25話 魔導書と闇魔法
異世界に転生した俺はリフォンという名を貰い猫生を送る事になった。でも優雅に生きて死ぬだけでは面白く無い。異世界に転生したのに勿体無い。異世界を思う存分堪能してやる!
オークション会場を後にした俺たちは寮に戻った。魔導書はリベルが大事に抱えてくれていた。
(リフォンこれどうするの?)
(そりゃ読むでしょ。)
(あ、まぁそうだよね。)
俺が魔導書を読もうと開けようとしたら魔導書の魔力に拒まれた感じで手が弾き飛ばされた。
(ど、どうしたの?)
(なんか拒絶された感じ。)
(拒絶?何で?)
(それが分かったら苦労しないよ。シュリーター先生かグロウぐらい魔法の見識が深くないと厳しいのかな。)
俺は大金を叩いて買った魔導書が読む以前に開けすらしない事に落胆した。
(大丈夫だって。いつかは開けるようになるから。)
(先生に聞いた方が良いのか逆に聞かない方が良いのか分からないなー。)
(聞いちゃっても良いんじゃないかな?)
俺は寮のベッドでゴロゴロしながら考える。仰向けになった時にリベルが俺の腹に顔を埋めた。リベルは存分に猫吸いを楽しみ顔を上げ急に言った。
(よし散歩行こう!)
(気分転換?)
(そう。思い詰めてても心苦しいだけでしょ?)
リベルは俺の返事を待たずに俺を抱き抱え外に出た。リベルは風魔法を使ってるんじゃないかと勘違いするぐらい早く走った。俺はその風を一身に浴びていたら魔導書の事なんて気にしなくなっていた。
リベルは俺を抱き抱えていたから流石に体力の消耗も激しく十分もしたら息を荒げていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
(ありがとうリベル。もう良いよ。)
(そう。なら良かった。)
俺たちはベンチに座り何を話すでもなく何かを考えるでもなくただ空を見て時間を潰した。
「何してんだお前ら。」
片腕でパンの入った紙袋ともう片手でパンを頬張っているリーンがいた。
「久しぶりリーン兄さん。」
「ニャー。」
「こんな所で暇潰ししてるぐらいなら魔法の勉強でもしたらどうだ?」
「息抜きだよ。さっきまで悪戦苦闘してたから。」
「ンニャンニャ。」
俺はうんうんと頷きながら言った。
「食べるか?」
リーンが俺たちにパンを差し出した。俺は猫が食べれそうな食パンを選んだ。リベルは菓子パンを選んだ。
「それじゃまたなー。」
「バイバーイ。」
「ニャー。」
俺は随分とリラックス出来た。魔導書の事も整理出来たから寮に戻った。
(結局どうするの?)
(何もしない!)
(何もしないんかい!)
リベルのナイスツッコミに声をあげそうになった。
(だって無理なんだもん!魔力を上げたら良いのか魔法適性を伸ばしたら良いのかも分からないし、そのどっちかだったとしても今すぐは無理だからなー。)
(確かにそうだねー。)
俺たちの間には沈黙が流れた。休日昼過ぎやる事なしこの暇な時間を紛らわすにはアレしかない。
(リベルおやすみ。)
(じゃあ僕も寝よ。)
俺たちは二人仲良く眠りについた。
目が覚めると朝になっていた。俺はリベルの腕の中から抜け出し伸びをした。窓から朝日が差し込んで来てとても気持ちが良い朝だ。
俺は朝の散歩に出かけた。こんな事をするのは初めてだから少しワクワクしている。人の声すら聞こえない街並みに儚さを覚えた。しばらく誰もいない街を歩いていると遠くから魔力を感じた。その魔力は魔神城で感じた魔力と同じだ。それは魔法に憎悪を込める闇魔法だ。魔神城では一度も闇魔法を使われた事は無いが全身の毛が逆立つような感じがしてくらったらヤバいと本能が言っている。おそらくその魔法を使っていた奴は魔神教団の奴らだろう。魔人は少し変装をすれば人間と大差ないから王都で生活するのには苦労は無いのだろう。俺は気づかれないように静かに寮に戻った。
「リフォン!どこ行ってたの?心配したよ。」
(ごめん朝の散歩に行ってた。)
「それだけ?」
(うん。)
俺はさっきの闇魔法の事は伝えずに学園に行った。
「おはようハーリー、ハリス。」
「二人ともおはよう。」
「ニャ。」
「みんなーホームルーム始まるぞー。」
ホームルームの始まりを告げる鐘が鳴った。
「今日は二限とも魔法学だーいじょー。」
マリー先生はいつも以上に手短にホームルームを終わらせた。今日の魔法学でハイネ先生に闇魔法について聞こう。
「みんなおはよう。」
一限の始まりを告げる鐘が鳴った。
「今日は光魔法と闇魔法について教えるよ。みんなの中に光魔法を使える人はいるけど闇魔法が使える人がいない理由がわかる人はいるかな?」
リベルが珍しく答えに困っている。闇魔法についてはあまり詳しく無いんだろう。
「知らないのも仕方ないよ闇魔法は憎悪や憎しみ、恨みと言った負の感情が原動力なんだ。だからみんな落ち込まなくても良いよ。ちなみに光魔法はその逆だよ。」
