24話 帰ってきた日常
異世界に転生した俺はリフォンという名を貰い猫生を送る事になった。でも優雅に生きて死ぬだけでは面白く無い。異世界に転生したのに勿体無い。異世界を思う存分堪能してやる!
「おはよリフォン。」
昨日まで魔界にいたからリベルの俺の頭を撫でる手に懐かしさと幸せを感じると同時に戻ってきた事を実感する。
「ンニャー。」
俺はゴロゴロと喉を鳴らしリベルに甘える。
「今日はいつもより甘えん坊だね。」
「ニャーン。」
俺は数日の疲労と心労をリベルに甘える事で癒した。今日は学園が休みだからリベルがやめてと言うまで甘えてやった。
(今日どこか行く?)
リベルが唐突に聞いてきた。俺は特に行きたい場所も欲しい物も無く返事に困った。
(特に無い?)
(うん…)
(じゃあ僕の買い物に付き合って。)
(分かった。)
俺は二つ返事でリベルの買い物に付き合う事にした。
(じゃあ行こうか。)
リベルは俺を抱き抱え街に繰り出した。出店で食べ物を買い食いしながら着いたのはオークションと看板に書かれた所だ。俺は奴隷とかが売られていないか少し心配だ。
(ここ俺たちが入っても大丈夫なのか?)
(大丈夫だよ。ここは王都公認のオークション会場だから。今日はここに何か良いのないかなーって来ただけだから。)
俺は胸を撫で下ろした。会場に入るとリベルが受付の様な人に招待状の様な紙を渡した。すると奥から案内役の様な人が来た。
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ。」
その人が俺たちを席に案内した。そこはオペラが良く響きそうなホールだ。ひと席ひと席装飾があしらわれておりその値段が伺える。俺はそんなオークションにビクビク怯えているがリベルは慣れている様に見える。
(な、なぁリベル俺こういう場所初めてだから緊張しるけどリベルは緊張しないのか?)
(こういう場所は時々お父様たちと来てたから慣れてるね。リベルが何かする事は無いから気楽にしてたら良いよ。)
(そう言われても…)
俺はいつもより心拍数が早い。とりあえず落ち着くために深呼吸をした。最初より幾分か落ち着きこの場にも慣れてきた。
(もうすぐ始めるよ。)
リベルがそう言うとステージの端にある演台に黒髪オールバックの青年が立った。
「お集まりいただき誠にありがとうございます。本日は皆様方もご存知の通り最高級アイテムや武具、様々なアーティファクトが出品されます。どうか後悔の無ように。」
俺は初めて聞くアーティファクトとと言う単語に興味を持った。俺は居ても立っても居られなくなり早速リベルに聞いた。
(リベル!アーティファクトとは何だ?)
(テンション上がってるね。アーティファクトって言うのは世界各地にあるダンジョン、迷宮から掘り出された物や遥か昔のアイテムの事を言うんだよ。アーティファクトの性能は凄まじい物で昔の魔法がどれほどすごいものなのか実感出来るよ。)
まるで実物を見たり使ってみたりした物言いだ。公爵家ならアーティファクトの一個や二個あっても不思議では無い。
(今の魔法は昔より劣っているのか?)
(そうだね。昔の人はみんな魔法適性が高く尚且つ魔法に対する探究心がすごかったんだろうね。)
(リベルの推測で言うならリベルも昔の人たちのような魔法使いになれるかもな。)
(そういうリフォンもね。)
俺たちは二人で笑い合った。こうして誰かと心を通わせて笑い合える事がこんなに幸せだと感じたのは使い魔としてこの世界に召喚された頃以来だ。
「まず一つ目の品物は彼がこの世を去るまで彼に並ぶアイテム製造士はいないと言わせるほどの技術を持っていたガイラー・プローキンスの光魔法の浄化のアイテムです!」
やっぱりプローキンス家はアイテム関係で世界有数の家系のようだ。
「一千万。」
「二千万。」
「五千万。」
今まで聞いたこともないような額が飛び交っている。俺はその光景に唖然とした。
(プローキンスって事はソフィーさんのお祖父さんかな?)
