34話 使い魔競技会まであと二日
異世界に転生した俺はリフォンという名を貰い猫生を送る事になった。でも優雅に生きて死ぬだけでは面白く無い。異世界に転生したのに勿体無い。異世界を思う存分堪能してやる!
「おはよう。使い魔競技会まで時間も無いから一日一日しっかり取り組むように。今日は二限とも使い魔学で魔法競技室だから遅れないようにね。」
リベル、ハーリー、アイン、ワーナーといつものメンバーで魔法競技室に行った。
「おはよう。」
「「「おはようございます。」」」
「リフォンくーん。モフモフさせてー。」
リタ先生が俺の返事を聞く前に俺の腹に顔を埋めた。最近いろんな人の相手をしていた(半ば強制的に触られていた)から誰かに触られるのに何も不快感を覚えなくなった。一限の始まりを告げる鐘が鳴ったにも関わらずリタ先生は俺をモフり続けた。
「先生授業始まってますよ。」
「え!?もう?それじゃあ授業始めるよ。」
リタ先生の拘束からやっと解放された俺は毛繕いをして毛並みを整えた。猫だけど毛繕いの時に抜けた毛は飲み込まず火魔法で抜けた毛だけ燃やして処理している。
「今日は使い魔競技会の藝術部門の仕上げを行うよ。みんなどんな魔法にするのか大まかな想像はしていると思うけど、その魔法をどうすればもっと良い魔法に出来るのかや綺麗に見せる事を随時教えるから各自魔法を使ってみて。」
みんな使い魔と魔法を一緒に使い思い思いの魔法を作り出している。ライオンのような猛獣が火を吹いていたら蝶が鱗粉を綺麗に飛ばしていたり雪を降らしたりしている。リタ先生は一組一組に改善案や工夫すべき点などを教えている。
(リフォン僕たちもやろ?)
(どんな魔法にする?)
(魔法で動物を一匹づつ作って戦わせる?)
(藝術なのか?)
(うーん良いと思うんだけどな…)
「どんな魔法にするのか困ってるのかい?」
「僕が今考えてるのは僕とリフォンが魔法で動物を一匹づつ作って戦わせるって感じなんですけどどうですか?」
「悪くは無いけどどうやって藝術に結びつけるかが重要だね。ただ戦わせて一方が華々しく散って終わりでも良いけどそれだと足りないんだよね。だからその魔法の動物同士が協力し合って何かを作り出すっていう感じなら得点はかなり高くなるだろうけど、その分魔法の難易度はありえないレベルで上がるよ。」
「だってリフォンどうする?」
(良いんじゃないか?)
「試しにやってみます。」
「作り出す何かが綺麗じゃないと藝術部門では高得点は取れないからそこは注意しておくようにね。」
リタ先生は他の生徒のところに行った。
(僕は火魔法でカッコいい鳥を作るからリフォンは水魔法で何か作って。)
(どっちも火魔法で公爵家の紋章にいた炎龍を作ろうよ。それでその炎龍が火を吹いたらエクサフォン城が出来てるって感じなら良い感じじゃない?)
(リフォン君ってやつは…天才にも程があるだろ!あぁ神様僕のところにリフォンを寄越してくださった事を心から感謝します。)
我ながら良いアイデアを出したと自負している。でもエクサフォン城も炎龍もどんな形だったのか覚えていなかったから上手く作り出せなかった。
(なぁリベル俺炎龍もエクサフォン城も全然覚えてないから見本作ってくれない?)
(僕に出来るかな?)
(出来なかったら図書室にでも行って文献を調べたら良いだろう。)
(とりあえずやってみるよ。)
リベルが空中に炎龍を作り出した。その炎龍は日本風の龍で胴が長く手足が短いタイプだった。一見すると綺麗だが目を凝らして見ると造りが曖昧な所が多くリベルも大まかにしか覚えていない事が分かった。
(二限が終わったら図書室に行こう。)
(うんそうだね。)
リベルは出来の悪さに納得いっていないようだ。今となっては伝説上の炎龍をうろ覚えで完璧に再現するのは不可能だと分かっていたから仕方のない事だろう。
(エクサフォン城を作ってくれ。俺は前のパーティでしかよく見てないししかもあの時は近すぎたから一部しか分からないんだ。)
(大丈夫だよ。僕に任せて。)
そう言うとリベルは火魔法でかなり精巧なエクサフォン城を作り出した。その完成度に空いた口が塞がらない。
(リフォン口空いてるよ。そんなに凄かった?)
(あ、あぁ…合ってるかは分からないけどその美しさと完成度には惚れ惚れするものがあった。)
(やった!)
