64話 みんなの苦労と俺の責任
俺がリベルを探し始めて3日が経った。ずっと地下街の中を探し回っているが一向に見つからない。地下街は王都ほど人がいなくてすぐに見つかると思った自分を殴りたい。今頃みんながどうしているのか俺には知る由も無い。俺はあまり体力を消費しないためにゆっくりと歩きながらリベルを探した。正直言って今すぐにでも王都に戻りたい。でもがむしゃらにリベルを探したせいでどこから降りてきたのかわからない。誰かに聞くわけにも行かないし手詰まりだ。
一方王都でリフォンを探しているリベル一行
「何か情報はありましたか?」
「ダメだった…」
「リフォンの大きさならすぐに見つかると思ったのに…」
「これだけ目撃情報がないとなると…」
「やめてくれ!言わないでくれ!」
その場にいた者全てが最悪の場合とリベルの大声に黙るしかなかった。皆もう一度リフォンを探しに行った。でもハーリーはリベルの側にいた。俯き絶望に打ちひしがれているリベルに優しく声をかけた。
「大丈夫。リフォンの賢さと強さを一番理解してるのはあなたでしょ?」
「あぁ…」
力のない返事にハーリーは応えずそっとリベルを優しく抱いた。ハーリーの突然の抱擁にリベルは驚きを隠せなかった。でも今のリベルにはその抱擁の温もりが何よりも安心できた。しばらくして落ち着きを取り戻したリベルはもう一度リフォンを探し始めた。
「まだ探してない所ってどこ?」
「基本的に王都は全域探したよ。」
「残ってるのは…」
リベルは目を見開き何か閃いたようだ。
「みんなを寮に集める!」
リベルはそう言うと空中に大きな火魔法を放った。それはリフォンを探し始める前に決めておいた集合の合図だ。数分でみんなは寮に集まった。
「みんなで手分けして王都を探し尽くしたのにリフォンはいなかった。でも僕たちは王都しか探していなかった。もしリフォンが地下街を知っていたら、知らず知らずのうちに地下街に行ってしまっていたらという可能性を見落としてた。」
「でも地下街にはそう簡単には行けないんだろ?」
ワーナーが残念そうな顔で言った。
「そう僕たちだけでは地下街に簡単には行けない。でも先生方となら簡単に行ける。お願いしますマリー先生。」
「分かったわすぐに取ってくる!みんなは地下街第一門で待ってて!」
マリー先生が風魔法で教員室に飛んで行った。リベルたちは地下街第一門に向かった。
「リベル、地下街第一門って何なんだ?」
ヤハスは地下街第一門のことを知らなかったからリベルに話を聞いた。
「名前の通り地下街に行ける門があるんだけどそれのことを言うんだ。地下街も名前の通り王都の地下にある街だから地下街。何か他に聞きたいことある?」
「門ってことは通行が規制されてるのか?」
「そうだ。地下街は元々治安が悪くて手がつけられなかったんだ。だから門を封鎖して王都の治安を守ってるんだ。学園の図書館にも地下街の歴史について書かれた本があるから興味があるなら読んでみたら良いよ。」
「そこまでは良いかな…」
当たり前な反応を見せヤハスは黙った。しばらくの間みんな黙ったまま小走りで地下街第一門に向かった。学園の西棟の地下に着いた。みんな物珍しそうに周りを眺めている。西棟は4年生から学ぶ学舎だから来ること自体珍しいのだ。さらにそこの地下となるとこれからの学生生活で訪れることは二度とない場所かも知れないのだ。
「みんなお待たせ!」
マリー先生が手に球のような物を持って現れた。マリー先生を見てハイネ先生が地下の壁に向かって光魔法を使った。ただの壁だったそこは見事な大扉へと変化した。マリー先生はその大扉の真ん中の窪んだ所に手に持っていた球を嵌め込んだ。するとその大扉はゆっくりと開いた。ハイネ先生が先に大扉の中に入り安全確認をした。
「ここからは危険な場所だと思い込んでください。そして今からこのメンバー全員でずっと集団行動をします。これはあなたたちの安全のためです。それほど危険な場所だと思い込んでください。」
リベルはマリー先生が言う思い込むという単語に引っかかっていた。
「みなさん大丈夫ですよ。」
ハイネ先生の声を聞いてからみんな大扉の中に入った。そしてみんなが中に入ったことを確認するとマリー先生も中に入り大扉を閉めた。そしてマリー先生はみんなに手を振り見送った。地下街から出ようとするやつらを通さないためにマリー先生が門番となるためにここに残るのだ。
「何でマリー先生は来ないんですか?」
メアリーがハイネ先生に聞く。
「私たちが地上から来たと知られたら地下街の人たちが王都に流れ込むかも知れないからです。それを防ぐためにマリー先生が残ってくれているんです。」
