92話 放っておかれたリベル
「おかえり…」
リベルは何とも言えない顔で部屋の中央に立っていた。その様子は何とも言い表せない様子で俺とジュナはただ見ているしかなかった。
「た、ただいま…」
「ただいま帰りました…」
俺たちはただいまと言うことしかできなかった。
「僕が何を言いたいか分かる?」
俺は頭をフル回転させた。放っておいたことなのか何も言わなかったことに対する謝罪か何を言えば良いのか分からなかった。そんな俺たちに呆れてリベルはため息をついた。そして俺たちに言葉を言い放った。
「僕も行きたかった!」
俺たちはその言葉に安堵と呆れから一気に体から力が抜けて膝から崩れ落ちた。
「そんなことかよ!」
「そんなことってなんだよ!僕にとってどれだけのことか分かってないよ!僕だって…僕だって!」
こんなに感情をあらわにして怒ったリベルは初めてでどうすれば良いか分からずとりあえず謝った。
「ごめん!でも酔ってるリベルを連れて行くのは危険だと思ったんだ。決して置いて行きたくて置いて行ったわけじゃないんだ!」
俺は必死に弁明した。するとリベルは意外な反応を見せた。
「僕が悪いのは分かってるけど何か一言欲しかった!僕が一日どんな気持ちで過ごしてたか分かる?それはもうすごく寂しかったんだよ!だから今日一日は二人に僕の寂しさを埋めてもらうからな!」
「「えー…」」
俺とジュナは呆れて声が出なかった。それから俺たちは一日かけてリベルがやりたかったこと全てをやった。三人で食べ歩きやシュルラーの所謂繁華街と言われるような所に行ったりして一日を満喫した。
「満足ですか?」
俺は宿の帰り道リベルに聞いた。するとリベルは屈託のない笑みで俺に言った。
「僕の我儘に付き合ってくれてありがとう。ジュナもね。本当は僕が悪いのにごめんね。」
謝る時は申し訳なさそうな顔をしながら言っていた。俺はその顔に罪悪感を覚えた。書類上双子になったのにこんなに早く裏切ってしまった自分を殴りそうになった。
宿に帰ってきた俺たちは川の字になって眠りについた。その日は冬なのに汗をかくぐらい布団の中が暖かかったのは言うまでもない。
翌朝俺は二人の中央で暑苦しくて目を覚ました。二人の腕の力が強く、抜け出せないと判断した俺は猫の姿に戻り二人の束縛から抜け出した。そして人の姿に戻り朝シャンを楽しんだ。俺が朝シャンを終えると二人は起きていた。
「おはよ。」
「「おはよー。」」
二人のシンクロに感動しつつ俺は今日の予定を聞いた。
「今日は何する?魔物討伐にでも行くか?」
「今日はギルドに行って良さそうな依頼があったらそれをやってなかったらカラバザールにでも行こうか。」
「え!?」
俺は急な提案に声が出てしまった。リベルは王都にいた時からオークションやアイテミーなどに立ち寄っては何か買っていたほどそのような類には目がないのは分かっているが、まさかカラバザールを知っていたとは驚きだ。俺はついこの間アイリーさんから教えてもらったから、きっと冒険者の中でに初心者にカラバザールを教えるのが当たり前となっているのだと感じた。そんなことを考えていると何も知らないジュナが不思議そうな顔をしていたので俺は説明してあげた。
「ジュナ、カラバザールっていうのは冒険者のための施設なんだ。そこではアーティファクトだったり迷宮から持ち帰ったアイテムを売買する場なんだ。さらにそこでは賭博も娯楽の一つとされていて冒険者が楽しめる所なんだ。」
「それって合法ですか?」
ジュナの反応は最初の俺と似ていた。でも違うのは顔が少しニヤけていたのだ。顔に行きたいと書いてあるのが見え見えだった。俺は二人とも行きたがっているのが分かり止めようとしたが、俺が味わったカラバザールの雰囲気を味わって欲しいと思い背中を押すことにした。
「もちろん合法だよ。二人とも行きたいんだよね?」
「「うん!うん!」」
二人は力強く頷いた。その光景に思わず笑みがこぼれてしまった。
「分かったじゃあ行こう。でも無駄な物、高すぎる物、実用性が見出せない物は買わないこと。これを守って無駄な出費を抑えること。金銭管理も立派な冒険者の仕事の内です。」
「「はい!」」
二人は笑みを消し真剣な眼差しで返事をした。二人は良い意味でも悪い意味でもメリハリがしっかりしているから、こういう時にボロが出ず話の流れのままになってしまうことが多いなと心の中で反省した。
次回もお楽しみに