81話 スパルタ特訓二日目
「よし、今日は実戦訓練だ。この間ビリヤーの群れを壊滅させたからこの辺りにはいないだろうから、山の向こう側まで行ってビリヤーを討伐する。もし20を超えるビリヤーの群れだった場合俺も手助けするけど、それ以下の少ない群れだった場合はジュナ一人で討伐すること。良いな?」
「はい!もし俺が危険になった場合はお願いしますよ。」
「もちろんだ。」
俺は猫の状態でジュナに抱き抱えられてビリヤー山脈の上を飛んでいた。
「リフォンさん…さ、寒いです…」
俺を抱き抱えているジュナの腕が寒さからプルプルと震えている。それに声色も不安定だった。そんな様子を見かねて俺はジュナを暖めるために火魔法を出現させて暖めてあげた。
「ありがとうございます〜」
「こういう時魔法って不便だよな。焚き火とかにしたら暖取れるけど、魔法の状態だと自分に影響出ないのがなぁ…」
「そうですよね〜複数人で行動する理由が分かりますね〜」
「何でそんな口調なんだ?」
「リフォンさんの魔法は何だか心安らぐ感じがして…」
俺を抱き抱えるジュナの腕の力が抜けてきたように感じた。
「お、おいジュナ!?起きてるか?」
「へ〜…」
このままジュナが寝てしまうとジュナが落下してしまう。流石にそんな状況になれば俺でもジュナを救う事は厳しいと感じ水魔法で起こす事にした。
「ぶわぁ!な、何ですか!?」
「何ですかじゃないよ!今寝そうになってただろ!」
「へ?い、いやそんな事…あったかも知れません。」
「寝ないように火魔法はお預けです。」
「えー寒いですよー!」
「落ちて死ぬよりはマシだろ!」
「ごめんなさい…」
ジュナはプルプルと震えながら俺を強く抱きしめて暖を取っていた。山頂付近になると吹雪いてきてより一層寒くなってきた。
「リフォンさん!流石に寒いですって!」
「俺も寒くなってきたから互いに火魔法で暖取ろうか。」
俺たちは互いに火魔法を使い暖を取った。流石に早く山を越えないといけないと痛感して飛ぶスピードを今までの倍以上にした。
「リフォンさん風!風がヤバいです!」
「わ、分かったよ。」
俺は風魔法の応用で俺たちの周りに空気の層を作り風を防いだ。風がないだけでかなり気温が高く感じれた。その調子で俺はスピードをさらに上げて山を越えた。これで少しは寒さが和らぐと思っていた俺たちの期待は砕かれた。
「「な、何だこれー!?」」
そこは一面雪景色だった。ビリヤー山脈が天然の障壁となり雪を防いでいたからビリヤー山脈より手前には雪が降っていなかったのだ。そんな事よりあまりにも豪雪で俺たちは帰ることを余儀なくされた。
「あっちめっちゃ雪降ってたじゃないですか!今日どうするんですか?」
「俺だって知らなかったんだよ!マジでどうしよう…」
俺が空を飛びながら今日の特訓を考えているとジュナが急に大声を出した。
「リフォンさんあれ!」
「何だよ急に大声を出して…」
ジュナが下を指差したのでそこに目をやると森の木々に紛れて見えにくいが緑色の肌をした巨人がいた。俺はその特徴を見てオークだと確信した。
「あ、あれって…」
「そうですよオークです!この辺りじゃまず見ませんよ。きっとリフォンさんたちがビリヤーの群れを討伐したからナワバリを拡大しに来たんでしょう。アイツを追えば奴らの住処を見つけられますよ!」
「じゃあ今日はオーク討伐に変更だ。」
「任せてください!」
しばらくオークを観察しているとおもむろに地面の臭いを嗅ぎ始めた。俺はオークが何をしているのか理解できずジュナに尋ねた。
「なぁ今オークが地面の臭いを嗅いでたと思うんだけどあれって何してるんだ?」
「あれはビリヤーのナワバリを確認してるんですよ。ビリヤーたちは自分たちのナワバリを臭いで決めるんですけどその臭いを確認してるんですよ。ビリヤーがまだいるのなら臭いがする筈だけど、リフォンさんたちが討伐したから臭いがしなくなってきてるんだと思います。」
「ならオークがこの辺りに住処を移す可能性があるって事か?」
「可能性はあります…」
「みすみす放っておけないな。」
「そうですね。」
