23話 気がついたら魔界
異世界に転生した俺はリフォンという名を貰い猫生を送る事になった。でも優雅に生きて死ぬだけでは面白く無い。異世界に転生したのに勿体無い。異世界を思う存分堪能してやる!
俺は気がついたら全然知らない地獄の様に地面は岩が剥き出しで辺りには戦闘の後がこびりついている土地にいた。辺りは血の匂いが充満している。
「女神様どこに飛ばしたんですか?」
俺は怒りながら届くはずもない文句を言った。
「そこは魔界ですよ。魔人や魔物、魔族たちが住む土地です。」
俺は急に聞こえて来た女神の声に驚いた。
「いるんですか!?」
「そりゃいますよ。あなただけ送り込んでも意味ないですからね。」
それはそれで少し悲しいような気持ちもあるが急に全然知らない所に飛ばされて不安だったから一安心だ。というかなんか女神急にラフになって話しやすくなったな。
「今からどこに行けば良いんですか?」
「目の前にあるあの大きな城に行ってください。」
言われた通り前を見るとエクサフォン城よりは小さいがかなりの大きさの城が建っている。俺は今からここに入るのかと思うと死なないか心配だ。女神と猫の神様の加護を信じるしかない。
「女神様、俺ってあの城に入って何したら良いんですか?」
「魔神の祭壇が城の最上階にありますからそれを破壊してください。」
「わ、分かりました。」
俺はしばらく警戒しながら進み城の前まで着いた。城の前に警備兵の様な奴はいなくすんなりと潜入できた。城の中は外とは違って血生臭かった。俺はその匂いに鼻をつまみたくなったが出来ないのが悔やまれる。
「とりあえず上に上に向かっていけば良いんですよね?」
「そうよ頑張って。」
俺は物陰に隠れながら誰にもバレないように城の中を探索する。途中でリザードマンの様な奴やキメラの様な奴もいて明らかに魔族や魔物って感じで感激した。
「ところであなた何でそんなにバレやすい格好のままなの?」
「女神様、俺たちはあなた方と違って姿を変えられないんですよ。」
「あなたは例外よ。」
「?ドユコト?」
「あなた猫の神様の加護を受けたわよね。その加護のおかげで姿を変えられるのよ。」
「うーん?」
俺は理解しようとしたが無理だった。
「頭の中で今のあなたの姿を想像してその姿にリザードマンの姿を被せてみて。」
「はい。」
俺は言われた通りにイメージしたら目線がとても高くなった。手を見てみると鱗がびっしりと付いている。
「出来たでしょ!」
「出来ましたね…」
「それは猫の神様が猫の逸話や言い伝えや猫に関する言葉の魔法が使えるのよ。猫被ってるって聞いた事あるでしょ?それの魔法よ。」
俺は現状を何も理解できていない。姿を変えられる理由もここに来た理由も魔神の復活を止めるのも、情報が多すぎて頭がパンクしそうだ。
「さ、最上階を目指して!」
女神は俺の気持ちなんて一切考慮せず指示してくる。十階までは普通に登れていたがそれ以上は門番がいるようでそいつらを倒さないといけないらしい。この城は強さで住める場所が異なっていて最上階は学園長並みに強いらしい。そんなのを俺に倒せと言うのは本当に無理難題だと思う。
「女神様、もっと分かりやすいぐらい強くなられる加護無いんですか?」
「欲張りですね。でも今のあなたでは最上階まで行けなさそうですから加護を与えてあげましょう。」
俺の体の周りが光った。その光は暖かく慈愛に満ちているようだ。
「ありがとうございます。ところでどう変わったんですか?」
「体力と魔力と筋力と忍耐力を上げました。」
「言われてみれば何となくそんな気がします。ありがとうございます!」
俺はプラシーボかもしれないがそんな気がした。それからというものの実際とても強くなっており四十階まで苦戦する事なく登れた。今までかなり簡単に登ってきたがあまりに簡単すぎて拍子抜けだ。加護のおかげなのか俺の魔法適性を高く設定した女神のおかげなのか分からない。そんな俺を気に留める事なく女神は最上階に行くことを急かす。
「あと二十階で最上階ですから頑張ってくださいね。」
「女神様これ終わったら何か褒美くださいよ!」
「当たり前じゃないですか!こんなに頑張ってくれた方に褒美を渡さなかったら女神失格です。」
四十階を過ぎ俺の体力も限界が近づいてきたから一休みすることにした。この城は十階毎に階層ボスのような奴と戦うフロアがあるがそれ以外は部屋と広間と食堂があるだけだ。その広間を使って鍛錬する奴もいれば喧嘩をしている奴もいる。食堂では酒を飲み談笑している奴もいる。俺はこの体の名前ラザーディと書かれた部屋を見つけ入った。ここでは強さが城によって自動で分析されその強さによって寝床が変わるらしい。俺の寝床はこの城の雰囲気とは全く合わないホテルのような寝床だった。フカフカなベッドに横たわり女神にこの城の事を詳しく聞く。
「女神様この城の事もって詳しく教えてくださいよ。」
「しょうがないですね。まずこの城は魔神城です。その名の通り魔神の城です。そしてこの城は魔神の軍を強くするためにこういう設計に作られました。だからその分戦ってきた戦士たちをもてなすようになってるんです。ちなみに階層を登るために倒してきたものたちはこの城が作り出した現実には存在しない魔族や魔神、魔物です。他に聞きたい事はありますか?」
「死んだら?」
