84話 シュルラー
「なぁそのシュルラーってどこにあるんだ?」
俺は具体的な場所を聞かないと行けないこと理解しリベルたちに聞いた。
「王都から南下して数十キロだよ。」
「俺たちって王都から北西に飛んでジュナたちの村についたよな?」
「うん。そうだけどどうしたの?」
「いやペタフォーン家の屋敷から王都に行くまでにほとんど一日かかるし、シュルラーも王都から数十キロはかかるし、王都からビリヤー山脈も結構な距離あっただろ?だからエクサフォン国の国土の広さを知りたくなったんだ。」
「エクサフォン国はだいたい一万平方キロメートルだよ。」
「それってどれくらいだ?」
俺はまともに学校に通っていなかったから具体的な面積を言われてもピンと来ないのだ。
「100キロ×100キロだよ。屋敷から王都までがだいたい50キロぐらいだから馬車で二日かければ国の端から端まで行ける感じだね。」
「なるほど。それって他の国に比べて大きいのか?」
「確かエクサフォン国の領土は二位か三位だったと思うよ。そもそも外界が危険に満ちてるから領土を広げることが難しいんだよ。」
「外界って国の外の魔物がいっぱいいるところだっけ?」
「そうだよ。魔物がいっぱいいるところに危険を冒してまで領土広げようとはしないでしょ?」
「確かにな。」
「リフォンさん今どっちに向かって飛んでます?このままだったら男爵家に着きますよ。」
「あっごめん。話すのに夢中になってた。」
俺はジュナに言われて軌道を修正しシュルラーに向かった。しばらく飛んでいると左手に王都が見えてきた。そろそろ新学期が始まるからか王都の学園周辺は盛り上がりを見せていた。その様子にリベルは何とも言えない表情をしていた。そんな様子を見かねて俺はリベルにテレパシーをした。
(大丈夫か?何かやり残したことでもあるのか?)
(い、いや大丈夫だよ。ただ…今みんな何をしてるのかなーって…)
(そんな未練たらたらで今後大丈夫か?)
(大丈夫!ちゃんと心入れ替えるから!)
(それなら良いけど…)
リベルはもうすぐ15歳になるとは言えまだまだ子どもだ。友達と離れる苦しみや不安感は心のどこかにあるのだろう。もしリベルが精神的にやられてしまっても大人である俺が支えると心の中でグロウとマイヤー、リーンに誓った。
「リフォンさん何か考え事ですか?」
「んえ?まぁそんなところだよ。ジュナはシュルラーで何かやりたいこととかあるか?」
「美味しい食べ物を食べたいです!俺今まで村の食べ物しか食べてこなかったんで食べたことない物を食べたいです!」
「そうかそうかリベル何か良いの知らないか?」
「うーんそう言われても僕も行ったことないから何とも言えなや。冒険者が多いから冒険者に好まれる味付けの濃い食べ物が多いんじゃないかな?それとお酒とか?」
「良いですね!でもお酒はまだ飲めないからそれは残念です…」
「僕はもうすぐ十五歳だから飲めるようになるけどジュナは最低でも五年は待たなくちゃいけないからね。」
「そうですよー早く飲んでみたいですけどねー。」
「えっ!?」
俺は驚きから声が出てしまった。前世ならお酒は二十歳からというのが常識だったからこの世界の常識に驚いてしまった。
「どうしたのそんな声出して。」
「俺たち何か変なこと言いました?」
「い、いや十五歳からお酒が飲めるなんて知らなかったんだ。王都でもお酒を飲んでるリベルぐらいのやつはいなかったから、もっと年上じゃないと飲めないものかと…」
「そもそもあんまりお酒を飲む人がいないからね。お酒を好んで飲む人なんて冒険者ぐらいだって言われてるぐらいみんなお酒飲まないんだよ。お酒にお金を使うぐらいならアイテムとかに使うって人が大半だから、王都でお酒が出回ってるところも、飲んでいる人もあまり見ないんだよ。」
「みんな無駄だって考えるんだな。」
「飲んだとしても嗜む程度だよ。」
そんな話をしばらくしていると大きな街が見えてきた。二階建ての建物が密集しており住宅街のような印象を受けた。
「あそこがシュルラーだよ。」
「あんなに大きいんですね!俺の村何個分かな?」
「どれぐらいだろうな?」
そんな他愛もない話をしながら俺たちは低空飛行に移行して目立たないようにシュルラーに近づいた。今回は誰かにバレることもなく地面に降り立つことに成功した。
「お腹空いた?」
俺は二人に聞いた。
「そこそこかな。」
「俺は後でも大丈夫です!」
「それじゃあ先にシュルラーの中を見てからお昼にしようか。」
「「はーい。」」
俺たちがシュルラーの中に入ろうと正面に周るとそこには大きな門があり、王都と同じように門番がいた。王都の次に情報が集まる場所だから警備も厳重なのだろう。俺たちは門にできている訪問者の列に並んだ。
