36話 使い魔競技会まであと一日
異世界に転生した俺はリフォンという名を貰い猫生を送る事になった。でも優雅に生きて死ぬだけでは面白く無い。異世界に転生したのに勿体無い。異世界を思う存分堪能してやる!
「今日は使い魔競技会前日という事で出場者は四限まである。けど授業が決まっているわけではない。人によって藝術部門なのか競技部門なのかは変わるし、魔法の優先順位も違う。ここにどこに誰先生がいるか書いてあるから各々好きな所に行くように。参加しないやつらは今日は休みだから全先生出場者に時間を使える。だから存分に時間と先生を有効活用しなさい。」
ホームルームが終わりリベル、ハーリー、アイン、ワーナーが先生が持ってきた紙を見る。
「みんなどこに行く?」
「私はリタ先生のところかな。」
「私も。」
「俺はマリー先生のところだな。俺は競技部門にしかエントリーしてないからな。」
「リベル君は?」
ハーリーが聞く。リベルはしばらく考えて結論を出した。
「リフォンの行きたい所かな。」
「リベル君らしいね。」
二人の仲睦まじい姿を見たアインとワーナーは同時に言った。
「「夫婦かよ。」」
二人は一瞬固まりすぐに面白い反応を見せた。
「ぼ、ぼ、僕はハ、ハーリーの旦那さんなんかじゃないよ!」
「そ、そ、そうです!私なんてリベル君のお嫁さんになんて不釣り合いです!」
俺はコイツら両思いだなと確信した。
「そんな事は置いておいてリフォンお前どこに行きたいんだ?」
ワーナーが聞いてきた。俺は藝術部門でも競技部門でも負ける気がしないからどこでも良いと思っていたが、良い案が思いついた。
(リーンを探そう。)
(え?リーン兄さんを?)
(そうだ。なんか楽しそうだろ?)
(迷惑にならないかな?)
(リーンは俺たちをそんな風に思う薄情なやつか?)
(そうだね。でも探してどうするの?)
(そん時はそん時だ。)
「リフォンは僕の兄を探しに行きたいんだって。だからいろんな所をブラブラしてるかな。」
「おいおい大丈夫か?二人が強くてすげーのは知ってるけど差を広げられたりしないか?」
「僕たちなら大丈夫だよ。ねリフォン。」
「ンニャー!」
「そうよ二人なら一年生には絶対負けないでしょ。」
アインは俺たちの事を高く買っており自信満々だ。
「二人なら心配無いね。」
ハーリーも同様に高く買ってくれているようだ。
「三人とももうすぐ一限始まるよ。」
「やべぇ!ナーガ行くぞ!」
「ハリス!私たちも行くよ!」
「アフィーおいで!」
みんな急いで一限に向かった。俺たちはのんびりとリーンを探しに行った。
(ていうかリーンって四年生だろ?俺たち一年生が行って大丈夫かな?)
(確かにちょっと怖いね。でも上級生の魔法を参考にしたいです。って感じで後ろから見てたら大丈夫じゃない?)
(それでやってみるか。)
(四年生からは西棟だから西側に行ってみようか。)
(うん。)
エクサフォン学園は東に一から三年生が主に利用する施設があり、西に四から六年生が主に利用する施設があるのだ。もちろん例外はあり、屋外競技場は上級生も利用する。東と西で分けているのは下級生が上級生の真似をして魔力切れを起こしたりする可能性があるからだ。
(東側とあんまり変わらないね。)
そう言われて見るとそこには魔法競技室の様な建物や剣術指南室に似た建物があった。でも西側は建物の数が東側に比べ何倍もある。四年生からは授業の数も増えその分建物が多いのだろう。
(リーンはどこにいるんだろうな?)
(建物の中見てみようか。)
俺たちはコッソリと建物の中を覗いた。その中では藝術部門の出場者であろう人たちが様々な魔法を作り出している。地球の様な物を作っている人もいれば、人を作り出している人もいる。その完成度は彫刻の様に細かく美しかった。
(流石先輩たちだね!)