「「「へー。」」」
俺も心の中でへーと言ったがみんなも同じ反応で先生が少しかわいそうになった。
「なんかみんな興味無さそうだね…」
「そ、そんな事無いですよ!」
「私は光魔法しか使えないから興味ありますよ!」
光魔法を使えるハーリーとメアリーが励ます。
「気を取り直して光魔法の説明に入ろうか。まず光魔法の回復は人間の自然治癒力を底上げして傷を治すっていうのは知ってるよね?じゃあその回復魔法を効率良くする方法は知ってるかな?」
これは前に相手の生活習慣とかをよく知ってる方が良いって言うのを聞いた。
「相手の事をよく知る事ですよね?」
「そうです。光魔法は魔法をかける対象の事をよく知る事が重要です。なら闇魔法はどうでしょう?」
さっきと同じ理論で言うなら対象の事を憎むとかだろう。みんな答えたく無いのか黙り込んでいる。
「まぁみんな言いたく無い気持ちも分かるよ。闇魔法の魔力の根源は憎悪だからね。そこから自然と答えは分かるよね。」
魔人たちが闇魔法に長けている理由は闇魔法の事を知れば知るほど痛感する。
「最近魔神教団の件もあったからみんなに対策を教えるよ。闇魔法の魔力は少しでも感じると全人類鳥肌が立つ感じがするからすぐに来た道を戻る事だよ。」
俺の朝の対処法は正しかったようだ。闇魔法には独特な魔力であまり近づきたくないと感じるのだ。
「闇魔法はここら辺にして光魔法の種類に移行しようか。まず光魔法の簡単な魔法は回復、施錠、開錠、浄化の四つだよ。でもこの四つを極めると凄まじい魔法使いになれるから頑張ってね。魔法適性伸ばせるからみんなにも可能性はあるから。」
でもその魔法適性を伸ばせるのはいつになる事やら。今年は特例だから早くに出来るようになるかもしれない。
一限の終わりを告げる鐘が鳴った。
「次も教室だからこのままいてね。」
ハイネ先生が教室を後にした。
「リフォンー。」
リベルが俺を撫でる。特に理由は無い撫でが俺を幸せにした。ワーナーとアインもリベルに便乗して俺を撫でた。俺はみんなを幸せにすると同時に自分も幸せになって猫に転生して良かったと改めて思った。
「よいしょっと。」
ハイネ先生がアイテムを持って戻ってきた。そして俺を撫でてるみんなを見て足早にこちらにやってきた。
「わ、私も撫でさせてもらって良いかな?」
「ンニャー。」
「ありがとう!」
ハイネ先生は俺を両手で目一杯撫で猫吸いも堪能した。その夢中具合は二限の始まりを告げる鐘が鳴ったのに気づかないほどだ。
「ご、ごめんね。つい夢中になっちゃった。授業を始めるね。二限目は光魔法を体験してもらおうと思ってアイテムを持ってきたから一人一つ取って。」
リベルが取ってきたアイテムはペンダントの様だ。
「これは回復魔法のアイテムだから傷が無いと効果を実感出来ないと思うから体験したい人は前にナイフ置いておくから小さな傷をつけてね。」
魔法の体験のためとはいえ言ってる事はかなり恐ろしい。
「リフォンの牙で傷つけれないかな?」
(え?何でそんなこと言うの?絶対嫌だよ。)
俺は思いの丈をぶつけた。
(ごめんごめん冗談だよ。でも光魔法体験してみたいからちょっとだけ指先切って良い?)
(別にそれぐらいなら良いけど俺に許可取る必要ある?)
(無いけどまぁ確認した方が良いかなって。行ってくるね。)
リベルは前に行き左手の人差し指にナイフの刃を当てた。リベルはそのまま席に戻ってきてアイテムを使った。そのアイテムから暖色の光がリベルの体を包み込み左手の人差し指の傷が治った。それに俺は声が出そうになったが寸前で抑えた。
「おー。治った。」
随分とあっさりとした反応で俺は拍子抜けした。傷が治るなんてかなりすごいことだと思ったのにリベルからしたらそこまでなのだ。
(なんか普通だったね。)
(傷が治るのは普通なのか?)
(普通では無いけど屋敷で怪我したら誰かがすぐに治してくれたから。)
(ふーん。流石公爵家。)
俺は自分だけ興奮してるのが悲しくなった。
「みんな満足したら前に返しに来てね。次は施錠と解錠だよ。みんな見える所に来て。」
俺たちは教壇の近くに集まった。ハイネ先生は南京錠を取り出し首からかけている鍵を手に取りその南京錠に先を向けた。そして左に鍵を回すと南京錠が開いた。
「「「おー。」」」
「今度はいい反応で良かったよ。ちなみにこの鍵もアイテムで学園にある扉の八割は開かれるんだ。後の二割は秘密だから聞かないでね。」
その二割の扉は魔導書を保管している部屋や武具を保管している部屋など生徒が入るのは芳しくないのだろう。
二限の終わりを告げる鐘が鳴った。
「今日はここまで最近は魔神教団の事は聞かなくなただけど依然警戒はしておくように。」
今日の朝に魔神教団と思しき奴がいたから行動には気をつけないといけない。やっぱり学園長に伝えた方が良いのだろうか。
次回もリフォンの猫生をお楽しみに。