3話 親子の話し合い
異世界に転生した俺はリフォンという名を貰い猫生を優雅に送る事になった。でも優雅に生きて死ぬだけでは面白く無い。異世界に転生した意味が無い。異世界を思いっきり楽しむぞ!
リベルは俺を抱き抱えグロウの部屋に着いた。
「お父様失礼します。」
リベルがドアをノックしてから礼儀良く入室する。
「どうした?そんなに息を荒げて。」
リベルは早く話をするために少し走ってきたのだ。
「お父様、僕とリフォンはエクサフォン学園に通いたいです。」
「使い魔を召喚したいと言ってきた時からいつかはそうなると思ったが…はぁ。」
グロウはエクサフォン学園に通うのは否定的だ。
「何故通わせたくないんだ?」
俺は単刀直入に聞いた。
「実は、あまりいい思い出が無いんだ…」
グロウは苦い顔をした。先輩に尻に敷かれていたり、魔法が上達しなかったりしたんだろう。
「少し話していただけませんか?」
リベルはグロウが経験した事を自分も経験するかも知れないから聞くことにしたんだろう。
「少しだけだぞ…」
俺とリベルは固唾を呑んだ。
「私が入学したのはリベルと同じぐらいの歳だった。エクサフォン学園は何歳でも入学出来るがその分難易度がかなり高い。しかも、エクサフォン学園は完全実力主義だ。爵位は関係ない。だから私は実力であらゆる生徒をパシリにしていた。」
おいおいちょっと待てグロウそんなやつだったのか。今となっては普通に良い父親してるのに昔はそんなだったのか?そんな俺の思いを話せる訳もなくグロウは話を続けた。
「私は学園で指折りの実力者だった。しかし、とある人の尻に敷かれ、パシリにしていた生徒たちによって公爵家の人間が不埒な事をしているなど根も葉もない噂を流されたのだ。」
グロウは俯いてどんな表情をしているのか分からないがおそらくそんな顔を息子に見せるのは、大人として親として恥ずかしいのだろう。
「その噂は聞かない方がいいですか?」
リベルはまだ幼いからグロウの反応から察するのが難しいのだろう。
「そうしてくれるとありがたい。」
「ところでグロウ、学園に通うこと自体は賛成なのか?」
「ああ、それは賛成だ。学園ではかなり多くのことを学べるからな。でもリフォンは喋ったり魔法を二種類使うのはやめておいた方がいい。」
「何故俺が魔法を二種類使えるのを知っているんだ?」
グロウはあの場にいなかったにも関わらず知っているのはおかしいと思った。
「さっき言っただろう。私は学園で指折りの実力者だったと。誰がどこで何の魔法を使ったのか分からないほど衰えていない。」
俺はグロウをみくびっていたのかも知れない。まだこの世界に来て知らない事だらけだが、この体ではグロウのような芸当は出来ないからだ。
「グロウ、俺が家族以外に喋れる事と魔法を二種類使える事がバレた場合どうなる?」
俺は恐ろしい事態になる事を周知の上で聞いた。
「おそらく蛮族や盗賊にはどこかに売り飛ばされ、非人道的な実験をする集団に捕まったら実験動物にされるなどだ。いいかリフォンお前の利用価値は計り知れない。だからこそ自分の身は自分で守らないといけないんだ。」
グロウの気迫に物怖じしてしまった。
「分かった。学園では喋れないのかちょっと寂しいな。」
俺は本心が漏れていた。
「じゃあテレパシーしようよ。」
俺の頭には疑問符が浮かんだ。
「そんなこと出来るのか?」
「なんで使い魔のリフォンが知らないんだよ。」
リベルはクスクスと笑いながら言った。
「試しにやってみるよ。」
「ああ。」
(どう?聞こえてる?)
頭の中に直接?!耳から言葉が入るのでは無く脳に直接言葉の情報が入ってきてる感じだ。
「ど、どうやっているんだ?!」
「頭の中?心の中?でリフォンに伝えたい言葉を言ってるだけだよ。」
「分かった。やってみる。」
(どうだ?出来ているか?)
