85話 冒険者登録
「御飯美味しかったね。」
「ね。もう冒険者ギルド行く?」
「行きましょう!」
街の大通りを奥の方に歩いて行くと一際大きな建物が目についた。この世界の建物は全て木造か石造で建てられており冒険者ギルドも例に漏れず石造だった。でも一つ違うところがあった。それは建物の中央上部にドラゴンの剥製があったのだ。俺はそれに嫌な感覚を覚えた。背筋がゾクゾクする感じというか悪寒が全身を包んだ。魔力も感じなければ魔神教会の奴に出会った時のような闇魔法の嫌な感じではなかった。でもその嫌な感じの正体は分からなかった。
「どうしたのリフォン?」
「お腹痛いんですか?」
俺が嫌な顔をしているのが分かったのか二人は俺の顔色を窺ってきた。
「な、何でもないよ。さ、入ろ。」
俺たちは冒険者ギルドの中に入った。中に入って人の多さと熱気に驚いた。正面にはカウンターがあり小さな円卓が点々としていた。その円卓では冒険者が話し合ったり、腕相撲をしたり楽しそうにしていた。俺たちはそんな冒険者は気にせずカウンターに向かった。
「おうおう坊主たち冒険者になりてぇのか?」
カウンターには筋骨隆々な男の人がいて受付をしていた。元冒険者なのかその人の体には傷跡があった。
「はい!俺たち冒険者登録に来たんです!」
「そうかそうかならちょっと待ってな。必要書類持ってくるから!」
その人がカウンターから離れるとその体躯に目を見開いた。その人の身長は二メートルはあり、体重は百五十キロはありそうな見た目だった。リベルもジュナもその人の体躯に目を見開いていた。
「あの人ちょーデカいですね!俺もあんな風になれますかね!?」
ジュナは目をキラキラさせていた。
「毎日特訓してたらいつかなれるよ!」
ジュナを励ますようにリベルは言った。俺は心の中で遺伝的に無理でしょとツッコミを入れた。でもそんなこと言ってジュナのモチベが下がってしまうといけないから建前を言うことにした。
「そうだぞ。毎日特訓して体を鍛えていけばきっとあんな風になれる。だから毎日欠かさず特訓するんだぞ。」
「はい!」
「何だ何だ?俺みたいになりたいって聞こえた気がするけど…?」
「俺おじさんみたいなデカくてカッコ良くて頼り甲斐のある男になりたいです!」
ジュナは思いの丈をぶつけた。
「おっそれは今から頑張らないとな!」
「はい頑張ります!」
おじさんはジュナの頭をワシャワシャと撫でながら言った。ジュナは嬉しそうに撫でられており俺たちも自然と笑顔になった。
「おっと脱線しちまったな。これが冒険者登録に必要な書類だ。名前と年齢、使える魔法だけ書いてくれたら良いからちゃちゃっと書いてくれよな。」
俺たちはカウンターのスペースを利用して必要事項を書き込もうとしたが、全ての事項で手が止まった。俺はどうすれば良いのか分からずリベルにテレパシーをした。
(リベル俺の名前と年齢と魔法どうしたら良い!?)
(えっあー…どうしようか…)
(それに聞いてるんだけど…)
(年齢は僕と同じ十五歳で良いんじゃない?)
(名前は?リフォンだけで大丈夫?)
(あー…もう僕と双子で良いんじゃない?)
(え!?良いのか?)
俺は冒険者ギルドという組織に所属する冒険者になるのに虚偽の情報を書くのはどうなのかと思った。
(えっ良いんじゃない?)
(冒険者としての書類上俺が公爵家次男になるんだよ!?リベルの一存で決めて良いの!?)
(リフォンは僕たちの家族じゃん。今更何か変わる?)
(いや変わらないけど…本当に良いのか?)
