186話 魔神教団調査
イシュが仲間となってからしばらく経ったある日、俺はチャヤに声をかけた。
(チャヤいるか?)
(どうしたの?)
(ヴォディカ国に魔神教団がいるか調べて欲しいんだ。危険だと思ったらすぐに逃げることを徹底した上でな。)
(他に何かある?)
俺は少し考えた。別に魔神教団のことだけでも良いと言えば良いのだが、他に何か関係している事柄があるのならそれも調べてもらった方が効率が良い。
(ちょっと待ってて。)
俺は魔神教団やヴォディカ国についてもっと詳しいであろうイシュに話を聞いた。
「なぁイシュ、ヴォディカ国に魔神教団はいないのか?」
俺がそう聞くとイシュは少し表情を暗くした。
「実は、ここヴォディカ国の上層部が情報規制を徹底してるようで全然情報がないんだ。俺としてはヴォディカ国にある十二の柱が何か関係してるんじゃないかと思ってるんだが、それすら分からないんだ。」
気になる単語が出てきたのでそれについて深く聞くことにした。
「十二の柱って何だ?」
俺がそう聞くとイシュは不思議そうな顔で言った。
「国の外周を囲うように建ってる柱だよ。そんなに大きくないから見えないのか?いや、にしても流石に一度は見たことがあるだろ?」
俺はそう言われて記憶の中を探った。もし見ていたとしても印象に残っていないのかそれらしき柱は思い出せなかった。
「見てないと思う…」
「マジで?」
俺が頷くとイシュは小さくため息をついた。
「新天地なんだろ?だったらいろんな所歩いて行ってみなよ。ここにこんな店があるんだとかいろんな発見があるだろうよ…」
イシュはいつにも増して感情的だった。それほどヴォディカ国に思い入れがあるのかどうかは分からないが、イシュの言う通りなのは賛同できる。でも、俺は宿でゴロゴロしてるのが一番幸せを感じる場所だから全然外に出ないのだ。俺が何も言わないでいるとイシュが続けた。
「その十二の柱って言うのは何のためにあるのか、いつからあるのかさっぱり分からないんだ。街の人に話を聞いてもただそこにあるだけで特に意味はないと答えるばかりだ。きっと何らかの意味は持っているんだろうが、情報規制で何も分からずじまいだ。知らない方が良いことなのかも知れないが、もし魔神教団が関係しているのなら私は自分の命が犠牲となっても暴いてやるつもりだ。」
イシュの魔神教団に対する思いがひしひしと伝わってきた。正義感から来ている思いなのだろうが、その中に憎悪や憎しみといった負の感情が見え隠れしている。
「俺もできることはやってみるよ。もしかしたら、魔神教団に情報を与えないための情報規制なのかも知れないよ。」
俺はそう言い残し宿を離れ人気のない所に向かった。
(チャヤ、十二の柱についてもお願い。)
(分かった。)
チャヤは簡単に返事をし俺の影を離れた。俺はイシュが言っていた十二の柱を探してみることにした。歩いて探すより空から見た方が分かりやすいだろうと思いヴォディカ国土全域が見渡せるぐらいの高度まで上昇した。そして見えてきたのはヴォディカ国は十二の柱を基準に十二角形となっており、中央にイシュが言っていた上層部がいるであろう城があり、城を中心とした正方形の角に塔があるような作りとなっていた。俺はヴォディカ国の幾何学的な美しさに見惚れた。でも、どうしてこのような形にしたのかまでは分からなかった。塔がどのような役割を持っているのかも分からないし、柱同様に分からない。ただ、国王が幾何学的な美しさに囚われてこのような形にしたのではないのかとも思う。それほどに綺麗に作られていたのだ。
宿に戻りイシュにこの話をしようと考えていた時、沖の方でとても大きな魔物であろう生き物が跳ねたのが見えた。海の魔物は陸に比べ大きさも比にならないほどで、ルリがまた討伐に行こうなどと言い出さないか心配になった。宿に戻るとイシュが手紙を書いていた。魔神教団を追っている仲間に宛てた手紙だろうと思い、プライバシーを守るために少し離れて待つことにした。イシュが手紙を書き終えたのか伸びをした。今なら話しかけても良いだろうと思い話しかけた。
「ヴォディカ国を上から見てみたけど凄い綺麗だったよ。柱の位置とか塔の位置に何か意味があるのだとしても、きっと分からないままだろうね。普通に考えて、ヴォディカ国を作った国王が気分か好きだからって理由で今の形にしたのかも知れないし、探るだけ無駄かも知れないよ。」
俺がそう言うとイシュは言った。
「そうかも知れない。けど、ほんの僅かでも疑いがあるのなら晴らした方が良いと思うのは私だけか?」
イシュの思いは十分に理解できる。モヤモヤしたままよりは真偽をハッキリさせた方が誰だってスッキリするだろう。でも、そのモヤモヤを解消しない方が良い可能性も少なからずある。魔神教団に情報を与えないためならそのままにした方が良い。イシュだって分かってくれるだろう。俺は気休め程度にしかならないだろうが、イシュに言ってみることにした。
「情報規制をしてるのは魔神教団に対抗する策があるからかも知れない。例えばだけど、柱と塔、城の位置が何らかの魔法陣みたいになってるかも知れないし。風魔法のテレポートだって、魔法陣があるだろ?それみたいに魔神教団に対する策なのかも知れない。もしかしたら、巨大な海の魔物が襲ってきた時の防護策かも?俺の風魔法みたいに障壁を出現させて守る的な?」
「一理あるな。」
イシュは俺の考えを肯定し、続けた。
「でも、後者の場合は情報規制をする意味はなくないか?」
「他国に知られたくないからじゃない?俺が使ってる断絶壁はエクサフォン国の偉大な魔法使いが生み出した魔法だし、俺みたいに勝手に使われるのが嫌とか?」
「考えれば考えるほど別の答えが出てくるな…」
イシュは俺の答えに頭を悩ませた。でも、実際海の魔物が強大なのは事実だ。だから、そのための防護策を講ずるのは当然だ。そして、その防護策を他国に教えたくないのも事実だ。このまま考えても迷宮入りしてしまいそうだから一つの結論を出すことにした。
「ヴォディカ国を守るためってことにしておいたら?そうしたら魔神教団との関係を否定することにもなるし、海の魔物から国を守ることにもなるし、どう?」
「今はそうしておこう…」
イシュは渋々受け入れてくれた。事実を解き明かすことが良くないこともあるため、チャヤから情報を得たとしてもその情報をイシュに伝えるか伝えないかは吟味しないといけない。
次回もお楽しみに