「地下街のやつらってどんな感じなんですか?」
カナタが聞いた。
「私も詳しくは知りません。聞いた話によると平気で犯罪をするとだけ。」
「それって本当ですか?」
「会ったことがないので本当かはわかりません。」
しばらく階段を降りているととある木造の民家のリビングに繋がっていた。
「おやハイネ先生!お久しぶりです。」
「突然申し訳ありませんタイメさん。サータ君久しぶり、メイちゃんも久しぶり。」
「久しぶりー!」
「お久しぶりです。」
10歳ぐらいの女の子はハイネ先生の足に抱きつき、男の子の方は何食わぬ顔で本を読んでいる。
「ティーニャさんはいないのですか?」
「今買い物に出掛けてまして、それより学生さんを連れて何かあったんですか?」
「それがこのリベル君の使い魔のリフォン君が行方不明でして、王都中を探し回っても見つからなかったからこちらに来た感じです。」
「使い魔が地下街に来れるとは思わないですけどね。」
「普通はそうなんでしょうが、今回はそうも行かないんです。話すと長くなるので簡潔に伝えますと、とても賢い使い魔なんです。」
「ちなみにその使い魔の見た目は?」
「1メートルぐらいの大きな猫です。」
その返事を聞き3人は固まった。
「どうかしましたか?おーい!」
ハイネ先生の問いかけにも応えなかった。
「あのー何か知ってるんじゃないですか…?」
リベルが聞くと3人の肩が跳ねた。
「図星ですね!?どこにいるんですか!教えてください!」
リベルは大声を上げタイメを問い詰めた。少しするとタイメが口を開いた。
「…られた。」
「もう一度お願いします。」
あまりにも小さな声でリベルは聞き取れなかった。
「に、逃げられました…」
タイメの言葉にリベルの感情はぐちゃぐちゃにされた。リフォンが生きている、地下街にいる確証とリフォンが逃げてしまった事実そして、地下街でリフォンを探さないといけない恐怖。感涙で顔もぐちゃぐちゃになってしまった。
「でも地下街にいる確証が得られたのはとても大きな一歩です。とりあえずリベル君はリフォン君にテレパシーをし続けてください。そしてみなさんはここで待機していてください。生徒を危険に晒すような真似はできる限りしたくありません。ですので、リフォン君が見つかった場合は寮に集合する合図と同じ火魔法で教えてください。それでは行って参ります。」
そう言い終えるとハイネ先生は走り出した。リベルは早速テレパシーでリフォンに話しかけた。
(リフォンいる?聞こえてるなら返事をして!)
テレパシーには反応がない。テレパシーの範囲外にいるがやめることなくずっとテレパシーをし続けた。
一方屋根の上からリベルを探しているリフォン
「お腹すいたなぁ…こんなことならあの家にいた方がマシだったかな…?」
一日中リベルを探し続けていたため体力は完全に底をつき喉もカラカラこのままゆっくり死を受け入れるしかないと思っていた矢先聞き馴染みのある声が聞こえて来た。
「リフォン君!いませんかー?リフォン君!」
ハイネ先生の声だ。でも猫の声を出そうにも喉がカラカラ過ぎてまともに声が出なかった。ハイネ先生の声が聞こえる方に行こうにも体が言うことを聞いてくれない。このまま見つけてもらえず死にたくないと思い最後の力を振り絞り、小さな火魔法を出すことに成功した。そこで俺の意識は途切れた。
目が覚めると懐かしくでも一番望んでいた天井が目に入った。立ち上がろうにも体の節々が痛いと思ったが、光魔法で全て治っていた。俺は側で眠っていたリベルの頭をポンポンと叩いた。
「ん…」
まだ眠たそうにしていたからそのまま寝かしておいた。俺は自分の首に学園の首輪が装着されてあることに気がついた。緊急事態でもない限りこの首輪は外さないと心に決めた。
「ふわぁーあ…」
リベルの大きな欠伸に俺は涙が出そうになった。やっと俺の日常が戻ってきたんだ。そう思うとリベルの腕の中に抱かれたいと思い行動に移した。
「リフォン…?」
リベルはまだ寝ぼけているようで懐に入ってきた俺を不思議そうに見つめている。目の焦点が合い俺と目が合った。その瞬間リベルは急に笑顔になった。
「リフォン!お帰り!お帰り!!お帰り!!!」
段々声量を増すお帰りに耐えかねてリベルの懐から脱出した。リベルはあっと情けない声を出して寂しそうにした。そんなリベルを見て自責の念に駆られた俺はもう一度リベルの懐に飛び込んだ。リベルは俺の事を今までにないぐらい強く抱きしめた。もう一生離さないと言ってるようだった。
(ごめん…)
俺は謝った。このごめんには様々な意味があった。でもリベルはそれを全て理解してこう言った。
「お帰り、リフォン!」
次回もお楽しみに