70話 特認実習
(なぁリベル、もうすぐ1年終わるけどリベルの誕生日っていつなんだ?)
(1月8日だよ。入学式の日だからわかりやすいでしょ?)
(そうなのか何か誕生日プレゼントで欲しい物はあるか?)
(え?そんなのいらないよ。気持ちだけで十分だよ。)
(誕生日プレゼント贈らないのか?)
(あんまり贈らないね。何か特別な時以外贈らないよ。それこそリーン兄さんがくれた入学祝いぐらいじゃないと贈り物はしないよ。)
(そうなんだな…俺は欲しいと思うけどな。)
(じゃあ僕がリフォンに誕生日プレゼントを贈ってあげるね!)
(良いのか!?)
(良いよ。でもリフォンって誕生日いつ?)
(リベルが召喚してくれた日が良いな。)
(なんかロマンチックだね。)
ベッドの中で笑いながら俺たちはくっついて寝た。この世界にも四季があり肌寒くなってきたのでリベルの腕の中に抱かれて眠るのが暖かくそして心地良くて朝までぐっすりだ。
「ンニャー。」
俺は今日リベルより早く起きた。リベルの体温を感じ目覚める朝の幸福感は言い表せないほとだ。いつもなら起きている時間帯にも関わらず、今日のリベルは起きない。幸せそうな寝顔を見ると起こすのが憚られる。
「おはよリフォン。」
(おはよ。)
しばらくゴロゴロしていたらリベルが起きた。いつもより遅い時間に起きたけど焦る様子がない。俺は急がなくて良いのか不思議に思い直接聞いた。
(今日はいつもより起きるの遅いのに急がなくて良いのか?)
(急ぐ…?あぁ、学園はもう休みだよ。ホームルームの時にマリー先生が言ってたの聞いてなかったんでしょ。)
(そうなのかもう1年が終わるのか。早いものだな…)
(だよねぇ。そういえばもうそろそろリーン兄さんが特務実習から帰ってくるよ。)
(え?何それ何にも知らないんだけど…)
(あれ言ってなかったっけ?)
(言ってない…)
(リーン兄さんたち4年生は半年間特務実習って言う迷宮攻略に行くんだよ。その間担当の先生が4人ぐらいだっけ?そのぐらいの先生たちと迷宮攻略をして5年生に上がるんだ。)
(それって案外簡単じゃない?)
(簡単じゃないよ!僕たちが攻略した地下迷宮を基準にしちゃダメだよ。普通の迷宮は基本30〜50階層まであってかなり大変なんだよ。でも僕たち学生が攻略する迷宮は長い間ずっと同じ所だから失敗した先輩たちはいないけど、油断して大怪我負った先輩もいるんだから油断しちゃダメだよ!)
(わ、わかった。なんかごめん…)
リベルの剣幕に少し驚いた。危険なこととはわかっているが、ここまで真剣に言ってくれるとは思っていなかった。
(わかってくれたなら良いよ。)
(その特務実習って4年生以外にやる機会はあるのか?)
(5年生以上になったら迷宮を先生たちの力を借りずに攻略するっていう人もいるよ。それは完全自己責任だから学園側は一切の責任を負わないからやる人はかなり少数派だって聞いたな。でも迷宮を攻略できたら飛び級とか1年間の単位認定とかメリットが大きいのも事実だよ。ちなみに学園に通わなくても単位を取れる特別認定実習、略して特認実習ってのがあって、5年生以上の人たちは特認実習をする人が多いって聞いたよ。ちなみに特務実習は特別任務実習だよ。なんで特別任務なのかは、学園の生徒に迷宮攻略を国王様が任務として課したかららしいよ。僕たちの地下迷宮攻略と同じ感じだね。)
(国王は俺たちのことを過大評価しすぎでは?)
(言われてみればそうだね。何でだろう?)
(俺に聞かれても…)
(あははそうだよねごめんごめん。…ところでさリフォン、特認実習やる気ない?)
(は???)
俺の脳はリベルの言った言葉を理解したくないのか、自分から辛い現実に飛び込むことに対する拒否反応なのか現実を受け入れられなかった。
(聞いて良いか?リベルは特認実習をしたいのか?)
(うん…今のまま学園に通ってても成長できない気がするんだ。でも特認実習ならどこへだって行ける、どんな人にだって会える。まだ知らない魔法の境地を知れる。もっと実践的な魔法と剣術を身につけられる!そして僕は誰も魔人たちや魔神教団みたいな恐ろしい存在に怯えなくて良い世界にしたいんだ!)
リベルの理想論はあまりにも現実味がない。どれだけリベルの魔法適性が高くても、俺が女神様と猫の神様からの加護があったとしても無理は禁物だ。それにこの世界のことをまだ人体の小指ほどの割合しか知らない俺が5体満足で特認実習をできるとは思わない。でもリベルは国王以上に俺のことを過大評価してる。だから特認実習をしたいと言ってるのだ。
(正直に言うと俺は怖い。前の地下迷宮攻略だって怖かった。それなのに王都から飛び出て全く知らない土地で全く知らない人と全く知らない魔物と戦うことになるんだろ?流石に俺には無理だよ…)
(何でリフォンってそんなに自己評価低いの?地下迷宮の時やったのほとんどリフォンだよ。それに僕なんかより断然魔法のイメージが緻密だし速い。それだけ才能があるのにどうして自分で自分の首を絞めるの?それにお父様が言ってたよ、停滞することは最も恐ろしく愚かな行為だって。たとえ失敗したとしても現状に満足するなとも言ってたよ。お父様って今では屋敷で書類仕事ばかりだけど、若かった時はそれは素晴らしい魔法使いだったって。エクサフォン国の魔法使いで学園長の次に魔法に長けてたんだって!そんなお父様が言ってることなんだよ絶対に挑戦した方が良いって!)
(1つ条件がある。それは絶対に無理はしないことだ。何があっても無理はしないことだ。例外は命が関わっている時だけだ。それ以外ではどんな小さな無理もしない。これを約束してくれるなら特認実習をやっても良い。)
(わかった!マリー先生に話してくる!)
そう言うとリベルは爆速で部屋から飛び出しマリー先生の部屋に向かった。これから先どうなるのか心配で寝つきが悪くならないか不安だ。
次回もお楽しみに