69話 忘れられていた影
俺は久しぶりに夢を見た。
「リフォン!僕のこと忘れているでしょ!」
チャヤの懐かしい声とチャヤを忘れていた自分に対する嫌悪感で俺の心臓は自然と心拍数を上げた。
「チャ、チャヤ久しぶりだな…」
「僕リフォンのこと毎日ずーっと影から見守っていたのに、リフォンは僕のことなんて忘れてたんでしょ!?」
「わ、忘れてなんかいないよ。ただ最近忙しくて…」
「最近大変だったのは知ってるよ!でも…でも…」
チャヤはそう言うとシクシクと静かに泣き出した。俺はモフモフサラサラなメインクーンの長毛を活かしてチャヤを抱きしめた。猫の体で人間のように抱きしめるのは少し苦労したが、今はそんなこと気にせずチャヤを精一杯抱きしめた。
「ごめん、本当にごめん!完全に俺のせいだ。俺にできることなら何でもするから許してくれないか?」
「何でも?」
「可能な範囲で頼む…」
「じゃあ魔神教団のこと僕にも手伝わせて!」
「ちょっと待て流石にそれはダメだ。それに王都から逃げたんだから魔神教団を追う必要はなくなったんだよ。」
「でも何か役に立って褒めてもらいたいの!」
「えー?」
正直言ってチャヤには俺の影にいてもらうことが1番安全だし、何かあった時一緒に逃げられるから今の状態が1番なんだけどどうしたら良いのだろうか。
「ねぇ何でダメなの?」
「そりゃあ何が起こるかわからないし、チャヤが危険な目にあったら嫌だからだよ。」
「僕って影になってる時は実体がないから危険はないよ。それに影だからどこにでも行けるし、諜報活動もできるよ!」
チャヤの提案はあまりにも魅力的で断る方が難しいほどだ。ローリスクハイリターンなんていう詐欺みたいな美味しい話、裏がない訳ないが今回ばかりは別だ。お願いした時のリターンは凄まじいものだろうが、チャヤが危険な目にあう確率は0ではない。でも極めて確率は低いからお願いする方がチャヤの為なのかも知れない。
「ねぇいつまで考えてるの?」
「え?あーごめん。でもチャヤのことを想って考えてるんだ。チャヤは俺が魔神教団のこと調べてってお願いしたらまずはどこから調べる?」
「まずは地下街かな?いなかったら隣国でも国外の魔物が多い地域でもどこでも行くよ!」
「隣国なんて俺でも知らないのにチャヤが行くのか?」
「うん!危険だったとしても安全な場所でダラダラしてるより役に立ちたいって思ってるからね!」
「わかった!ならお願いしても良いか?」
「任せてよ!絶対有益な情報を掴んでくるから待っててね!」
「もし危険だと判断したらすぐに逃げて俺の元に帰って来い。チャヤが生きて帰るのが今回の最終目標だ。良いな?」
「わかった。絶対無茶はしないし、危険だと思ったらすぐに逃げる。ある程度の情報を掴んだらその都度帰ってきて近況報告もするよ。それで良い?」
「あぁ。気をつけてな。」
「行ってきます!」
チャヤの言葉を最後に夢から覚めた。
「あっ起きた。なんかずっとウニャウニャ言ってたよどんな夢見てたの?」
(久しぶりにチャヤが夢に出てきたんだ。)
(久しぶりだね。元気にしてた?)
(あぁ元気にしてたよ。でも最近暇だから何か役に立ちたいって言ってきたんだ。)
(チャヤってそんな子だったっけ?)
(そんなことなかったけどずっと俺の影にいたから何も役に立たないのは嫌だってなったんじゃないかな?)
(それでチャヤは今何してるの?)
(ま、魔神教団の情報収集…)
「ブフー!ゴホッ!…ゴホッ!…え!?」
リベルは飲んでいたコーヒーを吹き出し目を丸くした。
(魔神教団の情報収集だよ。チャヤが自分から申し出てきたんだ。僕なら安全に諜報活動できるって…)
(それでリフォンは許可したの?)
(あぁ…)
(それ大丈夫なの?お父様に怒られたり…)
(大丈夫だよ。チャヤと話してたら精神的にも成長してたのがわかったし、チャヤは影になれるから安全だって言ってた。)
(でも流石に危ないよ。)
(俺だって止めたけどチャヤがどうしてもって…)
(もう遅いんだよね?)
(もう俺の影にいないから見つけるのは無理だろうな。でも注意喚起は散々したし、ある程度の情報を掴んだらその都度帰ってくるって言ってたから大丈夫だと思う。)
(心配だね…)
(正直いうと俺も心配だ…)
チャヤがいつ帰ってくるのかもわからないし、危険な目にあわないかも心配だ。だけどこれはチャヤが自ら志願してきたことだし、その覚悟を蔑ろにする方がチャヤに失礼だと思った。ひたすら学園からチャヤの安心を祈ることしかできない自分が憎い。
次回もお楽しみに