「思ってる以上に厳重なんですね。」
「そうだな。俺もここまでとは思ってなかった。王都と同レベルだ。」
「中にある施設が施設だから仕方ないと思うけどね。」
そんな話をしていると俺たちの番になった。
「何か身分を証明できるものは?」
門番が俺たちに問いかけるとリベルは公爵家の紋章を取り出して門番に見せた。
「公爵家!?し、失礼致しました!ど、どうぞお入りください!」
公爵家という言葉に周りがざわついた。俺とリベルは苦い顔をしたが、ジュナは興奮冷めやらぬ感じだった。門番の声は中にも響いておりシュルラーに入ってからもしばらくの間注目されていた。俺たちはその視線から逃げるように裏路地に入った。俺たちがため息をつくとジュナが開口一番叫んだ。
「公爵家ってどういうことですか!?」
「「シー。静かに!」
ジュナはあっと言って口を手で塞いだ。そして静かに問い直した。
「お二人は公爵家だったんですか?」
「そうだよ。言う必要はないと思ったから伝えなかったんだ。不快にさせたらごめんね。」
「そんなのあるわけなじゃないですか!公爵家のお二人に魔法を教えてもらって、さらに一緒に旅までできるんですから。こんなに幸運な事はないですよ!」
興奮気味に言うジュナはヒーローに憧れる少年のような目をしていた。その目に俺たちは母性が目覚めてしまいジュナの頭を二人で撫でた。ジュナは最初何が起こっているのか理解できていなかったが、最終的には受け入れ笑顔で撫でられた。その笑顔に俺たちまで自然と笑顔になった。
「お腹空いたね御飯食べようか。」
「そうだな。」
「はい!」
俺たちはそのまま裏路地を進んで行くとある扉の前に看板が出ていた。
「飯屋カラバザールだってどうするここで食べる?」
「良いんじゃないですか?」
「い、嫌だな…」
「えっなんで?」
「え?だってこんな裏路地にある店って怖くない?」
「怖くはないけどちょっと心配だね。」
「確かにそうですね。怖い冒険者がいるかも知れないですし大通りに戻りましょう。」
俺たちは大通りに戻り人目に触れる飯屋に入った。そこは飯屋サーシィーというところで、中には冒険者が何人もいて酒を飲んでいた。さっきのような不気味なところとは違い活気付いており楽しい居酒屋みたいなのが感じだった。
「何だ坊主?」
強面の店主が俺たちに因縁をつけてきた。
「僕たちは御飯を食べにきただけです。」
「ここって飯屋なんですよね?」
「ここは冒険者のやつらのための飯屋なんだ。お前らみたいな坊主のための飯屋じゃねぇんだ。」
「はぁ?何でだよ!」
「ジュナ!」
ジュナが店主の態度に怒りを顕にしたが、俺は無駄な言い争いは何も生まないことを理解しておりジュナを止めた。当然ジュナは不服なようだったが、俺とリベルに連れられて飯屋を後にした。
「何で止めるんですか!」
「言い争ってもあそこでは食べられないからだよ。だったら、言い争わず俺たちが退くことで被害は最小限に抑えられると判断したからだ。」
「そうだよジュナ。あのまま言い争ったところで何も得られないし、互いに不機嫌になるからリフォンの判断は正しいと思うよ。」
「でも…ガキだからって理由であんなこと言われたら誰だって頭にくるでしょ!?」
「その怒りを表に出さないのが大人だよ。」
「リベルさんは冷静なんですね…」
ジュナはまだ怒りがおさまっていないようだった。その怒りをおさめるためにも俺は次の飯屋に連れて行った。次は飯屋ジャンタというところに行った。
「いらっしゃい!坊ちゃん三人かい?ここ座りな!」
気前の良い女店主が俺たちをカウンターに呼んだ。
「三人兄弟で旅でもしてるのかい?」
「違いますよ。僕たちは兄弟ですけどこっちは弟子です。」
「弟子!?その歳でかい?随分優秀なんだね!」
「そうですよ!師匠たちは凄いんですから!」
俺たちを褒めてくれる女店主にジュナが気分を良くなった。さっきまでの怒りが嘘のように消えていた。そのままジュナは俺たちに魔法を教えてもらったことやビリヤーを倒したことをペラペラと喋った。女店主は相槌を打ちながら話を聞いていた。そしてジュナが話し終えると女店主は俺たちの注文を聞いた。俺はキノコと肉を甘辛く炒めた物を、リベルは肉サンドを、ジュナは具沢山シチューを頼んだ。しばらく待っていると三品とも提供され俺たちは美味い美味いと女店主に伝えながら頬張った。その様子を女店主は頬杖をつき笑いながら見ていた。
「「「ご馳走様でした!」」」
「美味しかったかい?」
「「「はい!」」」
「そりゃ良かった。うちのこと贔屓にしてくれよ!」
俺たちはそのまま店を後にして冒険者ギルドに向かった。
次回もお楽しみに