リベルは嬉しそうにガッポーズをした。エクサフォン城は王都の空中に浮いているから上の方しか見えないけど、リベルのエクサフォン城は俺のようにあまりエクサフォン城を見た事がない人でも綺麗だと思える出来栄えだった。こんな出来栄えのものを誰かに見せるわけにはいかないと思い周りを見渡すが、誰もこちらを見ていないのでおそらく誰にも見られていないだろう。
(藝術部門優勝間違い無しにするために炎龍をきちんと再現しないとだな。)
(二限はどうする?)
(先生に事情を伝えたらどうにか出来ないかな?)
(掛け合ってみるよ。)
(助かる。)
一限の終わりを告げる鐘が鳴った。
リベルがリタ先生のところに行き話をしている。しばらく話をした後リベルは嬉しそうな顔をしながら戻ってきた。
(二人なら大丈夫だろって二限は受けなくて良いって!だから図書室に行って炎龍の資料を調べよ!)
(分かったからそんなにテンション上げるなくたってちゃんとやるから落ち着け。)
(わ、分かった。とりあえず図書室行こ。)
俺たちは図書室に行った。図書室は明らかに学校にあるレベルではなかった。外観は東京駅のようなレンガ造りで横幅は二十メートルはある大きな建物だ。中は本で埋め尽くされており全方位を本で囲まれている環境だ。こんな蔵書数あったら炎龍の資料を見つけ出すのは骨の折れる作業だ。
(本多すぎないか?見つけられるか心配になってきたぞ。)
(大丈夫だよ。ここの司書さんは全ての本の大まかな内容と位置を覚えているそうだから。)
(へ?)
俺は腑抜けた声が出た。その蔵書数は簡単に万を超える数があるのにそれを覚えれる人間なんているのかと驚いた。
「初めまして。資料を探しに来たんですけど、公爵家の紋章に描かれている炎龍の資料ってありますか?」
「こちらにどうぞ。」
小柄な女性が俺たちを案内した。この人が司書なのだろう。俺たちと年齢があまり変わらないように見えるのはこの人が若すぎるからなのかは分からない。
「炎龍の資料はこちらですね。何か不明な点や他に探したい物があれば言ってください。」
「ありがとうございます。」
リベルが何冊かを手に取りテーブルに運んだ。俺は上の方にある一冊が気になった。リベルは本に夢中だから周りを確認して見えざる手を使いその本を取ってテーブルの上に置いた。
(これどうしたの?)
(気になったから取ってきた。)
(え?どうやって?)
(屋敷で使った見えざる手で取った。)
(え!?他の人にバレたりしたらどうするの!)
(ご、ごめんって。次からは気をつけるから。)
リベルは本気で俺の心配をしてくれているようでキツく叱ってくれた。
俺の取ってきた本の内容は興味深いものばかりだった。龍は火、水、風、氷を操り、陸、海、空で生息でき、いろいろな姿に変身出来ると書いてあった。俺が魔神城でリザードマンに変身した能力は猫の神様の加護だけど、龍は天賦のものなのだろう。俺が取ってきた本は詳しい情報は載っていたが、肝心な龍の姿が載っていなかった。俺はリベルの方にならあるのではないかと思いリベルが取ってきた本を一緒に読んだ。
(リフォンの方はどんな情報が載ってたの?)
(火、水、風、氷を使えて変身も出来るんだって。)
(すごいね。龍の姿は載ってた?)
(なかった。)
(こっちにはいくつか載ってたけどあんまり格好良く無いんだよね。)
リベルが龍の姿が描かれているページを見せてきた。そこには俺が知っている龍が描かれていた。胴が長く手足は短く顔が怖い龍だ。
(これだよ。見た目が好きじゃなくてもペタフォーン家を守った龍となんだからそんな事言わないの。)
(そ、そうだよね。僕が間違ってたよ。ごめんなさい炎龍様!)
リベルはきちんと頭を下げて謝った。
(どうする?この本借りて実技試験やった所で練習するか?)
(そうだね。じゃあ本片付けるね。)
リベルが本を片付けると同時に司書さんが俺たちの所に来た。
「こちら貸し出しですね。期限はどうされますか?」
「二日?いや三日にします。」
「分かりました。ではどうぞ。」
司書さんが本に手をかざし光魔法のような魔法を使った。
「ありがとうございました。」
俺たちは図書室を後にした。俺は実技試験をした所に向かう最中に司書が使った魔法を聞いたところあれは俺の予想通り光魔法だった。あれは期限を決めてその期限になったら元の場所に戻るという光魔法らしい。光魔法は維持の神ヴィシュヌの力が源だからこのような芸当が出来るのだろう。
(よし。始めようか!)
(言われなくてもやる気バッチリだよ。)
次回もリフォンの猫生をお楽しみに。