235話 対抗策
女神に託された俺は目を覚ますとみんなが浮かない顔をしていた。おそらくまともな作戦は思いつかず、どうすれば良いのかも分かっていないからであろう。正直なところ、女神もお手上げな状態のため俺たちにできることは精一杯足掻くことだけだ。これをみんなに伝えた時の反応が気になるところだが、それでみんなの士気が低下しては勝てる戦いも勝てなくなる。ここはみんなの士気を上げるためにも俺が対抗策を打ち出すことにした。
「良い案思いついた!」
俺の言葉にみんなが顔を上げて俺の方を見た。この状況を覆せるのかと期待を込めた眼差しに俺は応えたかったが、思っているような形では応えられないことに申し訳ないと思いつつ言った。
「俺たちって今まで世界中を旅してきたじゃん。だから、世界中にある程度の人脈はあるわけよ。それを利用して、魔神に対応してくれる勢力を作り出すの。俺たちだけじゃ可能性は極めて低いかも知れないけど、大勢いたら少しでも可能性は上がるかも知れないじゃん?」
俺の考えにみんな納得してくれたが、この状況を一変させるような策ではないことに少し肩を落としていた。でも、少なからず可能性はあると思ってくれたのなら、ほんの僅かにでも可能性は上がったと言っても過言ではない。そこからの俺たちは早かった。
まず、カサムラーには自国民に魔神教団のことを教え魔神に敵対する意志を明確化させた。そして、最も重要な魔の付く者たちは魔神に従属してしまうという問題点を解決するために、カサムラーが自国民に闇魔法で自分の支配下に置くことの許可を求めた。これは国民にとって重大な決断になるため国民投票が行われることとなった。
カサムラーが悪魔の国の対応をしている間に、俺たち八人は世界中に魔神教団に対抗するための協力要請をしに行くことにした。空を飛べる俺とルナ、イシュ、ヒューを軸に俺とジュナは魔族の国に、ルナとリベルはエクサフォン国に、イシュとユディはヴォディカ国に、ヒューとルリはファラブに向かってもらった。と言いたかったが、イシュが言いづらそうにしながら言った。
「私の仲間が世界のどこかにいる。でも、最近皆から通信が来ないんだ。私から送っても返ってこない。もしかしたら……だから、各国に行った際、私の仲間をついでに探してくれないか? どの国に誰がいるのかは私が教える。だから頼む。もう一度皆と会いたい……」
これほどにも悲しそうな表情のイシュは見たことがなく、それだけ仲間想いなのだなと思った。もしかしたら、通信機となるようなアイテムで通信していたのならそれが壊れただけかも知れないから可能性はまだある。俺たちが魔神に勝つよりはあるだろう。みんなでイシュの仲間を探してあげようと俺たちは約束をした。
俺とジュナは猛スピードで魔族の国に向かった。今は一秒でも早く事態を知らせ協力してもらうことが最優先事項だ。そのために魔力は惜しまない。悪魔の国は他の国とかなり離れているため、行くのに遠い所だと急いでも一日二日はかかるだろう。実際、俺たちがファラブから悪魔の国に来た時もかなり急いで二日かかったのだから急がなくてはならない。早朝に出発し、魔族の国に着いたのはその日の夕方だった。
俺は過去にカサムラーが魔族の国を襲った時に代理でギルド長になっていたおかげで冒険者ギルドに入ると大歓迎された。中には俺が知らない魔族もいて困惑した。俺が大勢の冒険者にもみくちゃにされていると威勢の良い声がギルド内に響いた。
「あんたたち、元ギルド長が困ってるだろ! 久しぶりに来て高まる気持ちも分かるけど、もうちょっと落ち着きな!」
その声の正体は俺が雇ったケット・シーのおばちゃんだった。みんなおばちゃんに逆らえないのかしょんぼりしながら各々の席に着いた。
「久しぶり。最近どう?」
「おかげさまでこの盛況ぶりだよ。それよりわざわざ来たってことは何かあったのかい?」
「そのためにここに来たんだ」
俺はおばちゃんに背を向けて、さっきまで楽しそうにしていた冒険者たちに言った。
「みんな聞いてくれ! 単刀直入に言うが、今、魔神教団って奴らが魔神を復活させようとしてるんだ。俺たちはその魔神に対抗するために、各国を回って協力者を募っている。だから、どうか世界のためにみんなの力を貸してほしい!」
