76話 ジュナの魔法
俺とリベルは早朝ジュナを待つ為に村の中央の広場に向かった。するとそこに人影があった。
「おはようございます!」
元気良くジュナが挨拶してきた。やる気は十二分にあるようで教える側としてそのやる気に応えなくてはと思った。でも俺は使い魔の猫でジュナ直接話すのは憚られる。だからと言って逐一リベルを介して意思疎通をすることは面倒だ。どうするべきか悩んでいるとリベルが妙案を思いついた。
(僕がメインで教えてリフォンがサブで教える?)
(多分光魔法のことも聞いてくるだろうからその時は俺に教えてもらったっていう体でやれば良いか。)
(そうだね。ついでに僕の魔法も見てよ。ダメな所とか改善できる点があれば夜にでも教えて。)
(へいへい…でも文句は受け付けないぞ。)
(分かってるよ。)
「それじゃあ僕が教えてあげるね。本当はリフォンに教えて貰いたいだろうけど、リフォンと会話できるのは僕だけだから基本的な事は僕が教えるね。」
「はい!お願いします!」
まずジュナの魔法適性を確かめるところからだ。リベルが火魔法を見せてイメージの仕方や感情の込め方など事細かく教えた。子どもの吸収力とは凄まじいものですぐに小さな火魔法を出現させることに成功した。ジュナは初めて魔法を使ったのか嬉しそうにはしゃいでいた。でも俺はそこで一つの疑問が浮かんだ。ジュナを森から助けるときに傍でビリヤーが死んでいた。俺はてっきりジュナが魔法を使って討伐したものだと思い込んでいた。でもジュナの反応を見るに初めて魔法を使っているように見える。俺は真相を確かめる為にリベルにテレパシーをして聞いた。
(なぁリベル、ジュナにビリヤーに襲われた時のこと覚えてるか聞いてくれないか?)
(わ、分かったけど急にどうしたの?)
(気になったんだ。)
「ねぇジュナ、ビリヤーに襲われた時のこと覚えてる?」
「え、何のこと?」
「お、覚えてないの?」
「分かんない。」
ジュナの受け応えを見るに本当に覚えていなさそうだった。より一層どうやってビリヤーを討伐したのか疑問が深まった。そこで俺は一つの仮説を立てた。それは死ぬことに対する恐怖心や生きたいという生存本能が魔法を使ったのではないかというものだ。これに実証することは気が引けて行いはしないが、可能性は十分にあると考える。
(ショックで忘れてるだけかも知れないからそのまま続けてくれ。)
(分かった。)
リベルはそのまま魔法を使うコツや自分が意識していることなど全てを教えた。ジュナはそれを全て実践したが、まだ俺たちのように魔法を使う事はできなかった。経験や才能によるところが大きい魔法では仕方ないだろう。でも今これだけ魔法が使えるという事はかなりの才能があると思っても良いと思った。
「他の魔法はないの?」
「まずは火魔法がきちんとできるまでやって、それから水魔法を教えてあげるから。今は火魔法を頑張ろう!」
「分かった!」
そう意気込むジュナだったがしばらくすると顔色が悪くなってきた。俺は魔力切れだとすぐに理解しリベルに今日の特訓の終わりを告げさせた。ジュナはまだできると虚勢を張っていたが、魔力切れの大変さを知っているリベルが説明するとジュナも納得してくれた。
昼下がり俺たちはビリヤー山脈をサンドバッグに魔法を使いまくっていた。後にビリヤー山脈を訪れた冒険者によって俺たちの魔法痕は魔神の実験場と恐れられることとなった。
次回もお楽しみに