96話 子爵領
俺たちは次の目的地を決めるためにシュルラーから出て少し歩いた所で止まり三人で話し合いを始めた。
「よしここで三人同時に十回回って行く方向を三つに絞ろう。その三つから次の目的地を決めるで良い?」
「良いよ。」
「異論なしです。」
俺は奇抜な決め方にどうなるのかワクワクしていると、賛同を得たリベルがそのまま続けた。
「それじゃあ僕が掛け声をかけるから同じタイミングで回り始めてね。」
「「はーい。」」
「それじゃあ3、2、1始め!」
俺たちは回り始めた。側から見たらかなり奇妙な光景だろうが、俺たちはそんなこと気にせず回った。1から10まで三人で数えながら回った。
「終わってもまだ目は開けないでね!」
リベルが10になる手前で言った。
「「「10!」」」
全員が同時に回り終えるとリベルが言い放った。
「はい、目は瞑ったまま!」
俺たちはリベルの言葉に従い目は開けずに待っていた。
「いっせーのーでで開けるよ。いっせーのーで!」
俺たちはリベルの掛け声に一切に目を開けた。俺たちは三角形になるように立っていたが俺が目を開けると二人の姿は見えなかった。でも俺の後ろで二人が驚いている声が聞こえた。俺は何に驚いているのかと思い振り返ると二人と目が合った。俺は二人が驚いていた理由が一瞬理解できなかったが、すぐに気がついた。人によって回る速度は違うはずなのに俺たちは全く同じ方向を向いていたのだ。それに気づいて俺は驚いて声が出た。
「え!?こんなことあるのか!?」
「ね!凄いよね。」
「これが俺たちの絆ですよ!」
ひとしきり興奮を分かち合った後俺たちは見ていた方向に飛んだ。ゆっくりマイペースに飛んで行くことにした。前まではシュルラーに行くという目的や魔物討伐に向かうという何か目的があり飛んでいたが、今回は違う。魔法の授業という目的はあるが急ぐ必要はないと考えいつもよりゆっくり飛んでいるのだ。しばらく飛んでいると左手に沼地が見えてきた。したがって俺たちは今南西に進んでいることが分かった。でも俺はエクサフォン国の領土分布などは知らず、どこに向かっているのか心配になりリベルに聞くことにした。
「なぁリベル、俺たち今どこに向かって飛んでるんだ?」
「子爵領だよ。メガフォーン家だからワーナーの実家だよ。」
「あぁ!ワーナーの!」
今自分たちが向かっている所が友人の実家だと分かり安心と驚きを覚えた。それと同時にジュナが不思議そうな顔をしながら聞いてきた。
「ワーナーって誰ですか?」
ジュナには学園のことは詳しく話していなかったと思い出し説明した。
「ワーナーは学園の友人で蛇の使い魔がいるんだ。話しやすいし優しいし誰でも仲良くなれるタイプだな。」
「蛇の使い魔ってどんな感じなんですか?」
俺はジュナの質問にどう答えれば良いのか分からなかった。ナーガは普通の蛇っぽいし大きさも大きすぎず、小さすぎないごくごく普通の蛇だ。でも紹介する時に普通という言葉は相手に失礼だと思い、乏しい語彙力で言葉を選んでいるとリベルが説明し始めた。
「ナーガは水と風魔法が使える蛇で使い魔競技会ではワーナーと協力して大雨と暴風を魔法で出現させたんだよ。最後にはそれはそれは大きい大蛇を出現させたんだ。それがナーガなのか魔法なのか聞いてないから分からないけど、それだけ凄いペアなんだよ。ま、僕たちには及ばないけどね!」
俺は時々リベルの自意識過剰ぶりには頭を悩ませる。実際実力に伴った発言しかしていないから反論もできないし、常に上を見据えていると疲れるだろうから息抜きも必要だろうから何も言わないようにした。
「それよりも凄いってリベルさんたちはどんな魔法を使ったんですか?」
目をキラキラさせているジュナにリベルは待ってまたしたと言わんばかりに俺たちの魔法を話し始めた。
「まず僕たちは大昔公爵家と友好関係を結んでいた炎龍を再現しようとしたんだ。でも炎龍だけじゃ物足りないなって感じてエクサフォン城も作ったんだ。そして最後はリフォンのアドリブで炎龍を花火に変えてフィニッシュって感じだよ。その盛り上がり様は凄くてみんなスタンディングオベーションだったよ。」
一見眉唾のように聞こえる話だが、全て実話なのがリベルの自信に拍車をかけているのだろう。俺も誇らしは誇らしいのだが、決して慢心したりせず日々邁進している。
「凄いですね!いつか機会があったら見せてください!」
「もちろん見せてあげるよ!」