「そのまま死にます。」
「ですよねー。」
俺はきちんと御飯を食べる事にしたこんな城の食べ物だから変な物が出てこないか心配だったが大きな骨つき肉が出てきて逆に興奮した。御飯を食べ終え睡眠をとり次の戦闘に備えた。
目が覚め体調も良かったので早速階層を上がる事にした。
「お主か一日でここまで登り詰めた強者は。」
ここの敵は人狼の様だ。だがその見た目は明らかに強者だ。傷だらけの体に隆起している筋肉。背負っている大剣は幾つも刃こぼれがある。俺は一筋縄ではいかないと思い覚悟を決めた。火魔法で体を覆い剣から身を守り、剣にも火魔法を流し魔法剣士の真似をした。女神の加護とリザードマンの体のおかげで魔力が今までの倍以上になり様々な戦法ができるようになった。人狼は全身に火を纏った俺を見て驚いていたが覚悟を決め大剣を更に強く握りしめた。
「いざ参る!」
「こい!」
俺は人狼に真っ直ぐ突っ込んでいった。
「バカめ。」
人狼は俺をその大剣で真っ二つにしようと叩きつけたが俺はそれを読んで右脇腹方向に避け俺の剣を突き刺した。
「やるな!ガハッ…」
俺は絶対に決着はついたと思ったのに人狼は気合いで耐えている。口から血を吐きながら立っているのだ。俺はそんな人狼に驚愕と畏怖の念を抱いた。
「もう俺の勝ちだ諦めろ。」
「へへへ…俺たちに諦めるなんて選択肢ねぇんだよ!」
人狼はその大剣を俺めがけて投げた。俺は反応が少し遅れ左腕に二センチほどの深さの切り傷を負ってしまった。俺はもう傷を負わないために火魔法で人狼を殺した。
五十階に上がる階段が出現した。俺は光魔法で左腕を回復させながら登った。左腕を完治させる頃に広場に着いた。
「「「うおおおおおお!新入りだ!」」」
そこには十人ほどの魔人と魔族がいた。そいつらは酒を煽るように飲み俺を歓迎した。
「すまんな兄いちゃん。ここまで来たやつは久しぶりなんだ。みんな良い奴だから気を悪くしないでくれ。」
長髪で耳が長いエルフの様な奴が話しかけてきた。人間とは少し違うが共生出来そうな感じの見た目だ。今の時代なら迫害されずに平和に暮らせそうなものだが、人間に対して恨みを持っているからそれは叶わないだろう。
「ああ、構わない。こんなに歓迎されたのは初めてだ。」
「そうかそうか!飲め飲め!あはは!」
さっき戦った人狼と瓜二つの人狼が言う。階層を上がるために殺してるのは、次の階層にいる奴なのではないかと勝手に思った。
「兄ちゃん飲まねぇのか?」
「飲むよ。」
俺はそのまま酔っ払った勢いでそこにいる奴らと色々な話をした。どんな人生を送ってきたのかや冒険譚、自分の家族の事を夜を明かすまで話し合った。俺は奴らが寝ている間に光魔法で酔いを回復させ最上階に挑んだ。
「来たか。」
俺は驚いた。そこには俺の今の姿と瓜二つのリザードマンがいたからだ。持っている剣も左腕の傷の位置も同じだ。最上階に行くためには自分を超えなくてはいけないという事なのだろう。
「いくぞ!」
「こい!」
俺は光魔法で相手を浄化させた。魔族や魔人、魔物には光魔法の浄化が効果覿面らしくその一回で明らかに弱った。だがまだ戦う意思はあるようで剣を持ち向かってきた。俺はそれに答えるように剣を持ち向かった。
「グハッ…」
俺は火魔法で体に鉄が溶けるぐらいの高熱を纏い相手の剣が俺に届かないようにした。その結果俺の剣だけが相手に届いた。俺は一応自分自身に勝利し最上階に登った。
「…」
俺は息を飲んだ。そこにはあまりにも悍ましい物があった。人の形をしているがそれは人とは呼べない。ただ肉塊が人の形を真似ている感じだ。
「それを殺してください。」
女神は一切の動揺も無しに言った。俺は女神に驚いたが人間に害なす物だと割り切ってその肉塊を縦に真っ二つにした。
「これで終わりです。呆気なかったですか?」
「い、いや…何か…」
俺は言葉が出なかった。その肉塊が魔神になる事も驚きなのだが、その肉塊が出来た経緯やさっきの状態に驚き何も言えなかった。
「とりあえずこれで一旦は落ち着きましたね。」
「一旦って?」
「魔神は人間に迫害されたものたちの憎悪で出来てるんです。だからまた出現するんです。その度にあなたのような方にお願いして阻止してもらってるんです。」
「ちなみに阻止できなかった事ってあるんですか?」
「今のところ無いですね。安心してください。前復活しそうになったのは三百年前ですからあなたの生きている間には復活しませんよ。」
俺は心の中でフラグだーと思ったけどそうじゃないことを願った。
「とういか俺がリベルの元にいなかった間どうするんですか?」
「私は女神ですよ。何も問題ありません。あなたはこの間きちんといた事になってます。記憶は無いですが何とでもなるでしょう。それではリベルさんの元にリフォンとして戻しますね。」
「最後に一つだけ!」
俺は飛ばされる前に急いで聞いた。
「良いですよ。」
「姿変えられるのはリフォンの能力だから使えるんですよね?」
「使えますよ。でもリベルさんを守るため以外には使わないようにしないと痛い目に遭いますよ。多分ね。」
俺は光に包まれリベルの膝の上に戻った。
「リフォン一緒に寝よ。」
リベルはいつも通り俺を抱きしめて寝た。女神の褒美が気になるがここ数日の疲労が一気にやってきて泥のように寝た。
次回もリフォンの猫生をお楽しみに。