190話 プサーリ捜索
トカと会った翌日、俺たちはヴォディカ国をぶらぶらしていた。冒険者ギルドに向かい手頃な魔物討伐依頼はないかと見てみたが、海の魔物ばかりで控えておいた。何かすることはないかとプサーリの元に向かうことにした。プサーリがどんな漁をしているのかやどんな魚を獲っているのか知らないから知りたいと思ったのだ。道中みんなで雑談をしながら歩いていると港の方から一人の魚人が大急ぎで走ってきた。
「イシュ!プサーリが!プサーリが帰って来ねぇんだ!」
その言葉を聞いた俺は血の気が引く感覚を覚えた。イシュはさっきまでの楽しそうな顔からプサーリを心配する気持ち、焦燥感、動悸で今まで見たことない表情をしていた。俺たちはそんなイシュを落ち着かせた。
「イシュ落ち着いて!」
「ゆっくり深呼吸して!」
俺たちがイシュにそう問いかけると何とか少し落ち着きを取り戻しゆっくりと呼吸をして、自分を落ち着かせるように胸に手を当てていた。
「ところでプサーリはいつから帰って来てないんだ?」
落ち着いたイシュが走って来た魚人に問うと魚人は息が上がりながらも答えた。
「三日だ。いつもはすぐに帰ってくるはずなのに昨日も帰って来ねぇからみんなで探しに行ったんだ。一日かけても見つからなくて泣く泣く帰って来たんだ。頼む!プサーリを見つけてやってくれ!」
その魚人は必死に涙を流さないようにしていた。でも、声が上擦っており感情が込み上げて来ているのは一目瞭然だった。
「任せろ。絶対に見つけ出してやる!」
「すまん…俺たちじゃ力不足だ…」
遂には膝から崩れ落ちて静かに涙を流した。イシュはその魚人の肩に優しく手を置き俺たちに任せろと言わんばかりに港に向かった。俺たちもイシュに続いた。と言っても広大な海を何の手がかりも無しに見つけ出すのは困難を極める。何か策を講じなければ遭難するのは俺たちの方になってしまう。一刻を争う事態なのは分かっているが、無策で突っ走るほどバカじゃないので作戦会議をすることにした。
「どうやって探し出す?海から船一隻見つけ出すのはかなり厳しいと思うが…」
俺がそう言うとイシュが言った。
「プサーリはベテランの船乗りだ。荒波で沈没した可能性は低い。考えられる可能性は魔物から逃げて遭難してしまったか、どこかの無人島でやり過ごそうとしているかだ。仮に沈没していたとしても魚人だから帰って来れる可能性は十分にある。もし、魔物が今でもプサーリたちを狙っているのなら今すぐにでも駆けつけた方が良い。」
イシュの言葉に俺は反論した。
「行くのは良いが、帰ってくるのはどうするんだ?何か目印とかがあれば良いけど、俺たちにそんなものはないぞ。」
イシュが続いた。
「私は微かに魔力の痕跡が見える。リフォンが風魔法で飛んだ魔力痕が見えれば帰って来られる。でも、万が一の場合のことを考えて漁で使う定置網を持って行こう。それなら目印になるし複数個おけばかなりの距離まで探しに行ける。」
イシュの案を採用して俺たちは港にいる漁師たちから借りれるだけの定置網を借りた。そして、それを絡まらないように一つづつファンタジーリュックの中に入れ準備は整った。
「日没までには帰って来る。」
イシュが港にいる魚人たちにそう言い残し俺たちはプサーリ探しに向かった。広大な海から船一隻探すのは至難の業で水平線にそれらしい物を見つけたと思ったらただの流木だったりして、探し始めてから数時間が経った。未だにプサーリが残したであろう目印なども何もなく収穫はなかった。定置網もかなりの数使い残り少なくなってきた。そんな時水平線の先に少し大きな何かを見つけた。俺はよく見えるように高度を上げてその何かを確認すると、それは無人島だった。もしかしたらプサーリがいるかも知れないと思ったイシュはテンションが上がっていた。無人島に着いたが、プサーリの漁船らしき物は見当たらなかった。その無人島は中央に林がある無人島だったため中を探してみることにした。
「プサーリ!いたら返事をしてくれ!」
「プサーリ!」
「プサーリ!」
俺たちはプサーリの名前を呼びながら歩き回ったが、その島にプサーリはいなかった。食料を獲りに行ってるだけで今はいない可能性もあるため島の浜辺に石で俺たちがやって来た方向とメッセージを残しておいた。そして、次に向かう方向も示しておいた。プサーリ探しを再開したが、定置網がそこを尽きてしまった。どうしようかと話し合った結果、もう少しだけ探してみることになった。来た方向を見失わないように気をつけながら飛んでいるとまた無人島を見つけた。そして、その無人島を取り囲むようにカルカリーアスたちがいることが分かった。ここにプサーリがいるに違いないと確信した俺たちはすぐにその無人島に向かった。カルカリーアスたちは無人島から出られないように一定の間隔を空けて待機しており、獲物に対する執着の強さに恐怖を覚えた。
「プサーリ!返事をしてくれ!」
島に着いてイシュがそう叫ぶと林の中から声が聞こえて来た気がした。イシュはすぐさま駆け出し俺たちはイシュを見失わないように後を追った。少し走るとイシュが足を止めた。俺たちは見つけたのかと思いイシュの前を見るとそこには足を怪我していたプサーリがいた。イシュがすぐさま光魔法で手当てし始めた。
「もう大丈夫だからな。安心しろ。」
「ありがとう…」
プサーリは助かった安堵から涙を流しながら感謝を述べた。プサーリが手当てを受けている間に何があったのか話を聞いた。プサーリ曰く、いつも通り漁に出たらカルカリーアスたちが数十頭の群れで襲って来たらしく、何とか船を沈没されないように逃げ回っていたらいつの間にかかなりの沖合まで来てしまっていたらしく、もう大丈夫だろうと油断したところを襲われて船を沈没させられて帰る手段がなくなったそうだ。その話を聞いていた俺たちは一つの結論を見出した。それは超巨大なカルカリーアスを討伐したのが原因ではないかと結論付けた。きっと奴がここら一帯のボスみたいな存在で、その復讐をしているのではないかということだ。イシュとプサーリは今までそんなことはなかったと驚愕していた。
プサーリの手当てが終わり俺たちはその無人島を後にした。定置網を頼りに港まで帰ると魚人たちがプサーリを見つけてくれたととても感謝してくれた。そして、カルカリーアスたちのことも伝えしばらくの間漁はできないことを伝えた。その日の晩はプサーリを見つけてくれたお礼として豪華な宴会を開いてくれた。俺たちは好意に甘えてその晩は飲んでは食べてを繰り返し満腹になるまで楽しんだ。
次回もお楽しみに




