けていることが火にかかられた丸底フラスコを見て分かる。


「何が欲しい?治癒、力、俊敏、強靭今あるのはこんなところだね。素材と金さえあれば何でも作るよ。」


魅力的な話だが、俺はポーションの知識がこれっぽっちもないからリベルに頼ることにした。


(どうしたら良い?治癒は俺ができるけど一応買っておく?後者三つは良いと思うんだけどリベルはどう思う?)


(そうだね…治癒一つと強靭を買うのが良いかな。)


(金額はどれぐらいまでだ?)


(ここのポーションの相場が分からないけど、この人が直々に連れてきたぐらいだし、高価って言ってたから一つに金貨五枚までかな…)


俺は頷き店主に内容を伝えた。


「治癒と強靭を一つづつ。金額はいくらだ?」


「毎度あり。金貨二枚だよ。」


俺は案外安いなと思ったが、リベルは俺以上に驚いていた。目を見開き口を開けて驚いていたリベルの顔はどこか滑稽だった。その顔に思わず吹き出しそうになったがギリギリのところで我慢した。


「ど、どうしたんだリベル?」


俺は笑わないように力を入れながらリベルに聞いた。するとリベルから帰ってきた言葉に驚いた。


「だ、だって普通に良いポーションで金貨一枚が相場だから金貨五枚までは覚悟してたのに、良い意味で安すぎるから驚いたんだ。」


「へーじゃあこの人がすげー良い人って可能性とこのポーションが普通に良いってだけのポーションって可能性があるんですね。」


ジュナの無神経な発言に店主は静かに言った。


「ボクはね自分のポーションに誇りを持ってるんだ。そこらの質の悪いポーションで死んだ冒険者を何人も見てきた…だから普通のポーションよりは高価だけど手を伸ばしやすい価格で冒険者に売ってるんだ。でもボクのポーションは副作用もあるから経験豊富な冒険者か知識のある冒険者じゃないと危険だから、こうして表には出さないんだ。君たちにだって死んでほしくないから安価で質の良いポーションを売ってるんだ。全部ボクの偽善だってのは分かってるけど…もう大切な人を失いたくないんだ…」


途中から店主の声は上擦っていた。最後の言葉は完全に涙を流しながら言った言葉だった。俺たちはどうしたら良いのか分からず見ていることしかできなかった。俺は居た堪れなくなり店主に声をかけた。


「店主さんは優しいんですね。俺たちで良ければ相談に乗りますよ。」


俺がそう言うと店主は顔を上げた。俺は店主の涙を拭い近くにあった椅子に座らせた。店主は落ち着いてから話し始めた。


「遅くなったけど、ボクはネリー・フィリップ・シーティリング。気軽にネリーって呼んでくれ。君の言葉に甘えてボクの悩みを吐き出して良いかい?」


「はい。」


俺たちも椅子に座り真剣に話を聞くことにした。


「ボクには幼馴染の男の子がいたんだ。その子はいつも楽しそうに剣術を学んでいて、ボクはいつも側でその子を見ていた。ボクたちが大人になるに連れて次第に恋愛感情を持つようになったんだ。十五歳を過ぎてからボクたちは結婚した。本当に幸せだった。結婚してからボクたちは冒険者として生きていくことにした。危ない場面も二人で協力して何とか乗り越えてきた。五年間冒険者を続けて生活も安定してきたある日、彼がダンジョンに行こうって言ったんだ。ボクは特に何も考えず二つ返事で行くことになったんだ。でもそれが間違いだった…ボクの心が脳が彼を失った事に耐えきれず、ダンジョン内の記憶がないんだ。彼を失った瞬間の記憶もない。最期の言葉すら分からない…だからこんな辛い思いをする人を一人でも減らそうとポーション制作に打ち込んだんだ。ボクのポーションで誰が救えたか、救えなかったかは分からないけど、一人でも犠牲者を減らすためにポーション制作に心血を注いでるんだ…聞いてくれてありがとう。心が軽くなったよ。」


俺たちはただ黙って話を聞いていた。アイネが経験した壮絶な過去を自分に置き換えて何も言えなかったのだ。俺たちが黙ってるとネリーが続けた。


「話を聞いてくれたお礼として代金はいらないよ。でも一つだけ協力してくれ。死なずにボクの元に帰ってきて、ポーションの効果や副作用を事細かく教えて欲しい。ボクも自分で実験してるんだけど、実際に戦ったりはしないから分からないことが多いんだ。だからお願いできるかな?」


「もちろんです。」


「ご助力させてください。」


「はい!」


俺たちが肯定的に返事をするとネリーは涙を拭い笑って返事をした。


「頼りにしてるよ!」


俺たちはポーションの説明や効果、副作用を聞いてから店を離れた。その日はネリーの話を聞いて心が沈み何も手につかなかった。でも確かに俺たちの心は数段大人になったことを自覚できた。

次回もお楽しみに


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