5話 魔法とは
異世界に転生した俺はリフォンという名を貰い猫生を送る事になった。でも優雅に生きて死ぬだけでは面白く無い。異世界に転生したのに勿体無い。異世界を思う存分堪能してやる!
リベルがエクサフォン学園に入学するための試験勉強を始めて約三ヶ月が経った。俺も今の生活に慣れ毎日の幸せを噛み締めている。いつも通りリベルの部屋で俺は惰眠を貪っていた。リベルは集中力を前より低くして自分のタイミングで休憩を取っている。だから俺は惰眠を貪る事が許されたのだ。
「リベル、リフォンいますか?」
珍しくマイヤーが訪ねてきた。
「どうしたのですかお母様。」
「あなた宛に手紙が届いたのをメイドに届けに行かせようとしたのですが、何やら魔力を感じれるので私が来たのです。」
リベルとマイヤーの顔は今までに見た事ないぐらい怖い顔をしていた。
「俺が開けようか?見えない手で。」
リベルはその手があったかという表情をした。
「リフォン無茶はしないようにしてくださいね。」
「分かってるよマイヤー。」
俺はリベルの手にあった手紙を見えない手で掴み窓の外で手紙の封を開けた。次の瞬間手紙から火柱が上がった。俺たちは呆然とするしかなかった。
「何だったんだ今の?」
リベルは顔面蒼白だった。俺も猫だから顔には出ないが同じような顔をしていたであろう。
「とりあえず手紙は燃えていないから読んでみよう。」
魔法というものは使い方次第で災害を最小限に食い止める事もできれば、人をいとも簡単に殺す事ができる恐ろしい物なのだと認識した。
「誰がこんな事をしたというのですか!」
マイヤーは顔から火が出そうなほど怒っていた。
手紙に書かれていた内容はこうだ。
―君たちはまだまだ青い。学園に入るより私の元に来た方がよっぽどためになる。才能を腐らせるのは愚かな行為だ。もし君たちが私の元で魔法について学びたいのなら返事を適当な所に送ってくれ。それは私の元にきっと来るだろう―
その手紙に差出人の名前は無く手の打ちようが無い。
「グロウに知らせて来ます。」
マイヤーは手紙を持って部屋から出ていった。いつもより声のトーンが低く怒っているのは火を見るより明らかだった。
「さっきの手紙誰からだったんだろうな?」
「分からないけどこんな魔法を使えるぐらいだからきっとかなりの手練れだよ。」
リベルは物怖じせず今の状況を分析している。この子が本当に十二歳なのか疑わしくなって来た。
「さっきの魔法は何だい?!」
急いでシータがやって来た。さっきの魔法を見たのだろう。
「手紙から火柱が出てきたんだ。」
俺は見た物をそのまま伝えた。
「いやそれは見えてたけど、差出人は?」
「それはいまお母様とお父様が話し合ってる最中だ。」
「あんな高度な魔法を出来る奴なんて限られている。」
三ヶ月の間に俺もかなり魔法の事を学び使ってきたが、手紙から火柱を出すなんて魔法は莫大な魔力と技術が必要になる。シータでも今回のような魔法を使うのは困難だろう。
「リベル、リフォン大丈夫だったか?」
グロウが部屋に来た。マイヤーと手紙の件で話し合っているのかと思ったが終わったのか、それとも俺たちが心配で見に来たのかは定かでは無い。
「俺たちは大丈夫だ。」
「そうか。それなら良かった。ところでさっきの手紙の魔法の事なんだが…シータもいるのかならここで説明しよう。」
グロウは噛み砕いて説明してくれた。
「今回の魔法は事前に時間を決めておいてその時間になったら強制的に魔法が発動する物だった。だがその魔法はもう一つ魔法を発動させる条件を決めれてそれが手紙の封を開ける事だった。そこまでは分かったが、誰がどこから送ってきたのかは分からなかった。」
グロウは自分の膝を殴り悔しさを露わにした。
「グロウ一つ聞いても良いか?」
「ああ、構わないぞ。」
「誰がどこから送ってきたのが分からないのは魔力が薄いからか?それとも隠すような魔法があるのか?」
「後者だ。リフォンもシータから習っただろうこの世界の魔法の種類を。隠蔽する事が出来るのは闇魔法だけだ。」
闇魔法か、俺も使えるがまだ一度も使える事を言っていないから練習すら出来ていないんだよななんて関係ない事を考えている暇は無い。
「そうか。なら今後の対策を考えておかないといけないな。」
「ああ、その通りだ。明日から闇魔法が得意な魔法使いを雇うつもりだ。その者に我が家に届いた手紙の行方と差出人を探してもらう。」
「なぜ手紙の行方を追う必要があるんだ?マイヤーが持っているはずだろう。」
「つい先ほど手紙も燃えてしまったのだ。私の落ち度だ。証拠隠滅なんて当たり前の事なのに抜け落ちてしまっていたのだ。」
誰にでもミスはあるが手がかりが無くなったのはかなり痛い。
「お父様そんなに落ち込まないでください。僕たちは傷一つついていませんから。」
リベルがグロウを慰める。リベルは本当に出来た子だ。グロウはその優しさに甘える事にしたようでリベルをしばらく抱きしめていた。