(そ、そうだろうな。プローキンス家って本当にすごい家系なんだな。)
「ニ億とんで百万。これ以上はいませんか?落札です!30番さんは良い買い物をされました。」
俺たちがテレパシーで会話している間に落札されていた。このアイテムの収益はどこにいくのかが気になるところだ。
「次は目撃例が数少ないドラゴンの鱗です!」
「二百万。」
「三百万。」
俺はこの世界の事をまだ何も知らないのだと思い知らされた。ドラゴンとか男心をくすぐる存在がいる事を。グロウに黒龍と炎龍が描かれているペタフォーン家の紋章を見せてもらった以来ドラゴンや龍と言う言葉を聞いてこなかったから余計に興奮している。
(ドラゴンと龍は違うのか?公爵家の紋章に描かれていた黒龍と炎龍を思い出したんだがなぜだか違う気がしたんだ。)
(流石リフォンだね。ドラゴンと龍は違うよ。ドラゴンは大きな翼が生えている種族で、龍は魔法生物って言って太古の昔からいた種族なんだ。簡単に言うとドラゴンは動物で龍は魔法から生まれたから妖精に近いかな。)
(一度会ってみたいものだな。)
(その時は僕も一緒が良いな。)
俺たちはまだ心は子供のままだからそのような存在に憧れを抱いている。そんな話をしていたらいつのまにかステージ上からドラゴンの鱗は無くなっており誰かが競り落としたようだ。
「次はかの名工ソーレイ・ワンガドルの一振り、ラーティスです!」
「一億!」
「一億一千万!」
「一億三千万!」
俺は猫の体だから剣には興味が無かったから全然知らなかったけどリベルが興奮気味にその剣を見ているからどんな剣なのか聞いてみた。
(リベル?あの剣そんなにすごいのか?)
(もーねすごいってレベルじゃないよ!あれはね一般人が持つととても切れ味の良いだけの剣なんだけど、魔法が使える人が持つと魔法の威力や効率を上げてくれるんだ。そして魔法剣士が持つと更にすごくて剣に魔法を纏わせるとさっき言った通り魔法の威力と効率を上げるから何倍にも強くなるんだよ!)
こんなにも興奮しているリベルは初めて見る。リベルは剣術より魔法の方が得意そうに見えたからより驚きだ。これにはガインもニッコリだろう。
「三億二千万まで出ました!これ以上はいませんか?102番さんが落札です!」
「悔しい〜!」
リベルが歯を剥き出しにして悔しがっている。リベルのこんな一面を見れてここに来て良かったなと思った。
「最後は一見普通の本に見えるがその正体は太古の昔が書かれている魔導書です!これは誰によって書かれたのかいつの時代の物なのか、本当に使える魔法なのか一切分かっていません!ですがその魔法を扱えれるようになれば賢者パラシュラーマ様のようになれるかもしれません!」
他の人たちは魔法の才能が無いのか買うのを渋っている。
(あれ結構良いやつですよ。)
(どういう事ですか?あれ?女神様?おーい!)
その一言だけ言い残し女神はいなくなった。でも何かあの魔導書を手に入れなければならないという焦燥感に駆られた。
「一億!」
俺は誰にもバレないように言った。リベルが驚いて俺の方を見たが何か悟ったのか冷静に番号が書かれたパドルを上げた。
「一億です他にはいませんか?108番の方が一億で落選です!賢者になるのを楽しみに待っております。本日は誠にありがとうございました!」
会場には大きな拍手が響いた。
(リフォン!どういう事?)
初めてリベルの怒った顔を見た。綺麗な顔を崩さず内心で怒っている感じだ。
(な、何となくあれは買わなきゃって思ったんだ。ごめんお金はどうにかするから。)
(良いよ。一億なんて公爵家なんだから痛くも痒くも無いよ。でも事前に言って欲しかったな…)
「108番様。魔導書をお待ちしました。」
「ありがとう。」
その魔導書はあり得ないほどの魔力を帯びている。なのにその魔力は周りに溢れ出ないように自制しているようだ。魔力自身が制御しているのだとしたら昔の魔法に辿り着くには一生をかけても辛いかもしれない。
(案外普通だね。)
俺はリベルのその声に驚愕した。こんなにも魔力を帯びているのに気づかない筈がないからだ。
(リベル…気づいてないのか?)
(え?何の事?)
(い、いや良いんだ。)
本当に気づいていないようで俺は少し言うのを躊躇った。魔界で貰った加護のおかげかずっと魔法を使っていたから魔法適性が底上げされたのか分からないが、明らかに俺は成長しているようだ。
次回もリフォンの猫生をお楽しみに。