(良いよ。)
そう微笑みかけてくれたリベルの顔はどこかグロウの優しい微笑みに似ていた。
「坊主早く書きな。お前さんだけ遅れてるぞ。」
「あっはいすみません。」
俺は急いでリフォン・ペタフォーン、十五歳、火、水魔法と書き込んだ。
「ヨシこれで全部だな。ペタフォーンって公爵家か!通りで気品のある顔と雰囲気があると思った。それより冒険者なんてやってて良いのか?」
「はいそれは大丈夫です。」
「そうかそうか。受理してくるからそこら辺で待っときな。」
俺たちは言われた通り円卓に座って待つことにした。俺は待ってる間に今後どうなるのか考えた。使い魔として生きるのか、猫被って人間として生きるのが良いのか分からない。でも俺としては人間として生きてみんなと話して同じ時間を過ごしたいと思った。
「リフォン!聞いてる?」
「あっごめん考え事してて聞いてなかった。何の話?」
「冒険者としての仕事どうするかって話。」
「あぁどうしようか。俺は別に何でも良いけど。」
俺は何も聞いてなかったからどう答えれば良いのか分からず適当に応えた。
「リフォンさんなんか上の空って感じじゃないですか?」
「ごめんごめん。それより仕事どうする?」
「俺的には地味な仕事より討伐系の派手な仕事がしたいです!」
「その方が報酬も良いだろうしそうしようか。」
「そうだな。」
「おーいお前らー冒険者カード出来たぞ!」
おじさんの声に俺たちはカウンターに呼び戻された。
「これがその冒険者カード?ですか?」
「そうだ。これがお前らを冒険者だって証明するカードだ。魔物を討伐して素材を換金しようとした時このカードがないと換金できないから注意な。シュルラーに入る時もこのカードを門番に見せたら通れるからな。」
「便利なんですね。」
「そうだぞ。冒険者カードは便利なんだぞ。だから無くしたりするなよ。」
「「「はい!」」」
「ヨシ!それじゃあ早速何か仕事するか?」
「俺討伐系したいです!」
「お前にできるのか?」
「あまり舐めないでください。」
リベルが人に向かってガン飛ばしてるのは初めて見た。
「す、すまん…」
「ジュナは僕たちの一番弟子です。近接戦闘はまだまだですが、魔法はもう一人前です。子どもだからって舐めてると痛い目見ますよ。」
「そうかそれならお前たちに期待しても良いのか?」
「もちろんです。」
リベルは自信満々に言い放った。おじさんはそんなリベルを見て口角が自然と上がっていた。
「それじゃあ早速依頼受けるか?」
「どんな依頼があるんですか?」
「ゴブリンからバラサープまで色々あるぞ。どうする?」
俺は初めて聞くバラサープという言葉に疑問を持った文脈から読み取るに魔物なのだろうが、どんな魔物なのか分からずおじさんに聞くことにした。
「バラサープってどんな魔物なんですか?」
「バラサープは大蛇だ。ものにもよるが五メートルもあるバラサープが見つかったこともあるぐらいデケェ奴だ。」
「それ良いじゃないですか!やりましょうよリフォンさんリベルさん!」
「だ、大丈夫なのか?」
俺は五メートルの大蛇を想像して恐ろしくなった。
「そんなに心配しないでも大丈夫だと思うよ。リフォンはもっと自分に自信持ちな。」
「恐怖心は大切な生存本能だよ。今でも自ら命の危険に晒されようとは思わないよ。」
「リフォンさん大丈夫ですよ!俺もいるしリベルさんもいるじゃないですか。それに俺たちの中で一番強いのはリフォンさんじゃないですか。慢心はダメですけど自信を持つことは良いことだと思いませんか?」
「ジュナの言い分は正しい。でもやっぱりまだ恐怖心は拭えない。臆病な俺を許して欲しい。だから俺はこの特認実習を通して自信をつけることを目標にするよ。小さなことかもしれないけど俺にとっては大きな一歩だと思ってるから、どうか笑わないで支えて欲しい。」
俺はここが冒険者ギルドだということなんて気にせず頭を下げて言った。
「笑ったりしないよ。だから頭を上げて。」
「そうですよ。俺だって魔物に初めて会った時はめちゃめちゃビビりましたけど、森の中で時々見ていくうちに慣れたからリフォンさんも慣れますよ!」
「二人ともありがとう。」
俺は二人の目を見つめて言った。こんな腑抜けで臆病な俺を支えてくれる人はそういないだろうから、この二人の期待に応えられるように精神的に強くなること心に誓った。それとは別に俺、最近誓いすぎてるなと思った。
「大丈夫だ坊主、俺でも魔物はこえーよ。でもパーティーメンバーのためとかもっと強くなるためって死ねない理由を思い浮かべるんだ。そうすれば自ずと自信と勇気が湧いてくる。そうやって冒険者は今日も生き延びるんだ。死を恐れてないやつなんていないよ。」
そう言うおじさんの顔はどこか儚げだった。何か悲しい過去があったのでないかと思ったが、何も考えないようにした。明日は我が身という言葉を思い出し考えたくなかったのだ。
「どうするバラサープやめる?」
ジュナはおじさんの顔をみてすっかりおとなしくなってしまった。でもリベルは違った。リベルには強くなるという明確な目標がありこんなところで止まってる暇はないからだ。
「やろう。バラサープの等級はイエローだ。この程度の等級で立ち止まってようじゃ、賢者を超えることなんて夢のまた夢だ。二人が行かなくても僕は行くよ。」
俺とジュナは顔を見合わせてやれやれとため息をついて言った。
「俺たちも行くよ。」
「俺たちも行きますよ。」
「バラサープ討伐の依頼書だ。今回は依頼者に素材の二割を渡すことになってるから、この依頼者通りに解体してくれ。報酬とか出没地域も書かれてるから持っていきな。」
「ありがとうございます。」
リベルがおじさんから依頼書を受け取った。
「気をつけてな。」
おじさんの言葉に背中を押された俺たちはバラサープ討伐に向かった。
次回もお楽しみに