そんな会話をしているとオークがゆっくりどこかに歩き始めた。オークたちの住処を特定するために俺たちは気づかれないようにでも見失わない程度の距離を保ちながら上空から後をつけた。オークの歩みはかなり遅くかなりの時間が無駄になった。それでも後をつけていると一部だけ木々が伐採されているところが見えてきた。そこがオークの住処だった。住処は伐採した木々を使って簡易的な壁が作られていて、ここは俺たちの家だと主張しているようだった。そこは村から数キロ離れた場所にあり近くはないが遠くもない。でもオークが村を襲う危険性は十分にある。したがって、このオークは村の人たちを守るために討伐しなくてはいけない。ジュナもそれを理解しているのかやれますという顔で俺のことを見つめてきた。
「実戦に慣れるために上から魔法を打って終わりじゃなくて正面攻撃して経験や積むんだ。」
「はい分かりました!」
俺たちはオークの住処の近くに降りて正面出入り口に向かった。正面入り口に着くとそこには体長三メートルはあろう体躯のオークがいた。オーク同士は何やらガウガウと言って意思疎通しているようだった。そして俺たちに向かってガウガウと言ってきた。でも俺たちは何を言ってるのか理解できずオークたちはさっきより強い口調で言った。それでも理解できない俺たちに腹を立てたのか大声を出して殴りかかってきた。上から振り下ろすように殴ってきたから地面はオークの拳によって凹んでいた。そのパンチをもろに食らったらひとたまりもないことを理解した俺たちに緊張が走った。
「やります。」
「後ろに俺がいるから安心してぶっ放せ。でも気をつけろよ。」
「はい!」
ジュナはオークの目を見つめて相手の行動を警戒しながら魔法のイメージを始めた。オークたちは何をしているのか分からないのか呆然としていた。ジュナはその隙に魔法のイメージを完成させて二匹のオークに火魔法を打った。ジュナの狙いは正確で顔面に一発ずつ入った。オークの頭は跡形もなく消え去っていた。山肌を抉り取る威力を出せるのだからオークの頭なんて簡単だったようだ。ジュナはそのあっけなさに少しキョトンとしていた。
その様子を見ていた住処の中にいたオークたちが怒って唸り声をあげながら俺たちに向かってきた。ジュナは落ち着いて再び火魔法を打った。今度はさっきの火魔法を散弾のようにしておりジュナのセンスを感じた。何匹かのオークはかろうじて火魔法を避けたが、大半のオークは致命傷を負った。それでもオークたちは臆することなく向かってきたが、ジュナはいとも容易くオークを討伐した。
「やりました!どうでしたか?」
「油断大敵だ。まだオークが残ってるかも知れない。中も確認するぞ。」
俺たちは住処の中に入り家のように組まれている木の中を見て回った。一際大きい木の家がありその中を見ると子供を抱いているオークがいた。乳房があり母親だと分かった。これを討伐するのはちょっとキツイなと思っていると、ジュナが何の躊躇もなく火魔法を打った。
「え?」
俺はあまりの躊躇いのなさに引いているとジュナが言った。
「リフォンさん。コイツらは俺たちの家族を村の人たちを襲う危険性があるんですよ。そんな奴らを放っておけますか?生かしておけますか?この世界はいつ死ぬか分からない世界なんですよ。魔物に魔人魔族は話の分かるやつが多いって聞きましたけど、同じ人間でも盗賊とか蛮族とかいるんですから躊躇しちゃダメですよ。リフォンさんの言葉を借りるなら油断大敵です。」
俺はハッとした前世では誰かに襲われる危険性はあってもそれは日常的ではない。日本は危険な野生動物もいなくて安心安全な毎日を過ごせるがここでは違う。いつ魔物が襲ってくるか分からない。いた魔人が襲ってくるか分からない。そんな世界だ。情けをかけて生かしておいたら復讐されるかも知れない。この世界で情けは命取りだということを痛感した。自分の命を守るために他の命を犠牲にする。肉を食べる事と何ら変わりはない。理解はしているがまだ抵抗はある。ビリヤーたちに対しては何とも思わなかったが、オークたちに対しては同情してしまった。その一瞬の油断が死に繋がる。俺はその事実を受け止め心に留めた。
次回もお楽しみに