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86話 バラサープ討伐

「なぁリベル、バラサープってどこに生息してるんだ?」


俺は飛ぶ前に生息地域を知っておき、効率的に飛びたいと考えていたからリベルに聞いた。


「ここから南西に三キロの所だって。そこは沼地で他の魔物も多く生息してるから注意が必要だとも書いてあるよ。」


「沼地なら飛んだままの方が良いよな?」


「そうだね。足元が悪いだろうし、飛ばずにリスクを負うのは誰も望んでないしね。」


「そういえばリベルさんだけ剣とか装備しっかりしてますけど、それはリベルさんが前衛で俺たちが後衛だからですか?」


特認実習出発前に王都で買った武具をリベルは装備しているが俺とジュナは装備がないことに疑問を持ったのだろう。俺とリベルはあーっと何も言えなくなってしまった。


「どうしたんですか?お金の問題ですか?」


「いや別にお金が足りないわけじゃないけど、装備のこと何も考えてなかったからどうしようかなって考えてたんだ。」


「今回はいらないんじゃないですか?リフォンさんの風魔法で飛びながら討伐するんですよね。なら大丈夫ですよね?」


俺とリベルは少し考えた。もしバラサープが上空まで体を伸ばして攻撃できるのなら防具はあった方が良い。こちらからの攻撃は魔法以外で行うことはない。経験の浅い俺たちでは近接戦闘より魔法での攻撃の方が安心安全だからだ。そんな考えを巡らせているとリベルが俺に聞いてきた。


「リフォンはどう思う?」


俺は自分の考えを伝えた。リベルもジュナも納得してくれたようで防具を買いに行った。冒険者が多く集まるシュルラーだからか王都よりも安価で防具を買えた。準備を終えた俺たちはバラサープが生息する沼地に向かった。


「いやー快適だねー。」


リベルが風に髪を靡かせながら言った。俺とジュナはその言葉に同意した。歩いて向かうとかなりの時間がかかるが、風魔法なら疲労を感じる間もなく着くからだ。


「リフォンさんが持ってるアイテムってどのくらいの値段なんですか?」


ジュナが突拍子もない疑問を投げかけてきた。俺はそれに応えたかったが、学園長からの貰い物だから応えられなかった。どう返答しようか悩んでいるとリベルが代わりに応えてくれた。


「これは貰い物だから僕たちも分からないんだ。ちなみにくれた人は物凄く魔法に詳しい人だから、もしかしたら僕たちじゃ買えないような代物かも知れないよ。」


「す、すげぇ…」


そう言うジュナの顔に畏敬の念が見えたような気がするが、気のせいだろうと放っておくことにした。そんな話をしていると霧がかった鬱蒼とした森が見えてきた。よく見るとその森だけ地面の色が違った。周りは雑草が生えており緑なのだが、その森の地面はドス黒い色をしており風魔法のアイテムをくれた学園長に心の底から感謝した。


「絶対あれですよね…」


「そうだね…」


二人とも嫌そうな顔をしていたので俺と思っていることは同じなのだろう。きっと誰しもこの沼地には近づきたくないと思うだろう。森の真上にやってきた俺たちは円になるように手を繋ぎ三方向を見れるようにした。


「いる?」


「いないです。」


「こっちも見えない。」


しばらく探したがバラサープの姿は一向に見えなかった。大蛇だからすぐに見つかると思っていたが、泥で身を隠しているのかそれらしい魔物を見つけることができなかった。痺れを切らしたリベルが高度を下げて欲しいと言ってきたので俺は高度を下げた。さっきよりも地面の様子がハッキリと見えるが、それでもバラサープは見つからなかった。


「あぁもう!早く出てこいよ!」


ジュナも痺れを切らしたようで怒号を上げた。こんな声を上げたジュナを初めて見た俺とリベルは目を見開いた。おそらく心の中で同じことを思っただろう。


((ジュナってこんな声出すんだ…))


そう思うほどの声を上げた瞬間森の奥の方からシャーという蛇特有の鋭い耳を劈くような声が聞こえてきた。俺たちはその声が聞こえた方を見つめた。ジュナとリベルはニヤッと笑い俺を引っ張るように飛んだ。俺は驚いた。今まで俺主導で飛んでいたにも関わらず、今はジュナとリベル主導で飛んでいるからだ。


そこから俺は一つの仮説を立てた。風魔法で飛んでいるのは俺だけだと思っていたのが間違いで、体の一部が触れている者全てを飛行させる魔法なのだと。今まで俺は二人と飛んでいる時二人の体重を支えるように努力した覚えはない。それはなぜか、二人も風魔法で飛んでいたからだ。それなら俺の仮説は正しいと言えるだろう。一人で納得していると二人の声が俺の耳を劈いた。


「「いた!」」


二人は手を離し片手を自由に使えるようにした。そして俺が呆気に取られているうちに二人はバラサープに火魔法を浴びせた。二人は一切の手加減もなくバラサープに火魔法を浴びせたようで、バラサープの皮は焼け爛れ異臭が周囲に充満していた。