俺が頭を下げて言うと、冒険者たちの反応は予想外のものだった。
「俺たちは魔神に従属させられちまうよ旦那……」
「魔神には立ち向かえねぇ……」
「お、俺たち魔の付く者は魔神には逆らえねぇんだあんたも分かってるだろ?」
俺は冒険者たちのネガティブではないが、現実的に無理だと諦めるその態度を叩き直すために喝を入れてやった。
「お前らは冒険者だろ! 国を守る冒険者がそんな弱気でどうする!」
俺の言葉にみんな、でもと否定した。俺はそんなみんなに対抗策を言った。
「俺が光魔法を使ってみんなをサポートする。だから、俺たちに協力してくれ! 頼む!」
俺の言葉に多数の冒険者は悩んでいたが、そんな雰囲気を壊すように活発な声が聞こえてきた。
「俺たちはあんたに着いていくぜ兄さん」
そこには十人の逞しい冒険者がいた。俺はその言葉にホッとしたが、当人らはなんだか不服そうだった。俺が何をそんなに膨れているんだと思っているとおばちゃんが言った。
「覚えてないのかい? あの十人はあんたが魔法を教えた十人だよ」
「えーーー!?」
俺の言葉に十人はやっと気がついたのかと笑っていた。俺がなぜ十人に気が付かなかったのかと言うと、彼らは当時より格段に成長しており皆が周りにいる大人の冒険者と遜色ないぐらいの見た目に成長しており、纏っている雰囲気がベテラン冒険者のものだったからだ。俺が驚いていると周りにいた冒険者たちが口々に何かを言い始めた。
「十桀が言うのなら……」
「十桀を信じてみるか……」
「十桀が行くなら……」
皆口々に十桀という言葉を口にしている。俺がその言葉を疑問に思うと十人の中の一人が言った。
「俺たちは今、魔族の国を守る十傑として活動してるんだ。これも兄さんが魔法を教えてくれたおかげです」
俺はその言葉に嬉しさと成長の早さに驚く心があった。魔族の成長が早いのはリンとクフォンを見たら分かるが、まだ成長するのかと驚いた。でも、十人皆大人の姿になっており、もう成長しきったのは確実だ。それより、戦力が増えたのは嬉しい誤算だった。俺とユディが育てた十人だから強いのは確実だろう。俺は嬉しくなり思わず微笑んでしまった。
「それで、いつ魔神と戦うんですか?」
俺はその問いに正直に答えた。
「まだ分からない。ただ、一つ言えるのは今この瞬間に魔神が復活してもおかしくはないとだけ……」
俺の言葉に辺りの空気が一変した。魔神が復活する恐怖、それが今この瞬間かも知れないという危機感、これらに対して良い顔をする者はいないだろう。俺だって正直魔神が怖い。叶うなら魔神なんて復活しないでほしい。でも、もう手遅れなのだ。だからこうして戦力を集めている。俺が胸の内を話して士気を下げるわけにはいかない。俺は何とか気丈に振る舞った。
「ここにいる皆に問う。世界のために死ぬ覚悟はあるか?」
俺の言葉に皆が言葉を詰まらせた。仕方ないことだ。死を目前に正気でいられる方がおかしい。俺は続けた。
「俺は世界のために死ねる。俺たちが魔神に立ち向かわなければ世界は壊滅する。でも、俺たちが立ち向かえばその結果を変えられるかも知れない。だから、俺は世界のために死ねる覚悟がある。強大な敵に立ち向かうのは困難だ。でも、立ち向かわずに結果を受け入れることができるか? 否! 俺たちは冒険者であり戦士だ! 自分の国のために戦っているのが世界に変わり、俺たちは後世に英雄として讃えられる! 世界のために死ねる覚悟がある者だけが英雄となれる。お前たちは軟弱な戦士のままで良いのか? 英雄として讃えられたくはないのか? 戦士として、英雄として魔神という強敵に立ち向かい運命に抗ってみせろ!」
「「「うおおおーーー!!!」」」
俺は何とか冒険者たちを説得することに成功した。十桀の皆も良い表情をしており、ここは十桀の皆に託すことにした。
「俺たちはまだ他の国も行かなくてはいけないからここは任せるぞ。その時が来たら皆を連れて北東に進め。俺の仲間が皆を訪ねるかも知れん。ドラゴンかも知れんし悪魔のかも知れん。だが、とても心優しいやつだ。警戒するなというのは無理だが、知っておいてくれ」
「分かりました」
俺はジュナと残るジャドゥー帝国に行こうとしたが、ルナとリベルが一番近いからと思いルナに頼むためにルナに対する思いを込めてテレパシーを使ってみた。
(ルナ聞こえてるか?)
