75話 ジュナへの特訓
ジュナを助けた翌日俺はアールノン家で朝御飯を食べていた。アールノンはジュナたち家族の名字だということを昨日の宴の時に知らされた。
朝御飯を食べ終わりリベルと共にビリヤーの残党がいないかパトロールをしていた。その間もまだジュナは目を覚さない。かなりの傷を負っていたから体力をかなり消耗したのだろう。数日寝込むことは予想できていたが、村の住人たちは心配そうにジュナの面倒を見ている。大丈夫だとリベルに説明してもらったがそれでもやっぱり心配なのかつきっきりで面倒を見ていた。
「ジュナを助けた時のこと教えてくれない?」
「あぁ言ってなかったな。」
俺は昨日ジュナを見つける為に木々の間を飛び回ったことやジュナの傍にビリヤーの死骸があったことや光魔法で回復させたことを話した。そしてアールノン夫妻にはジュナが遊び疲れて寝ていたと伝えたことを話した。
「それって大丈夫?」
「何がだ?」
「ジュナがビリヤーを討伐した可能性があること。」
「まぁ良いだろ。何か不都合があるわけでもないし。」
「ていうかあの歳でビリヤーを単独討伐なんてかなり凄くない?ビリヤーってかなり凶暴だし魔法で倒したとしか思えないんだけど…」
「それで才能があるんだから魔法を教えてって言われるかもって?」
「うん…」
「別にそうなったら教えたら良いだろ?」
「僕たちの目的はジャドゥー帝国に行くことだよ。そんなことをしてる場合じゃないと思うんだけど…」
「賢者は魔法を極めて人間に教えたから今俺たちは魔法を使えてるんだ。俺は賢者同様に魔法を誰かに教えたいと思ってるんだ。それに教えることでさらに身につくって言うだろ?」
「確かに独りよがりな魔法よりは良いね。それにジュナが僕たちの後輩になるかも知れないしね!」
「そうなる可能性はかなり低いだろうがな。」
そんな話をしているとビリヤーたちの巣穴に着いた。昨日の氷は溶けておりそこにはビリヤーたちの死骸だけがあった。流石にそのままにすることは環境的に良くないと思い、風魔法でビリヤーたちの死骸を包み村に持ち帰ることにした。帰り際にもビリヤーが残っていないか注視していたがその様子はなかった。おそらくこの辺りをナワバリとしていたのが昨日のビリヤーの集団だったのだろう。しばらくあの村がビリヤーの被害に遭うことはないだろう。
村に戻りビリヤーを村の中央に置くとみんな目を丸くしていた。それもそのはずだ。50を超えるビリヤーが風魔法によってふわふわと浮かびながら運ばれてきたのだから驚かない方が無理だろう。
「こ、これを君たちがやったのか…!?」
「はい。まぁ運が良かっただけですよ。僕たちビリヤーの肉とか素材とかどうやって利用すれば良いのか分からないので教えていただけないですか?その代わりにこのビリヤーの死骸はお好きにしてもらって構いません。どうですか?」
「そ、そんなことで良いのかい?ワシらに教えられることなら何でも教えるよ。それにワシらは恩を返したいんじゃ。だからビリヤーの死骸も貰えないんじゃが…」
「いえいえそれとこれは別です。それに僕たちはこんなに多くの素材持っていけないですから。」
「ほ、本当に良いんですか?」
「はいリフォンも良いよね?」
「ンニャ。」
「それでは若い者を連れて参りますので少々お待ちください。」
少しすると畑の方から30代ぐらいのガタイの良い男の人が5人ほど来た。
「「「おぉ…」」」
あまりの光景に言葉が出ないようだ。
「これを解体すれば良いんですかい?」
「はいお願いします。」
それから村の人たち総出でビリヤーを解体し始めた。俺たちはビリヤーの体の構造がどうなっているのかや血の処理、皮の剥ぎ方など様々なことを勉強させてもらった。50を超えるビリヤーを全て解体する頃には日が暮れてしまっていた。そして解体で汗を流した男性陣を労うようにビリヤーの肉を使った料理を作り始めた。少しすると肉の焼ける良い匂いがし始めて男性陣はまだかまだかと待ち望んでいた。
「お待たせできたよ!」
「待ってました!」
「やっとか!」
男性陣は勢い良くビリヤーのステーキを食べ始めた。俺たちもわけて貰い楽しいひと時を過ごした。
「良い匂いする!俺のは!?」
聞き覚えのある幼い声にみんなそっちを向いた。
「「ジュナ!」」
アールノン夫妻がジュナを抱きしめた。ジュナは何が起きているのか把握できないのか、何故抱きしめられているのか分かっていないようだった。
「あっ!?思い出した!」
そう言うとジュナは両親を振り払い俺の所に駆け寄ってきた。
「俺に魔法を教えて!」
開口一番が感謝の言葉ではなく教えを乞う言葉に俺は呆れた。それは俺だけはなくみんな思っていたようで村のみんな口々に感謝の言葉を言えと怒られていた。ジュナは驚いていたが助けられた時のことを思い出したのか、俺の目を見つめて感謝の言葉を伝えてきた。
「助けてくれてありがとうございました!」
「ニャー!」
「どういたしましてって。」
「それより魔法教えてください!」
(何でそんなに教えて欲しいのか聞いてくれ。)
(りょーかい。)
「何でそんなに魔法を学びたいの?」
「そっちの大きな猫が俺を助けてくれたから俺も村のみんなを助けれるようになりたいんだ!」
心意気は良し。年齢も悪くない。村に恩を売ってるからしばらく滞在していても何も文句は言われないだろう。でも問題はジュナの才能と時間が短すぎることだ。俺たちはこんな所でのんびりしている場合ではない。だからと言って若い芽を摘むのは忍びない。どうするべきか悩ましい。
(良いんじゃない教えてあげても。それにまだ2年生になってないんだから時間はあるよ。)
俺はその一言を待っていた。リベルが早く魔法の上達を目指しているように感じていたから時間が惜しいと感じていたが、そのリベルが時間があると言ってくれたのなら何も悩むことはない。
(明日の朝から教えるって伝えてくれ。)
「明日の朝から教えてくれるって。」
「やったー!じゃあ俺肉食って早く寝るね!」
そう言うジュナは美味しそうに肉を食べた後家に戻った。俺にもリベルにもあんな時代があったのかと思うと感慨深いものがある。
次回もお楽しみに