「お前ら…」


俺は二人の行動にため息混じりの言葉を吐いた。二人は俺の反応を見て自分たちがやらかしたことを自覚した。二人は火魔法のイメージを怠り感情任せに魔法を使った。本来なら一撃で終わるはずの攻撃を何発も時間をかけてやったのだ。それを受けたバラサープの苦痛は筆舌に尽くしがたいものだったであろう。それに気づいた二人はある種の拷問を行ったことに何も言えなくなっていた。止められなかった俺の責任でもあるから責めることはできないが、言わないよりマシだと思い言葉をかけた。


「他者の命を思いやれ。二人なら即死させてあげれただろ?それに周りの木々も燃えた。沼地だから火が広がらなかったのは幸いだが、感情任せに行動するな。きっとあのバラサープが感じた苦痛は計り知れないものだぞ。それを受ける側になってみろ。想像もしたくないだろ?分かったら今回のことを反省して次回に活かせ。」


「「はい…すみませんでした…」」


二人は反省したのか俯いて謝った。自分に非があることに気づけたのは良かったが、俺に謝ってどうすると思った。


「謝るのはバラサープにだ。それと命を奪ったんだから粗末に扱うことは許さない。丁寧に依頼書通り解体するんだ。」


「「はい。すみませんでした。」」


二人はバラサープに頭を下げた。そこで俺は一つの疑問に思った。なぜ魔物を殺した二人をこんなに責めているのかと。魔物は人間を殺す可能性がある恐ろしい存在だ。そんな魔物を殺すことはこの世界では英雄扱いだろう。でも二人はバラサープに謝ったのだ。なぜ謝ったのか俺は二人に聞いた。


「俺が聞くのはおかしいと思うが、何で二人はバラサープに謝ったんだ?魔物を討伐することは良いことじゃないのか?」


「良いことだよ。一般人にはゴブリンも恐怖の対象だからね。でも今回はリフォンの言う通りやりすぎたからね。流石に反省してるよ。」


そう言うとリベルはバラサープの解体に戻った。今度はジュナが言った。


「俺の村でも魔物を討伐することは褒められる行為です。リフォンさんがビリヤーを持ってきた時の反応覚えてますよね?あれがこの世界の正しい反応です。でも今回はバラサープが可哀想だって思ったんです。だから今こうやって罪を償っているんです。」


俺は異世界というものを酷く誤解していたようだ。俺が聞き齧った情報やゲームでは魔物を殺すことは何の罪にも問われない。ましてや英雄扱いされる。そんな世界だからその世界に住む人たちは罪悪感なんて微塵も感じないと思っていた。だが違った。みんな同じ人間なのだ。罪悪感も感じるし罪を償う意識もある。俺が思っていた世界とは良い意味で違う。今まで偏見を持っていた自分が恥ずかしくなった。


異世界の人はみんな勇気に満ち溢れていてダンジョンや強敵に臆さず戦いに行くと思っていた。でも受付のおじさんは死を恐れていた。俺と同じだった。誰だって死を恐れているのだ。俺は前世の経験が乏しい、異世界のことだって全然知らない。でも一つだけ言えることがある。みんな同じなんだ。勇者や物語の主人公みたいにどんな脅威にも立ち向かえる人なんてそういない。


そんなことを考えているとバラサープの解体が終わったらしく俺は二人とバラサープの素材を持ってシュルラーに戻った。道中リベルにテレパシーで何かあったのかと聞かれたが受け流した。


シュルラーに戻り俺は二人にバラサープを任せて俺は宿を取った。俺は宿のベッドに寝転がり考えた。どうすれば二人のように勇気を持つことができるのかと。俺は腑抜けだし臆病だ。多分これを変えることはできない。どうすれば良いのか俺には分からなかった。誰かに助言を求めようにも今頼れる人はいないなと落ち込んでいると、一柱だけ頼ることができると思い出し、早速助言を求めるために俺は眠りについた。


「何ですか?」


久しぶりの声に俺はガッツポーズをした。


「女神様俺に助言をください!」


「腑抜けで臆病な自分を変える方法ですか?」


「は、はい!」


俺は考えてることまで筒抜けなんてと吃驚したが、今はそんなことより自分を変えることを優先した。


「人によって違うので一概には言えませんが私が見てきた人のことを教えます。まず多くの人は愛する人のためなら死さえ恐れないことが多いです。次は場数を踏むことです。慣れですよ慣れ。あとはアイテムや光魔法の精神強化魔法ですね。」


「!?」


俺は最後の言葉に開いた口が塞がらなかった。唖然としている俺を見て女神が続けた。


「聞こえませんでしたか?」


「い、いえ聞こえてます。驚いてしまって…光魔法に精神強化なんてあるんですか?」


「はい。おそらく学園では上級生になってから教えられる魔法なのでしょう。もちろんあなたも使えますよ。」


「ま、マジですか!?」


俺はこれでリベルたちと堂々と肩を並べられると思うと嬉しくなって鼓動が速くなった。


「もう聞きたいことはありませんか?」


「また聞きたいことがあれば聞きにきて良いですか?」


俺は今後も女神を頼りたいと考えてるから確認しておきたかったのだ。


「良いですけど私も忙しいので頻繁には無理ですからそこのところ把握しておいてくださいよ。緊急事態とかなら優先しますけど。」


なぜ女神が俺のことを気にかけてくれてるのか疑問に思ったが、言いたくないこともあるだろうと思い何も聞かずにその場を去った。

次回もお楽しみに


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