188話 新事実
カルカリーアスたちを討伐したその日の午後、カルカリーアスからヴォディカ国を守った俺たちに一通の手紙が届いた。届いた手紙には独特な形の蝋印で閉じられていた。手紙の内容はこうだ。
ー貴殿らの活躍を耳にした国王陛下より謁見することが許された。翌日の正午、この手紙を持参した上でヴォディカ城に参れー
国王とは言え上から目線な手紙に俺は不快感を覚えた。
「アイテムとか貰えるかな?」
リベルはウキウキしていた。公爵家出身だからこのような手紙や出来事に慣れているからの反応なのだろうが、それにしても気にしてなさすぎではないかと思った。
「流石に褒美はくれると思うぞ。国王が謁見を許したってことは直接会う必要がある何かを話したり渡したりするためだろうからな。」
イシュはごくごく普通のトーンで言った。イシュは俺たち以上の実力者であることから、このような出来事に慣れているのだろう。明日の予定が決まってしまった以上、俺はイシュに沈黙圏と発言圏のことについて聞くことにした。
「なぁイシュ、沈黙圏と発言圏って何なんだ?朝からずっと気になってたんだ。詳しく教えてくれ。」
「知らないのか?」
イシュが俺たち六人に聞いた。俺たちは一様にイシュを見ながら頷いた。そんな俺たちを見てイシュは言った。
「お前たちは箱庭で育った小鳥だな。私が教える内容によって鷹にも鳩にもなり得る。お前たちはどちらを選ぶ?勇猛果敢で他の鳥を圧倒する鷹か、市街地で人間から餌を貰い悠々と生きていく鳩か、さぁ選べ。」
急にどうしたのかと思ったが、イシュは笑いながら言っており遊んでいるのだと分かった。俺は試しに乗ってみようと思い答えた。
「俺は鳩で良いかな。」
そう言うとイシュは少し笑いながらつっこんでくれた。
「そこは鷹選ぶところやろー!」
イシュのナイスツッコミに俺たちはしばらく笑い合った。落ち着いてきたところでもう一度聞いた。
「結局沈黙圏と発言圏って何なんだ?」
「魔法を撃つ時に魔法の名前を口に出すか出さないかの違いだ。文献によると賢者パラシュラーマは面倒くさいという理由で魔法に名前をつけておらず、必然的に魔法を撃つ時に魔法の名前を言わなかったのだが、魔法が世界中に広がるのと同時に国の文化と結びついて、名前を付けて発言して撃つ国と名前は付けず沈黙して撃つ国に別れたんだ。沈黙圏はエクサフォン国とジャドゥー帝国、魔族の国、悪魔の国で発言圏はヴォディカ国含めその他三つの国だ。他に聞きたいことはあるか?」
俺は何気にイシュの話の中にあった悪魔の国がルナの故郷なのだと直感した。賢者パラシュラーマは魔法に名前を付けなかったのに国によって名前を付けるという選択を取った国があるのに疑問を持った。でも、名前がない不便さを考えたら名前を付ける理由も分かる気がする。そんな考え事をしているとジュナが質問をした。
「イシュさんは魔法を撃つ時何も発言してなかったけど、どっち出身なんですか?」
イシュは少し意味深な表情を見せて言った。
「強いて言うなら発言圏だが、私はどうも魔法を撃つ時に発言するのが嫌いで発言しないんだ。だから沈黙圏と思われても仕方ない。出身国に関してはそこを訪れる時までの秘密ってことで。」
イシュは口に対して垂直に人差し指を当てて静かに笑った。内緒にするなんてお茶目なところあるんだなと思った。その日はそのまま魔法の雑談をしながら一日を過ごした。
翌日の正午、俺たちは国の中心にあるヴォディカ城に向かった。きちんと送られて来た手紙を持参して入れないという事態は防いだ。城に着くとその大きさと綺麗さに見惚れた。職人によって造られた石造の精巧さは紙一枚入らないほど完璧だった。
「行くよ。」
俺が見惚れているとリベルが呼んだ。みんな城にはあまり興味を示していなかった。俺はこんなに綺麗なのにじっくり見ないのは勿体無いと思った。リベルが門番に手紙を渡し俺たちは中に入った。
「お待ちしておりました。案内しますので着いてきてください。」
俺たちは初老の執事によって案内された。ペタフォーン家の執事長ルネスを彷彿とさせるその見た目に、この人はベテランで尚且つ執事長か同等の役職で間違い無いと確信した。しばらく歩き城の最上階に着くとそこには人の背丈をゆうに超える巨大な大扉があった。こんなに大きく造る必要はあるのか疑問に思っているとその大扉が開いた。天井が五メートルはあろう大広間が姿を現した。そしてその大広間の最奥に国王らしき人が大きく豪華な椅子に鎮座していた。俺たちはゆっくりと大広間に歩みを進めた。緊張して歩き方がぎこちなくなったが、何とか平常心を保ちながら歩いた。国王の目の前まで着くと俺たちは片膝立ちをした。
「面を上げよ。」
国王にそう言われ俺たちは顔を上げた。長い髭に長い髪、青い瞳に高い鼻、七十歳前後であろうが、老いを感じさせない容姿をしていた。
「此度よくぞヴォディカ港を守ってくれた。その褒美として一人一つ何か授けよう。金でもアーティファクトでも可能な限り用意しよう。さ、申してみよ。」
俺たちは誰から願いを言い出すかを決めておらず、誰から言い出すのか変な感じになってしまった。そんな雰囲気を断つようにリベルが言った。
「それでは、ヴォディカ国で最も優れた魔法使いに教えを乞いたです。私共は世界を旅している冒険者で、各国で様々な文化に触れてきました。本国でも素晴らしい体験を数々してきましたが、魔法は物足りないと感じております。ですので、本国で最も優れた魔法使いに教えを乞いたいのです。」
リベルがそう言うと国王は少し驚いた表情を見せた。
「素晴らしい向上心だ。今すぐに連絡を取れ。明日再び参れ。そして余の前で貴様らの魔法を披露してくれ。きっとやつもその方が喜ぶ。下がって良いぞ。」
「失礼します。」
リベルが全部終わらせてくれ俺たちはただ待っているだけだった。俺たちは宿に戻りその日はそれで終わった。