(圧巻だな。でもリーンはいないな。)
(次行こっか。)
俺たちは隣の建物を覗いた。そこでは一対一で使い魔が戦っている。激しい炎のぶつかり合い。熱風がこちらにまで来た。両者主人の指示をきちんと聞き炎のぶつかり合いが終わった瞬間、魔法を展開し様子を伺っている。同時に主人が指示を出し使い魔が展開した魔法を撃ち合った。その迫力に俺たちは見惚れていた。
(僕たちもああなれるかな?)
(やろうと思えば今でも出来るぞ。)
(それはリフォンだけでしょ。僕はまだあんな風に適切な場面で適切な魔法を選択するのは厳しいな。)
(競技部門大丈夫か?)
(勝ち負けだけだから大丈夫だよ。頼んだよリフォン。)
(任せとけ。)
俺たちがそんな話をしていると後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「そんな所で何してんだ?」
「ひ、久しぶりリーン兄さん。」
『久しぶりだな。』
俺は水魔法で文字を書いた。
「お前それ親しい仲のやつ以外にはやるなよ。」
『やってないよ。』
「それでお前たち何しに来たんだ?」
「リーン兄さんはどんな事してるのかなって探しに来たんだ。」
「そんな事か今から行くからついて来な。」
「はーい。」
俺たちはリーンに連れられ屋外競技場に行った。そこには一年生から六年生まで幅広くいた。見分けるのは簡単で左胸にバッチが付いているのだ。上からブラック、レッド、ブルー、イエロー、グリーン、ホワイトだ。リーンの左胸にはブルーのバッチが付いている。
「二人なら来た事あるだろ?今日は二限までここで、三、四限は西棟の魔法競技室だ。四限まで一緒にいるか?」
「いろんな先輩の技術を盗ませてもらうつもり。」
「そうか。二人は藝術部門と競技部門どっちに出るんだ?」
「両方だよ。」
「二人ならいけるか。」
「任せてよ!」
リーンの何とも言えない反応に引っかかるところがあった。素直に応援してくれれば良いものをなぜか不安そうな顔をしている。
「俺はやってくるけど二人はどうする?最初は見ておくか?」
「そうする。」
俺はリベルの膝の上で丸まり眠った。
「…フォン…リフォン!起きて!」
(どうした?)
「僕もやりたいんだよ。」
(ごめんごめん。)
俺はリベルの膝の上から降りた。
「寝るならそこで寝ててね。」
(りょーかい。)
俺はもう一度寝た。久しぶりに夢を見た。それはどうやら使い魔競技会当日の夢らしい。コロッセオの様な競技場で、藝術部門出場者が火の鳥を作り出して火を吐いているのを見ている。その一瞬だけの夢だった。
「リフォン!次行くよ!」
(ふぇ?う、うん。)
俺はいきなり呼ばれたから驚いた。その様子にリベルとリーンは笑っていた。
「先に先生に二人の事を話してくるから待ってて。」
俺たちは数分待った。その間俺はリベルにずっと撫でられていた。
「入って良いって。」
「失礼しまーす。」
中では一対一で戦っていた。二人の首元を見ると少し前に使った魔法防護のネックレスをつけている。制服だけでもある程度の魔法は防げるけど無いよりかはマシ理論でつけているのだろう。
「近すぎると影響が出るかもしれないからここで見るだけなら良いって。」
「分かった。」
俺たちは大人しくリーンの言う事に従いその場に座り先輩たちの戦いを見た。魔法を使う速さ、適切な魔法を選択する判断力、魔法を防ぐのか避けるのかの決断力今の俺たちには無いものだらけだ。俺はこれを見逃すのは勿体無いと思い瞬きすら惜しんだ。
「そこまで!」
その見事な戦いに俺は拍手をしていた。リベルは開いた口が塞がらないようだった。
(すごいな。)
(うん…)