そんな会話を楽しんでいると時間というものはあっという間に過ぎていき大きな街が見えてきた。ペタフォーン領よりは領地は大きくないが、一つ一つの家が大きく離れていても分かるほどだった。子爵領は屋敷と街がかなり離れているのが特徴的だが、メガフォーン領は家が大きいのが特徴的だ。
「あっ!見えてきましたね!ん?なんか家デカくないですか?」
俺も家のサイズが他と比べて大きいことには気づいていたがジュナも疑問に思ったようだ。そんな俺たちの疑問を晴らすようにリベルが話し始めた。
「子爵領の人たちは昔、外界の魔物たちの襲撃に備えて家を大きくして、自分たちの身を守ってたのが今でも続いてるらしいよ。でも今は強い外界の魔物が東側に移ったから名残だけが残ってるんだって。」
俺は博識だなと感心した。でもなぜ強い魔物は東側に移ったのか疑問に思った。だからと言ってすぐに人に聞いていては自分の知識にならないと思い自分で考えてみた。
まず考えられるのは環境の変化や食べ物の量だ。環境変化には流石の魔物でも堪えるだろうし、食べ物が少なければ他の場所に移動するからだ。
次は魔神教団などの人為的な理由だ。流石に魔神教団とは言え外界に拠点を置いたりはしないと思うが、外界で実験などを行い魔物が離れた可能性はあると考える。
自分一人ではこのぐらいしか出てこないのが情けないが、外界のことだし分からないことが多いと決めつけ答えは出さないようにした。でないと自分の学のなさに落胆してしまうからだ。そんな悲しい考え事をしていると子爵領が近くなり俺たちは近くに降りた。
「とりあえず子爵領で何する?」
「あー…確かに何ができるんだろ?」
俺は来てみたは良いが子爵領で何ができるのか、何を学べるのか知らずどうしようか悩んだ。でもジュナは違った。
「とりあえず入りましょうよ。何があるのか、何ができるのかなんて分からなくても良いじゃないですか。それに入ってみないと分からないことだってあります。ほら行きましょう!」
そう言われ俺たちは手を引っ張られた。引っ張られながら歩いていると門番が見えてきた。やはり治安が良くないから身分が確認できないとどこにも入れないのだろう。
「身分証を。」
門番が無愛想に言うとリベルは紋章を取り出した。そこでもシュルラーと同様の反応が見られた。俺とジュナはまだ慣れないから少し驚くのだが、リベルはもう慣れているのか無反応だった。
子爵領に入ると家の大きさに驚いた。二階建てにも関わらず家の大きさは普通の二階建てに比べて1.5倍ほど大きく見えた。街並みの目新しさに心弾ませていると目の前が騒がしくなってきた。俺たちは何か催し物があるのかとワクワクしながらそこに近づくと、威厳のある三十代ほどの男性が歩いてきた。周りの人たちはその男性のことを口々に言っているようだった。その男性の邪魔をしてはならないと思い端に避けようとするとリベルに袖をつままれ止められた。
「邪魔になるだろ?」
俺がリベルにそう言うとリベルは無言のままだった。徐々に男性が近づいてくると俺たちの目の前で立ち止まり片膝をついた。俺はその光景に呆気に取られていると男性が話し始めた。
「お久しぶりですロードリベル。何もない所ですが、ごゆるりとお過ごしください。」
「お久しぶりですウェリル卿。私たちは学園の特認実習でお邪魔させていただいているだけですので、今後このような対応はお控えください。後、私たちはただの学生兼冒険者ですのでもてなしなどは結構です。」
公爵家モードのリベルを初めて見た俺とジュナは今までの雰囲気とは違うリベルに驚愕した。
「そう言うことであればどうぞご自由にお使いください。それでは失礼致します。」
そう言い終えるとウェリルは来た道を引き返した。リベルはウェリルの対応にか公爵家としての対応に疲れたのか一気に表情が暗くなってしまった。そんなリベルを心配して俺たちは宿を取りリベルを休ませた。人目から離れられたからかリベルの顔色は少しづつ良くなっていった。俺は大丈夫かリベルに確認した。
「顔色悪かったけど大丈夫か?」
「なんとかね。公爵家だからってこんな面倒くさいことするのもう嫌だよー!」
リベルが駄々というか愚痴をこぼした。普段とは似ても似つかない様子に俺たちは面白くなり少し笑ってしまった。でも本当に面倒くさいのかリベルはそのまま一日中宿のベッドでゴロゴロして一日を潰した。
次回もお楽しみに