(うん出来てるよ。)
俺は心の中でホッとした出来なかったらどうしようかと少し怖かったのだ。リベルはニコニコしながら頭を撫でてくれた。
「本で読んだ事あるんだけど、ペットが芸を覚えたりしたらオヤツをあげるんだって。はい、ジャーキー。」
「ありがとう。」
俺はリベルがくれたジャーキーを食べた。前世では一度しか食べた事が無かったジャーキーを猫になった今食べれるとはいい転生先を選んだものだ。
「リベルもエクサフォン学園に通うですね。」
いつの間にか部屋に入ってきていたマイヤーが微笑みながら言った。
「マイヤー?いつの間にいたんだ?」
グロウの話とテレパシーに集中していたとは言え猫の聴覚と嗅覚を持ってしても全然気がつかなかった。
「最初からいましたよ。」
信じられなかったが気にしない事にした。
「お母様は反対なのですか?」
「反対ではないですけど少し心配ですね。私の可愛いリベルとリフォンを上級生からいじめられたりしたらどうしようかと。」
そう言うマイヤーは笑ってはいたが声のトーンが本気だった。俺は確信した。マイヤーは怒らせてはいけない人だと。
「大丈夫だよお母様。それにいざとなればリフォンが守ってくれるから。」
ニシシというオノマトペがしっくりくる笑い方をしながら言った。
「俺が助けれるのは本当にいざという時だけだから俺に助けられなくていいぐらい強くなれよ?」
「分かった。僕が強くなってリフォンを守るね。」
俺の頭を撫でながら言うリベルは幸せそうだった。
「というかさっきリベルもって言っていたがマイヤーも学園に通っていたのか?」
「ふふふ、グロウから聞いていた話で出てきたグロウを尻に敷いていた人は私ですよ。」
「「ええーー!!」」
俺とリベルは目を見開いて驚いた。
「リベルは息子なのに知らなかったのか?」
「うん。だってお母様が戦うところとか学園に通っていた事なんて聞いた事なかったから。」
俺の中でマイヤーは怒らせてはいけない人から、私淑する人物に変わった。
「そんな事は置いておいて。学園に入学するなら二月にある試験に合格しなければいけないのでかなりスパルタ教育になりますよ。」
「…はい!」
リベルは嫌そうな顔をしていたけどすぐに覚悟を決めたようだ。
「あなたもですよリフォン。」
「あっはい。」
「使い魔は魔法が使えるだけで良いですから合格したようなものですね。でも国王推薦は甘くはないので手は抜かないように。」
「はい。」
俺が原因で推薦を貰えない事はないが流石にサボっているとマイヤーに何を言われるか分からないからきちんとする事にした。
「ところで俺はどうしたらいいんだ?シータから魔法を学べばいいのか?」
「私でもいいですよ。」
「気分だったら頼むよ。」
マイヤーに付きっ切りで教えてもらうのはキツそうなのでシータに教えてもらう事にした。でもかなりの手練れだろうからマイヤーにも時々教えてもらいたいものだ。
「リベル、今からお勉強ですよ。」
「はい!お母様!」
リベルはやる気一杯って感じだ。リベルはマイヤーについて行き俺はやる事が無くなった。
「グロウ、仕事は忙しいか?」
「いや今日は少ないからもうすぐしたら終わりそうだ。」
「そうか。」
俺はグロウの机の上に飛び乗った。猫の身体能力は人間と比べて何倍もあるから一挙手一投足がすごく楽だ。
「グロウ仕事が少ないのなら俺に構ってくれ。」
「あはは。そういうところは猫なんだな。」
俺は少し恥ずかしくなったが大人しく撫でてもらった。
「頭を撫でるのは気持ち良いのか?」
「とても気持ち良いぞ。無意識に喉もゴロゴロ鳴っているだろ?」
俺はしばらくグロウに頭部を撫でられ快楽に浸っていた。
「最高だったよグロウ。ありがとう。」
「私の方こそ癒しになったよ。毎日でも良いから私の癒しになりに来てくれ。」
猫ってやっぱり凄いんだなと思った。
「ウィンウィンだな。」
「そうだ。」
グロウは俺を撫でる前と撫でた後で少し表情が柔らかくなっていた。
また暇になってしまった。撫でられ欲求はグロウで済んだから特にして欲しい事も無いし、やりたい事も無い。屋敷を探索するか。
グロウの自室は三階の中央に位置している。とりあえず三階を探索する事にした。
「ここはそういう事ではなくこちらの術式を利用するんですよ。」
マイヤーがリベルに何かを教える声が聞こえた。俺は中に入るためにドアノブに飛び乗った。だが猫の体では扉を開ける事は出来なかった。手詰まりかと思ったがテレパシーを思い出した。
(リベル扉を開けて俺を中に入れて欲しい。)
(リフォン?扉の前にいるの?)
