89話 共同討伐のお誘い
宿の扉が開く音がした。
「おかえり。」
俺が帰ってきたリベルとジュナの方を見て言うと、リベルの顔は火照っておりジュナが肩を貸している状態だった。外から入ってきた風にのってお酒の匂いが俺に運ばれてきた。
「うっ!」
俺は強烈な匂いに思わず鼻をつまんだ。
「リフォンさん助けてくださいよ〜。」
酔っ払ったリベルの介抱をしてくれていたジュナに変わって俺が介抱することにした。
「ほらリベルとりあえず水飲め。」
「おーリフォーン…お酒って美味しいんだねぇ〜…」
「飲み過ぎには気をつけろよ。」
俺がコップに水を入れて渡すとリベルは飲み干し服も着替えず眠ってしまった。寝たのは良いが匂いがどうも気になるので、風魔法でリベルの周りを区切り匂いが部屋に充満しないようにした。
「本当に疲れましたよー…」
「お疲れお疲れ。」
「俺を癒してください。リベルさんを介抱した苦労を猫の姿で癒してください。」
「え?ま、まぁ良いけど…」
俺はジュナの要求の意図が読めず言われるがまま猫の姿に戻った。
「うわー!モフモフだ最高!」
ジュナは声を高くして俺のことを抱きしめた。一メートルを裕に超える体躯を存分に堪能するためにベッドに寝転がり俺を抱き枕のようにした。あまりの心地良さと疲労からジュナはすぐに眠ってしまった。ジュナの腕の中から抜け出すことができないから俺もそのまま寝ることにした。
翌朝俺とジュナはまだくっついていた。俺は緩んだジュナの腕の中から抜け出して人間の姿になり伸びをした。時々猫の姿に戻るのも悪くないなと思った。
「おはようございまーす。」
「おはよ。リベルは…そりゃまだ起きないか。」
リベルはまだ爆睡していた。無理に起こしても可哀想だから俺たちはリベルをそのままにして朝御飯を食べに行った。腹ごしらえも終わり俺たちはギルドに向かった。
「どうする二人でやれそうなやつやるか?」
「そうですね。でも基本的に俺たちどんな魔物でも討伐できますし適当なやつで大丈夫じゃないですか?」
「慢心は身を滅ぼすぞ。」
「はい…」
そんな会話をしているとギルドの入り口付近が騒がしくなってきた。ジュナが野次馬に混ざろうととしたが俺はジュナの首根っこを掴み止めた。
「何で止めるんですか?」
「俺たちに関係ないだろ。それに今依頼を吟味してる最中なんだからこっちに集中しろ。」
俺とジュナが依頼書を吟味していると後ろから俺たち二人の間に入り肩を組んできたやつがいた。
「「わぁ!」」
俺たちは驚きの声を上げた。
「アハハすまんすまんそんなに驚くとは思わなかった。」
俺は聞き覚えのある声に振り向きながら言った。
「俺は良いですけどジュナは初対面なんですから距離感を考えてくださいよ。」
そこにはアイリーさんがいた。後ろにはルイバディの皆さんがいた。
「そんなに硬いこと言うなって。アタシとリフォンの仲だろ?」
「こちらはルイバディのアイリーさん。そしてこっちは俺の旅仲間のジュナです。」
俺は両者に互いの情報を伝えた。
「よろしくね!」
「よろしくお願いします!」
二人は挨拶をした後握手をした。
「それで何か用ですか?」
俺はアイリーさんに問うた。
「リフォンがいたからちょっかいかけただけだ。」
「そうですか。それよりルイバディの皆さんって人気者なんですね。」
俺は後ろの騒ぎを見ながら言った。するとアイリーさんは頭を掻きながら応えた。
「アタシらのおこぼれに預かろうとしてる連中だらけで困るよ。」
「一言言ったらどうですか?実力のある者はない者を従わせるものだと思ってましたが…」
「それも良いけど困ってるやつらを放っておくわけにはいかねぇってのがうちのリーダーの信念なんだ。」
俺はおおよその目星は付いているが誰がリーダーなのかを知るために聞いた。
「誰がリーダーなんですか?」
「ティスタって言うイケメンのやつだ。何となくリーダーって分かるだろ?」
「はい。」
なぜだが分からないがティスタがリーダーなんだろうなとは初めて会った時から思っていた。そんな会話をしていたら騒ぎが収まりティスタが俺たちの方に向かってきた。
「あの時は本当に助かったよ。アイリーから話は聞いてるリフォン君と言うのだろう?これから長い付き合いになるだろうからリフォンと呼んでも良いかな?」
「もちろんです。俺は冒険者としてティスタさんの方が長いので、敬意を込めてさん付けで呼ばせてもらいますね。」
「別に呼び捨てで呼んでくれても構わないよ。とりあえずよろしく。」
「はいよろしくお願いします。」
俺たちが握手を交わし終わると俺はジュナの紹介を始めた。
「こっちは俺の旅仲間のジュナです。」
「ジュナ君か、ジュナって呼んでも良いかな?」
「は、はい!俺もリベルさんと同じで敬意を込めてティスタさんと呼ばせてもらいます!」
「よろしくね。」
「はい!よろしくお願いします!」
二人も握手を交わし終わり俺はルイバディの他の人たちの紹介も求めた。ティスタは快く了承してくれて一人一人紹介してくれた。
「魔法使いのフィーア、アーチャーのユナ、タンクのドールだ。俺とアイリーは戦士だ。これで大丈夫かな?」
「皆さんよろしくお願いします。」
俺はジュナにも会釈させた。