「シータお前は放浪者であっただろう。何か情報は無いか?どんな些細な事でもいい。」
「いくつか噂は聞いた事があるがどの集団も力は弱く魔法の才が無い一般人に魔法の崇高さや神への信仰心を煽って人数を増やしているという事は聞いた事はあるが、今回のような高度な魔法を使える者がいる集団は聞いたことが無いから新しく出来た集団かも知れない。」
「神様への信仰心?それはどういう意味だ?」
「この世界では魔法ごとに神様がいてその神様の力を貸してもらう事で魔法を使ってるってわけ。」
「なるほど。ありがとう。」
これ以上手がかりも無いので各々の仕事に戻った。俺は何か情報は無いかと魔法の事が載っている本をリベルに音読してもらった。
「まず火魔法からだね。火魔法は感情の昂りで威力が増す事で有名だ。でも感情だけで左右されるものではない。火魔法はイメージに左右される事が他の魔法に比べて多い。それは火の神アグニに由来するからだ。アグニは心中のの怒りの炎・思想の火・霊感の火として存在しているからだ。」
アグニと言えばインド神話で有名だと前世で聞いた事があるがこの世界ではどうなんだろう。神話として語り継がれているのかも知れないが前世とはかなり違うものとして伝えられているだろう。
「次は水魔法だね。水魔法は水の特性を活かした魔法が多く魔法使いの数だけ水魔法の形式や魔法の形が異なると言われている。そして神様は水神アパーム・ナパートでこの神様はアグニと繋がりが強く、水中におけるアグニを象徴しているそうで火魔法と同じで感情で形を変えれたりするから魔法使いの数だけ形式が異なるそうだよ。」
アグニと繋がりが強いからアパーム・ナパートもインド神話だろう。おそらくこの世界はインド神話が有名でその神様が多くの力を持っているのだろう。神様という事だから信仰心の多さで力が増幅するとかだろう。
「次は風魔法だね。風魔法はその名の通り風を体に纏ったり空気を変質させられたり出来る。神様は風神ヴァーユでこの神様は悪神を追い払った事から信仰心が強く、空を自由自在に駆ける事が出来るそうだよ。でも火と水に比べて自由度はかなり低いらいし。信仰心の高さはその汎用性の高さから来てるのかも知れないだって。」
ヴァーユもとい風魔法についての記述がかなり少ない。風魔法は自由度が低いが汎用性は高いのが魅力的だ。転生する時に風魔法を選ばなくて良かったと思う反面空を自由自在に駆けてみたいとは思う。
「次は雷魔法だ。雷魔法は天候を操れたりするぐらい強大な魔法を使えるけどその反面魔力消費は凄まじく、使い手を選ぶそうだ。神様はインドラでインドラは天空の神としても信仰されているそうで、風魔法のような魔法も使えるそうだ。雷魔法は広範囲に攻撃をする事が出来るが味方に当たってしまうという欠点もあるだって。」
インドラは俺でも聞いた事があるほど有名な神様だ。ギリシア神話のゼウスと北欧神話のトールと肩を並べるほどの神様だからとてつもない力を持っているだろう。
「次は氷魔法だね。氷魔法は水魔法から分かれた派閥で水魔法と似たような特性を持っている。だが氷の神様は存在していないので水神アパーム・ナパートの恩恵をごく僅かだけ受けているため魔法としてはあまり強い部類ではない。しかし、逆に考えれば氷魔法が使えるのなら水魔法も使える可能性が高いので諦めるには早いだって。なんか不憫だね。」
俺も氷の神様は聞いた事がないので魔法としては未完成と言わざるを得ない状態なのだろう。
「次は光魔法だね。光魔法は今までの魔法とは異なって攻撃的な魔法が少ない、と言うのは正しくない。光魔法は光の神または正義の神または維持の神ヴィシュヌが信仰されている。ヴィシュヌは慈愛と恩恵を垂れる事から回復魔法や正義の神という由来から正義を実行する力を持っている。そしてヴィシュヌは十の化身を持っており、その化身の力を使って攻撃的な魔法を使っている。」
ヴィシュヌはインド神話の三大神で維持の神という事は知っていたが、他の側面も持っているという事は知らなかった。
「最後は闇魔法だね。闇魔法は負の感情に対しての感受性が高く、憎しみや恨みという感情に対しては特に高いそうだ。それは闇の神アンダカに由来して闇が世界を覆った時に生まれた神様だ。アンダカは世間の憎悪を受けるそうでその憎悪が闇魔法の力の源になっているから闇魔法の威力効果は絶大だだって。」
世間の憎悪を受けるって苦しそうだな。そういう側面からアンダカはあまり語り継がれなかったのだろう。
「これで説明は終わったよ。後は一つ一つの魔法の説明とコツが書いてあるけど読む?」
「もう大丈夫だ。ありがとう。」
今回で魔法は神様の力を借りている事が分かった。だとしたら俺の見えない手の魔法は俺が転生する前に肉球マークを付けてくれた猫の神様のおかげなのかは謎のままだ。
次回もリフォンの猫生をお楽しみに。