(ああ、そうだ何を勉強しているのか知りたいから開けて欲しいんだ。)
(分かった。)
リベルが扉を開け俺を部屋の中に入れてくれた。書斎かと思うほどの本があった。
「すごい数の本だね。」
「ここは学園に合格するために必要な本が全てありますから。」
マイヤーが自信満々に応えた。
「リフォン、ちょっと癒させて。」
リベルは俺を頭まで持ち上げ俺の腹に顔を埋め深呼吸をした。何の感情も湧かないが良い気も悪い気もしない。何だか心がすごく無になった。
「ありがとう。まだまだ頑張れるよ。」
リベルは机に向き合い凄まじい集中力を見せた。リベルが使用している本の内容を読もうとしたが、地球では見た事ない言語で書かれていて読めなかった。
「終わったー。」
しばらくしてリベルが今日の分の勉強を終えた。リベルは机に突っ伏して疲れているようだ。俺はそんなリベルの顔の上に優しく乗った。
「お疲れ様。俺の体毛はモフモフだろ?」
「うん。長い毛がとても心地良いよ。」
リベルはそのまま寝そうなぐらいリラックスしていた。
「マイヤー今日の予定は?」
「リベルも私も何もありませんよ。魔法を教えましょうか?」
リベルは全身がビクッとなった。
「今日はもう勘弁してください。」
リベルは相当疲れているようだ。マイヤーも流石に鬼じゃなかった。
「じゃあ三人でアフタヌーンティーでもどうです?」
リベルの表情が一気に明るくなった。
「うん!」
「メイドたちに用意させるから先に庭で遊んでおいてくれる?」
「「はーい」」
俺たちはマイヤーの母性によって子供にさせられたように返事をした。
毎度の如くリベルは俺を抱き抱え庭に向かった。俺は重いだろうに何故毎回抱き抱えるのかを聞いた。
「リベル毎回抱いてくれなくても良いぞ重いだろう?それとも俺を抱いていると幸せなのか?」
「うんそうだよ。」
「そうか、なら存分に抱いてくれたまえ。」
俺たちは晴れ渡った空の下で追いかけっこをした。猫だから本気を出したらすぐに追いついてしまうからかなり手加減をした。しばらく走って良い汗をかいて二人で座っているとマイヤーの声がした。
「二人ともー?」
俺たちは声のする方に向かった。そこにはガゼボがありケーキスタンドに乗った色鮮やかなケーキとフィナンシェやマドレーヌがあった。その隣には別の容器に入れている小さなケーキ、フィナンシェ、マドレーヌ、があった。前世では見る事しか出来なかった憧れの洋菓子を食べれるのがとても楽しみだ。
「リフォンあなたのは体に悪いかもしれないから砂糖は極微量にしましたけど、もし大丈夫そうなら今度からは少し多くするので言ってくださいね。」
「ありがとう。」
リベルは勉強で疲れた脳に糖分を送るためにいの一番に洋菓子を食べ始めた。
「リベルったらお行儀が悪いですよ。」
「家族しかいないんだから良いじゃないか。」
「貴族たるものどのような場でもマナーはきちんとしないとダメですよ。」
「はーい。」
リベルは不貞腐れながらも礼儀良く洋菓子を嗜むように食べた。猫の俺にはマナーなんて無いのでリベル何か言いたそうな目で時々こちらを見てきた。
「リフォン、美味しかったですか?」
「美味しかったよ。でももう少しだけ砂糖を入れて欲しいと思ったかな。」
「今日と明日で何も問題が無かったらそうしましょう。」
俺たちはアフタヌーンティーを終えそのまま少し話をした。何事も無い日々が幸せなんだとこの世界に来て改めて思い知った。
次回もリフォンの猫生をお楽しみに