55話 ダンジョン
異世界に転生した俺はリフォンという名を貰い猫生を送る事になった。でも優雅に生きて死ぬだけでは面白く無い。異世界に転生したのに勿体無い。異世界を思う存分堪能してやる!
魔法特訓を始め1ヶ月が経とうとしたある日。
「リフォン起きてお父様が呼んでるよ。」
まだ日が昇って数時間しか経っていない時間に起こされ、俺はまだ寝たいから不満を露わにした。リベルはそんなこと気にせず、俺を抱き抱えグロウの部屋に連れていった。
「連れて来たよ。」
「ご苦労。大事な話がある。3人には今日からダンジョンに潜ってもらうことになった。」
「「えー!?」」
俺は眠すぎて何も聞いておらず、2人が驚いている声で意識が戻って来た。
「ルネスが同行してくれるから心配するな。それに良い経験になると思うぞ。3人の魔法の才能は十分に理解している。明らかに下のレベルのダンジョンを選んだから死ぬ可能性はゼロだ。それ以外で心配なことがあるのか?」
「心配なことは無いけど急すぎない?」
「長期休暇はあと1週間しか無いんですよ。それなのにダンジョンに潜るなんて…」
「私もこんなに早く時間が過ぎるとは思っていなかったんだ。もっと早くにやらせる予定だったんだが、仕事が忙しくて時間を作れなかったんだ。申し訳ない。」
「なら事前に伝えておいてよ。」
「それじゃあ意味がないと思ったんだ。危機はいつ訪れるか分からない。こうやって喋っている時にも危機は訪れる。だから伝えておいたら意味がないと思ったんだ。」
「一理ある。」
「一理ありますね。」
2人は頷いた。俺はこの2人の考えが未だ理解できない。
「それじゃあ準備してくるね。」
「俺もそうします。」
そう言うと2人は急足で自室に戻った。俺はグロウの部屋で再び眠りについた。
俺は爆睡してしまっていたようで、気がつけば馬車に乗っていた。
「やっと起きたんだね。もうすぐ着くって。」
「もう着くのか?」
「もうって言うけど、2時間は経ってるよ。」
俺は予想以上に寝ていたようで、馬車になっている暇な時間をスキップ出来たのは僥倖だ。
「リベルお腹空いてない?」
「大丈夫だと言いたいけど多分後からお腹が空いてくるだろうから食べておくよ。」
俺はジャーキーを頬張りダンジョンに備えた。ジャーキーを食べ終わると同時に馬車が止まった。
「降りるぞ。」
リーンに促され俺たちは馬車を降りた。目の前にあったのはピサの斜塔のような塔だった。その西洋風の造りに感心していると、リベルが俺を抱き抱え塔の前に連れて行かれた。
「入るぞ。」
「うん。」
2人は緊張した面持ちで足を踏み入れた。それに続いて俺とルネスも入った。中に入ると2人が立ち止まっていたのでどうしたのかと聞こうとした瞬間内装に目を奪われた。大理石のような石材で造られた柱や壁、それらを装飾するランタンなど、どれをとっても一級品で瞬きをするのを忘れるほどだった。幾何学的なその内装にはルネスも驚いているようだった。
「すごい場所だな...」
「うん...こんな場所本当に僕たちで攻略できるのかな?」
「心配ございませんリベル様。私たち3人で力を合わせればかなわない敵などいません。」
「そうだといいけど...」
いつもは強気なリベルが珍しく弱気だ。今までとは一風変わったダンジョンにおびえているのだろう。
「大丈夫だ。危険になったら逃げればいい。辛くなったら帰ればいい。俺達には選択する権利がある。それにルネスもいるしリーンもいる。俺たちが負ける道理はどこにある?」
「そうだね。自信もって立ち向かうよ!」
俺たちは歩みを進めダンジョンの深層に向かった。しばらく歩いたが魔物の1匹や魔族すらいない。明らかに今まで経験してきた魔神城や地下迷宮とは違い異様な雰囲気を纏っていた。
「ねぇここまで何もいないのおかしくない?」
「俺はダンジョンに始めて来たがこれが普通じゃないのか?」
「私が説明しましょう。ダンジョンや迷宮は基本的に階層の道中に魔物がいるのが普通です。しかしレアケースもございます。今回のように階層ボスだけのダンジョンや迷宮がございますのでそのようなケースだと思われます。」
「助かる。なら階層ボスに挑む前にそれなりの準備をしたほうが良いんじゃないか?」
「そうですね。ですが私たちにはそのような準備は...」
ルネスが言葉を止めると3人が俺のことを見た。俺はその瞬間光魔法の恩恵をかけてくれと目で訴えていた。俺はしょうがないなとため息をつき3人に恩恵をかけた。初めて3人に恩恵をかけたがすんなりと成功した。長期休暇の間ずっと魔力感知の特訓をしていたから、魔法の扱い方が体に馴染んだようだ。
「久しぶりに恩恵かけてもらったけどやっぱりすごいよね!」
「本当に驚くよ。体が軽くなって、力が増した感じが立ってるだけで分かるんだからな。」
「これはすごいですね!いつまでも体感していたいですね。」
「そんなに良いのか?自分にはかけられないから俺も体験してみたいな。」
俺の恩恵を受けた3人は俺を連れて緩く走ったつもりなのだろうが、恩恵の影響ですさまじい速さになっており俺の顔面の皮膚が風で靡いてしまうほどだった。そんな速さで走ったのだから階層ボスの部屋に着くのがあっという間なのは当たり前だ。
「着いたね。」
「着いたな。」
「着きましたね。」
「行くか?」
「「もちろん!」」
「仰せのままに。」
俺たちは階層ボスに挑んだ。
次回もリフォンの猫生をお楽しみに。