79話 ジュナと旅をする決意
俺が猫を被り人間の姿になれるようになり活動の幅がかなり広がった。それに伴いこの村に滞在する理由がジュナだけになってしまった。元よりそうだったが、それ以上に様々な場所に行けるようになったからどこかに行きたいのだ。でもジュナに魔法を教えると約束した以上きちんと教えないとジュナに失礼になる。でも俺たちはジュナにどこまで教えるのか明記しておらず、どこまで教えたら終わりなのか分からない。
(リベル、俺たちってジュナにどれだけ魔法を教えるんだ?)
(え?あー…決めてなかったね…どうしよか。)
(水魔法を教え終えたらで良いんじゃないか?)
(それもそうだね。伝えてくるよ。)
リベルは水魔法の訓練をしているジュナの元に行きその旨を伝えた。
「えー!?もうですか?」
「ごめんね。僕たちもやるべき事があるから…」
「でも…」
まだ物足りないのかジュナは嫌だと目で訴えている。リベルもそれに気づいたが即決することは難しいのか眉間にシワを寄せて悩んでいる。
(リベルここで時間を使ってる場合じゃないと思うだけど…)
(でも、ジュナに情湧いちゃったし…)
(えー…)
「師匠たちはこれからどこに行くのですか?」
「最終目標は決めてるけど道中は行き当たりばったりって感じだよ。ここに来たのだってビリヤーを討伐するためだからね。」
「俺がついて行ったら邪魔ですか?」
「えっ!?じゃ、邪魔じゃないけど…ちょっと待ってて。」
(リフォンどうする!?)
あまりにも予想外な提案に俺たちは困惑してしまった。魔法を使い始めたジュナを連れて特認実習をするのはかなり無理があると思う。でも一人の魔法使いを育てながら特認実習を終える事ができれば、かなり良い経験になるし特認実習の成果にもなるメリットはある。ただしジュナを育てながらというデメリットがあまりにも大きい。それにもし正面戦闘になった場合ジュナの守りながらというデメリットもある。俺が思慮を巡らせているとリベルが言った。
(ジュナを連れて行こう!)
(え、マジで!?)
(マジで。)
(俺にはデメリットが大きいと感じるんだが…)
(デメリットも大きいけどメリットも大きいよ。きちんと育てれば戦力になるし、ジュナの将来も明るいものになる!どうかな?)
(いやーでも…)
俺が決断を渋っているとジュナが言った。
「俺何でもやります!強くなります!どんな魔物にも怯えず戦います!師匠たちの力になりたいです!」
(分かったよ。でも俺はジュナを弟子として扱わずリベルと同じように一人の仲間として扱う。一方的に守ったりせず、対等に扱う。だから後三日間で俺がジュナを一人の魔法使いとして一人前になれるように訓練するから覚悟しろって伝えてくれ。それと俺が人間の姿になれる事も伝える。特認実習を共にするのだから話しておかなくてはいけないからな。)
(分かった。)
リベルは俺が言ったことを一言一句違わずジュナに伝えた。それを聞いたジュナは今までの子どもらしい柔らかな表情から一変して覚悟を決めた男の顔になった。
「師匠俺頑張ります!」
ジュナの覚悟に呼応するように俺の覚悟も決まった。
(今からビリヤーの巣穴付近に連れて行って俺が喋れることと猫被りを伝えてくる。すぐに帰ってくるから明日からの特訓の内容を考えておいてくれ。)
(分かった。)
「し、師匠どうしたんですか?」
俺はジュナの胸に飛び込み風魔法で飛び立ちビリヤーの巣穴付近に向かった。
「し、師匠何をするのか教えてください!」
「ちょっと待っておけ。」
「え!え?え!?師匠喋れるんですか!?」
「人に聞かれたくないから誰もいないビリヤーの巣穴付近に向かってるんだよ。」
「わ、分かりました!」
ジュナは静かに時が来るのを待った。
「ここだ。」
巣穴付近に降り立ち説明を始めた。俺がリベルの使い魔であること。喋れる使い魔は滅多にいないこと。アイテムを含め火、水、風、氷魔法を使えること。俺たちは学園の生徒で特認実習をしていることを伝えた。ジュナは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「今から伝えることはトップシークレットだ。絶対に喋るな。喋ったら命はないと思え。」
「わ、分かりました。」
ジュナは固唾を呑み待った。俺はその様子を見て猫を被った。前と同じようにリベルの姿を思い浮かべて猫を被った。
「リ、リベル師匠…?」
「そう見えるのも無理はない。これは俺独自の魔法で思い浮かべた人間の姿になれるんだ。これから先俺はこの姿で特認実習をやるつもりだ。他人から見たら俺とリベルは双子だと思われるだろう。だから適した対応をするように。何か聞きたいことはあるか?」
「名前は今のままリフォンですか?」
「あぁそうだ。それから今後師匠とは呼ばなくて良い。リベル、リフォンと呼べば良い。もし憚られるのなら好きに呼べ。」
「じゃあリベル兄さんとリフォン兄さんはどうですか?」
「兄さんはやめてくれ。ただでさえ俺は公爵家リベル・ペタフォーンの双子として振る舞おうとしているのに、ジュナまで兄弟のように振る舞うとあらぬ噂が立つかも知れない。だから兄さんはやめておいてくれ。」
「じゃあリベルさん、リフォンさんと呼びます!」
「それなら大丈夫だ。他に聞きたいことはないか?」
「リフォンさんは俺を助けてくれた時光魔法を使っていましたよね?何故さっき使えると教えてくれなかったのですか?」
「あぁ…」
俺はジュナが覚えていないと思い伝えなかったのが仇となった。どうしたものか悩んでいるとジュナが聞いたらまずかったのかも知れないと思ったのか慌てている。それを見て俺は微笑ましいと思い闇魔法は隠して話すことにした。
「そうだよ俺は光魔法も使える。でも光魔法は普段使わないからあまり得意じゃないんだ。だからと言って他人に言いふらしたりしたら怒るからね。」
「はい!リフォンさんの事は誰に聞かれても1ミリたりとも答えません!」
「ヨシ!それでこそジュナだ!明日からスパルタ訓練で行くから覚悟しておくように!」
「はいよろしくお願いします!」
俺は猫の姿に戻りジュナに抱き抱えられて村に戻った。明日からの訓練をどうするのかベッドの上で考えているうちに眠りについてしまった。
次回もお楽しみに