「「「よろしく。」」」
リベルを除いた俺たち全員の挨拶も終わり各々依頼を受けるのかと思い俺は依頼書をまた見ようとした時ティスタが話しかけてきた、
「リフォンたちは二人なの?魔物討伐大変じゃない?」
俺たちを心配してくれるティスタは根っからの善人なのだろう。困ってる人たちを放っておけないのが信念らしいし、今回はティスタに助けてもらおうかなと邪な思いを隠しながら応えた。
「いつもはもう一人いるんですけど、昨日お酒を飲んでたんで宿に置いてきました。」
「もう一人仲間がいたのか。今度会ったら紹介してくれ。」
「分かりました。」
「脱線しちゃったから戻すけど、一緒に魔物討伐どうかな?」
俺は急に単刀直入にきたなと驚いたが、こちらとしても話が早いのは良いことだと感じて話を続けた。
「お誘いの言葉は嬉しいですけど俺たちパーティでの戦闘したことないので迷惑かけると思いますよ。」
俺はやらかした時の予防線を張っておいた。
「良いよ良いよ。何なら俺たちで練習してくれても構わないから。」
「流石に申し訳ないですよ。」
「いやいや冒険者は迷惑そういうものだよ。迷惑かけることもあるしかけられることもある。だから助け合って生きてるんだよ。」
「そこまで言うのならお言葉に甘えます。」
俺は申し訳ないなと思いながらティスタの提案に乗った。
「それじゃあコレ行こうか。」
そう言ってティスタが見せてきた依頼書は血が染み込んでいて読みづらかったが、そこには熊のような絵と共にバルンと書かれていた。俺はなぜ依頼書に血がついているのか聞いた。
「何でこんなに血がついてるんだ?」
「昨日の朝の怪我だよ。バルンに負けたから俺たちはあんな状態だったんだよ。」
俺は何でそんなに危険な目にあっても今こうしてもう一度挑めるのか全く理解できなかった。
「よくそれでもう一度戦いにいけるな…俺なら絶対無理だ。」
思ったことをそのまま伝えた。
「俺たちがやらないといけないんだ。ここには今俺たち以上に強いパーティはそういない。だから一度負けてもまた挑むんだ。」
その精神の強さに俺は感服した。俺にはない圧倒的主人公感がティスタにはあった。俺たちがついていかなくてもティスタたちはまた挑むだろう。そんな見殺しにするようなことは俺にはできない。俺はティスタたちに手を貸すことにした。
「分かった。俺たちも一緒に行くよ。」
「ありがとう本当にリフォンには助けられてばかりだよ。それじゃあ腹ごしらえをしたら向かうから待ってて。」
俺たちはギルドの中を歩いたり椅子に座ったりして時間を潰した。
「お待たせそれじゃあ行こうか。」
「もう一度依頼書を見せてくれないか?」
俺はバルンの生息地域を把握しておきたいから依頼書を見せてもらった。
「もちろん良いよ。何か聞きたいこととかあったら遠慮せず聞いてくれ。」
ティスタは快諾してくれた。さらには情報提供までしてくれるおまけつきだ。依頼書にバルンの生息地域はシャルラーの南に位置する森林だと書かれていた。沼地の西に位置するとも書かれていた。それなら俺たちが沼地に行った時に見えているはずではと思いティスタさんにそのことを聞いてみた。
「ティスタさん、森林の近くに沼地があると思うんだけど、森林から沼地って見えたりする?俺たちが前に沼地に行った時は森林が見えなかったからおかしいと思うんだ。」
「初めてならおかしく思っても仕方ないよ。沼地と森林の間は起伏が激しくて空を飛んでいても見えないんだよ。ちなみに森林のさらに西には伯爵領があるから覚えておいて損はないよ。」
「伯爵領ですかー良いですねぇー。今度行ってみましょうよ。ねリフォンさん!」
「はいはいまた今度な。」
ジュナが俺に上目遣いでおねだりしてきたのを俺は無視して適当に返した。俺の反応にジュナは頬を膨らませて不満そうにしていた。
「それじゃあ馬車を手配してくるよ。」
ティスタが行こうとするのを俺は止めた。
「え、馬車いります?」
「いるでしょ!結構な大人数だし装備もあるんだから。」
俺はハッとした。俺たちはいつも空を飛んでいたから分からなかったが、普通の冒険者では風魔法を使える人が少ないのだろう。だから大人数で大量の荷物も運べる馬車が大活躍なのだろう。俺はティスタたちに魅力的な提案をすることにした。
「俺風魔法使えるんで馬車で行く必要ないですよ。」
ティスタたちは一瞬何言ってるんだと俺を見つめたが、俺が風魔法を使えるのを思い出したのか納得してくれた。でもティスタが申し訳なさそうな顔をして言った。
「俺たちはリフォンに助けられてばかりだ。今回の討伐も助けられては恩を返すどころか受け取るばかりだよ。」
ティスタさんの言い分も十分に理解できるが俺は飛ぶことのメリットを話した。
「俺が風魔法で皆さんと一緒に飛べばすぐに森林に着きますし馬車の代金もかかりません。さらに皆さんに空を飛ぶ快感を提供できます。どうです?魅力的でしょ?」
ティスタさんたちは固唾を呑んだ。俺は早く飛べば良いじゃんと思ったが口には出さなかった。
「ほ、本当に良いのか?リフォンの負担にならないか?」
「なりませんよ。」
俺は爽やかに笑って応えた。ティスタたちはそれならまぁと渋々了承した。
次回もお楽しみに