リベルはしばらく放心していた。他の先輩も戦い始めた。先ほどは十分ほど続いたが今回はあっという間だった。風魔法で距離を詰め首元に手をかざした。
「そこまで!」
あまりの速さに俺たちは驚いていたが、周りは普通にしていた。おそらくこの先輩はいつもこうなのだろう。風魔法で距離を詰める事もできれば、距離を取る事もできる。風魔法を上手く使っていて感心するばかりだ。
次は使い魔同士の戦いが始まった。両者一歩も引かない戦いを繰り広げた。体躯を利用して逃げ回りながら魔法を撃ったり、空を飛びながら魔法を撃ったりと自身の特性を活かした戦い方をしている。
「そこまで!」
両者まだ戦い足りなかったのか主人の所に戻ってもまだ相手を睨んでいる。そんな使い魔を主人が宥めている。
「今日はここまで各自明日に備えるように!」
「「「はい!」」」
みんなどこかに行ってしまった。
「俺たちは終わったけど二人はどうする?屋外競技場でも行くか?」
「行く!」
「それじゃあ行こうか。」
俺たちは屋外競技場に行った。もうそこには誰もいなかった。俺はリーンに猫耳を生やしテレパシーが聞こえるようにした。
「始めようか。」
「うん!」
リーンとリベルは手始めに火魔法を撃った。俺はそれに倣って火魔法を撃った。その威力はカカシに少し傷をつけるレベルだ。俺はそれに疑問を持った。
(このカカシって魔法防護イエローだろ?今ので傷ついたら生徒本人も怪我するんじゃないか?)
(リフォン猫耳生やしたんなら先に一言くれ。)
(生やしたよ。)
(まぁ良いや…魔法防護っていうのはかけられている素体によって強度が変わるんだ。このカカシは普通のカカシだからそこまで魔法防護の強度は高く無い。俺たちが着てる制服は魔力を通しやすい特殊な素材で出来てて魔法防護の強度が高いんだ。フルプレートみたいに元々の強度が高ければカカシなんかにかけるより強度が高くなるんだ。)
((へー。))
(覚えておいたら得はするよ。)
(授業で習うの?)
(そうだ。テストに出る可能性もあるから覚えておきな。)
(ラッキー!)
俺たちはまた魔法を撃ち始めた。肩慣らしも終わり本腰を入れた。息を吐き心を落ち着かせる。俺は火の温度を極限まで上げた。
「「熱っ!」」
(ご、ごめん。)
俺はすぐに火魔法を消した。術者本人に影響が出ないから周りにどれぐらい影響を与えているのか分からないのが玉に瑕だ。
(今のどうやったんだ?)
(僕も気になる。)
俺は困惑した。普通に火の温度を上げただけだからだ。
(普通に上げただけだよ…)
(それでこうはならないだろ…)
リーンは落胆したような声色で言った。
(な、ならないのか?)
(リフォンの才能は俺が…いやおそらく学園長も見誤っているだろうな。)
(そ、そんなにか?)
(流石僕のリフォン!!本当に最高!!)
リベルは俺を抱きしめた。興奮しすぎて鼻息が荒くなっているのが分かった。
(すごいけど殺しかねないから控えるようにな。)
(分かった…)
俺は反省した。魔神城では殺さないといけなかった状況だったから何も思わなかったが、今は無駄な殺生は絶対にしてはならない。そう心に決めた。
(もう終わりにするか?)
(そうだね。今日一日でかなりの収穫になったよ。ありがとうリーン兄さん。)
(それぐらいはテレパシーじゃなくても良くないか?)
((あはは。確かに))
「それじゃあまた明日。頑張れよ。」
「そう言えばリーン兄さんって使い魔いないよね?出場するの?」
「しないぞ。」
「今日何のために僕たちと一緒にいたの?」
「かわいい弟たちのために尽くすのがお兄ちゃんだろ?」
そう言い残すとリーンは帰って行った。
(良いお兄ちゃんだな。)
(知ってる。)
俺たちも寮の部屋に帰った。
次回もリフォンの猫生をお楽しみに。