82話 スパルタ特訓最終日
「今日は俺とリベルとの対人訓練をやる。俺たちもジュナと同様対人戦は初めてだから分からないところが多い。だから今回は俺たち全員のための訓練だ。怪我しないように水魔法でのみ攻撃をすること。勝敗は見ている者が決める。例えば水魔法が顔に直撃したら負け、胸や腹に当たったら負け、腕や足だと負傷みたいな感じだ。二人とも分かったか?」
「りょーかい。」
「はい!」
「それじゃあどうする?俺対ジュナ、俺対リベル、リベル対ジュナみたいな感じで良いか?」
「リフォンの負担が大きくない?」
「そうですよ。それに俺が1番弱いんですから俺がリフォンさんの位置に交代するのはどうですか?」
「じゃあそうするか。後悔するなよ?」
「しません!」
「それじゃあ早速始めようか!まずは俺とジュナからだ!」
「はい!」
俺とジュナは少し距離を取り正面に向き合った。その間にリベルが立ち対人戦の準備が整った。
「はじめ!」
リベルが開始の合図を言った瞬間ジュナが木々の間を走り抜けながら俺の顔面に向かって水魔法を打ってきた。その判断の良さに俺は口角が上がった。俺はそれに応えるように木の後ろに隠れて空中に幾つもの水魔法を出現させた。その刹那ジュナは自分の周りを水魔法で囲み自分に当たらないように防御した。ジュナが足を止めたその僅かな隙に俺は猫の姿に戻り全速力で駆けた。俺の水魔法がジュナに向かって行ったその時、俺はジュナの懐にいた。
「なっ!?」
ジュナが声を上げた瞬間俺はジュナの胸に水魔法を押し付けて勝利を掴んだ。
「クソー!負けたー。」
「最初は良かったけど防御に集中し過ぎたな。相手のことを見てないとこうやって不意をつかれるからな。」
「猫に戻れるのズルですよ!結構大きいけど体高はそんなに高くないから見えづらいんですよ!」
「強くてごめんな。」
「もー!」
文句を言いつつも向上心を感じれてジュナへの期待がさらに高まった。
「よし次はジュナとリベルだ。」
「負けないよ!」
「俺だって負けません!」
ジュナとリベルが正面に向き合った。二人は真剣な顔つきになり互いに右手に水魔法を出現させた。準備を終えたことを確認してから俺は始めの合図を言った。
「はじめ!」
二人が同時に水魔法を打ち合い辺りの湿度が数十%は上昇したように感じた。もうしばらくすると木々の間に虹が見えた。でもその湿度が俺の猫の体には苦痛になったので人間の姿に戻した。その瞬間二人の視線がこっちに向いてしまった。猫の姿だったら視界の邪魔にはならなかったが、人間の姿だと気が散るのだろう。俺は察して猫の姿に戻った。二人が木々の後ろに隠れて水魔法を打ち合ってる様子に俺は次第に飽き始めた。戦闘としては正しい選択なのだが、こうも膠着状態が続くと無益なまま戦闘が長引き、どちらも疲弊してこの戦闘から得られるものが少なくなると感じた。その状況を瓦解するために俺は二人に聞こえるように言った。
「今から木の後ろに隠れるのを禁止する。ただし走りながら木を遮蔽物にするのは良しとする。」
「「えー!?」」
二人は互いに違う方向に走り出して水魔法を打ち合った。でも直線上に打ち合っているだけで工夫や個性を感じれない。二人もそれに気づいたのか打ち合うのをやめてイメージを優先させた。ジュナが俺と同じように空中に幾つもの水魔法を出現させた。リベルのイメージが一歩遅かったかと思ったがそれは違った。リベルはジュナよりも早くイメージを確立させており、地面からジュナに向かって水魔法を使っていた。ジュナが空中に水魔法を出現させた時にはもうジュナの首にリベルの水魔法がたどり着いていたのだ。
「あーもー!また負けた!」
「ジュナは柔軟な発想がまだまだだね。でもまだ成長の余地が残ってるってことだから僕たちと一緒に成長していこうね!」
「はい!俺お二人に引け劣らないぐらいの魔法使いになります!」
ジュナの成長を特認実習を通りてすぐ側で見れることに希望と嬉しさが込み上げてきた。
「次はリフォンさんとリベルさんですよ!」
ジュナが鼻息を荒くして言ってきた。
「負けないからね。」
「俺も勝つつもりでいくからね。」
俺とリベルが同様に正面に向き合った。
「はじめ!」
俺は小さな水魔法でリベルのことを牽制しながら木々で見えないように木々の上空に大きな水魔法を出現させるイメージをしていた。リベルはその間も走りながら俺に向かって水魔法を打ってきたが、俺は猫の姿で走っておりそのスピードと体の小ささも相まってリベルの水魔法は俺には当たらなかった。リベルはさっきまでの戦闘でかなり体力を消耗しており木の後ろに隠れてイメージに専念し始めたその時には俺の水魔法が完成しておりリベルの真上に水魔法を移動させてから落とした。リベルはまだ気づいておらずそのままだと森の植物に被害が出ると思い、リベルの頭の上まで来たところで俺は水魔法を止めた。それでもリベルは気づいておらず俺は声をかけた。
「リベル上見て。」
「え?あっ…」
リベルは自分が置かれた状態に気付き声が出なかった。俺はその様子を見て水魔法をさらに上空まで持っていきそこで弾けさせた。水魔法は雨となって森に降りかかり植物の成長になればと思った。
「まさかこんなに呆気なくやられるとは思ってなかったよ。」
「最初の水魔法は牽制でその間からイメージしてたんだよ。」
「はぁ…使い魔に負ける主人なんて…悔しいなぁ…」
リベルは肩を落とした。ジュナはそんなリベルを見かねて励ました。
「仕方ないですよ。だってリフォンさんなんですから。きっと勝てる人の方が少ないですよ。」
「そうだね。」
「そんな考えしてると本当の強者に出会ったらすぐ死ぬぞ。」
訓練とはいえ二人の緊張感があまりにも欠落していると感じて、何か意味深ことを言い二人に緊張感を持たせようとした。でもその発言が二人に誤解されてしまった。
「だからリフォンさんって強いんですね。」
「僕でも知らないことをリフォンはたくさん知ってるだろうからちゃんと言うこと聞くようにしよう。」
二人は小声でそう言い合っていた。俺は否定したかったが、それでは二人の緊張感が元に戻ってしまうと感じで何も言わないようにした。
「これでスパルタ特訓は終わりだ。明日にも俺たちは村を立ちたいと思ってるから両親を説得してこい。でも説得出来なかったらその時は諦めろ。俺たちだって死ぬ可能性があるんだ。ジュナのことまで守りきれない。そのことをきちんと両親に伝えるんだ。分かったな?」
「はい!」
俺たちは村に戻りジュナは走って両親を説得しに行った。俺たちは思い残しをなくすために、村の人一人一人に挨拶をして回った。村長にはジュナのことを感謝されビリヤーのことを感謝された。今回は俺たちが勝手にやったことが感謝されたが、次回もそうとは限らないと心に留めておいた。
次回もお楽しみに