(リフォン様、聞こえております。どうかなさいましたか?)
(エクサフォン国が終わったらジャドゥー帝国に行ってくれ。俺たちはアイベンティーリに行く)
(承知致しました。エクサフォン国ももうそろそろ終わりそうです。公爵家という地位あってこそって感じでしたよ)
(そうか。でも、ジャドゥー帝国は一筋縄で行かないだろうな。もしかしたら協力してくれないかも知れん。そのつもりでいてくれ)
(承知致しました。お気をつけてくださいね)
(そっちもな)
俺とジュナはアイベンティーリに向かった。寝ずに向かっていたため、夜行性の魔物に襲われたりしたが、ジュナが対処してくれ何とか大丈夫だった。ただ、大抵の魔物は俺のスピードについて来られていなかった。アイベンティーリに着いたのは翌日の昼前だった。アイベンティーリとジャドゥー帝国はほとんど関わりがなく、どうしたものかと考えた。直接国王に言うのが最も効果的だろうが、どうしたものかと悩んでいると後ろから声がした。
「どうだった?」
ルリの声だった。俺は魔族の国の事とどうしようか悩んでいる事を伝えるとルリが自信満々に言った。
「私は水の精霊アプサラスよ。国王なんて、私に会っただけでひれ伏してたわ。それで協力関係締結ってわけ」
俺はその言葉に感化したが、疑問に思うこともあり聞いた。
「それよりファラブはどうした?」
「ヒューに任せたわ。と言うより、私をここに置いて行ってファラブに向かっちゃったの。いちおうヒューからリフォンとジュナが来るだろうから二人に連れて行ってもらえって言われてたからお願いね」
誤算だったが、嬉しい誤算であり俺はルリを連れてジャドゥー帝国に向かった。もしかしたらカミーヤ伝手に帝王にどうにかできるかも知れないと思った俺は急いだ。ジャドゥー帝国に着いたのは翌日の午前だった。何とかセーフかなと思いカミーヤの屋敷に向かおうとしたが、ジュナとルリはどうしようと思い、ルナにテレパシーをして二人を頼むことにした。
(ルナ?)
(リフォン様? どうしてこちらに?)
(それはジュナとルリから聞いてくれ。二人を預かってて欲しいんだ)
(分かりました。お二人はどこに?)
(門の所俺はやることがあるから)
(承知致しました)
俺は急いでカミーヤの屋敷に向かった。カミーヤの部屋のベランダに降り立ち中を見てみると中にカミーヤはいなかった。花の手入れをしているのだろうと思い、ハウスに向かった。俺がハウスを開けるとカミーヤと目が合った。
「リフォン!」
カミーヤは花鉢を落として俺に抱きついてきた。俺はそれを受け止め抱き返し、事情を話した。
「カミーヤ様、緊急事態です。グラヴ様と共に話を聞いてください」
俺の深刻そうな顔を見て察したのかカミーヤはグラヴの部屋に着いてきてくれた。最初グラヴは俺の姿を見て驚いていたが、イナームの姿を見せて何とか理解してもらった。
「緊急事態なのです。単刀直入に言いますが、魔神教団という組織が魔神を復活させようとしています。俺たちは世界中を回って各国に協力してもらっています。ですので、ジャドゥー帝国にも来たわけです。騙していたことは謝罪します。どうか帝王に進言して頂けませんか?」
「魔神が復活なんて……分かった。必ず説得する。だから、君たちは君たちのやるべき事をやってくれ」
「ありがとうございます」
グラヴの返事を聞き俺は部屋を後にした。扉を閉めるとカミーヤがキスをして言った。
「必ず帰って来てね。約束したんだから……」
カミーヤは俺にくれたイヤリングを触りながら寂しそうな表情をしていた。
「必ず帰って来ます」
俺は力強くカミーヤを抱きしめて屋敷を離れた。リベルたちと合流し、カサムラーの屋敷にテレポートすることにした。ヴォディカ国はイシュがいるし、ファラブは期待しなくても良い返事が返ってくるのは分かっているからみんなを待つことにした。事前にルートは決めており大まかにそれに沿って行動していたのでもうそろそろみんな帰って来てもおかしくない手筈だった。でも、みんな寝ずに行動していたため疲労がピークに達しおり、後のことはカサムラーたちに任せて俺たちは泥のように眠った。
次回もお楽しみに




