185話 海の魔物
魚人二人を助けた後、俺たちはプサーリに昼食を作ってもらった。ムニエルのような魚料理を作ってくれ、俺たちは満面の笑みで昼食を済ませた。俺たちの食事は大抵、ユディが作ってくれとても美味しいのだが、プサーリの料理の腕はユディに負けず劣らずの腕だった。昼食を食べ終えのんびりしているとルリが言った。
「海の魔物、討伐しに行かない?」
俺はプサーリの話を聞いた上で行きたくないと思っていたのにルリは何を考えてるんだと思った。リベルたちの反応を見てみると、リベルはうんうんと行きたそうに頷いている。ジュナは少し不安そうに顔が引き攣っていた。ユディは本当に言っているのかと驚いていた。ルナは俺の顔を窺っていた。このまま多数決を取れば行かない四票、行く二票で決着がつくだろうが、きっと、ルリは海の魔物の恐ろしさを分かってないのだと思った。きっと口で言っても伝わらないだろうから実際に体験する方が良いと思い討伐に行くことにした。
「行こうか。でも、俺の断絶壁の中から観察するだけ。無駄な怪我したくないでしょ?」
「分かった。」
ルリは元気に返事をした。でも、プサーリは俺たちの言葉を否定した。
「やめておいた方が良いぞ。君の断絶壁?とやらがどれだけの強度を誇るのか知らないが、万が一のことがあっては危険だ。観察するだけなら俺の知り合いに飼育してるやつがいるからそこを案内しよう。」
「それじゃあ案内してくれるか?」
「分かった。」
まさか、リスクを冒さずに海の魔物を見られるとは思わず、心の中でラッキーだなと嬉しく思った。プサーリの後をついて行き少し歩くと池とその隣に一軒の家が見えてきた。ここが知り合いの家だと分かり、池の中を覗いた。そこには秋刀魚のような魚やあまり大きくない二十センチほどの魚がたくさんいた。食用に飼育しているのだろうなと思った。
「ルーツォス、プサーリだ。知り合いの冒険者が海の魔物に興味があるらしく見せてやってくれないか?」
中から黒色が目立つ魚人が出てきた。それと同時に家の中から魚特有の匂いがしてきた。プサーリがどれだけ匂いに気遣っているのか再認識できた瞬間でもあった。それほど匂いは凄まじくうっと声が出てしまうほどだ。
「珍しいな冒険者が奴らに興味があるなんて。食うためか?」
ルーツォスがそう言うとプサーリは苦笑いをしながら言った。
「そうじゃないよ。まだここに来て日が浅いから海の魔物の凶暴さを知らないんだ。だから君のところで飼ってる魔物を見せてもらえたらなって。」
「そう言うことか。それならそこの池にいる奴適当に一匹攻撃してみな。ちなみに集団で襲ってくる可能性もあるから気をつけろよ。」
「だそうだ。」
「わ、分かった。」
だそうだ、じゃないがとツッコミたかったが、グッと堪えて普通に返事した。リベルが早速魔物に攻撃しようと剣を抜いたのを見て俺はすぐに止めた。
「ちょ、ちょっと待って!流石に断絶壁出現させてからじゃないとヤバいって!」
「あっそっか。」
普段は頼りになるのに時々何も考えず行動しそうになるのはどうにもならないのかと少し落ち込んだ。まだ心が少年なのか後先考えず行動してしまってる感がある。俺は自分たちとプサーリとルーツォスを断絶壁で守った。
「剣じゃなくて雷魔法で攻撃して。ちょっと刺激与える程度の威力でね。」
「はーい。」
リベルは子供のように返事をして人差し指の先から小さな雷魔法を撃った。リベルの雷魔法が池に当たった瞬間、池の中にいた魔物たちがビチビチと跳ねた。そして跳ねた数十が俺たち向かって飛んできた。幸い断絶壁でこちらまでは来れなかったが、鋭い歯で俺たちに噛みつこうとしていた。ルリはその獰猛さと鋭い歯に驚いていた。これでもう海の魔物を討伐しに行こうなんて言わなくなると思った。
「なんでこんな凶暴な魔物を飼育してるんですか?」
リベルがルーツォスに聞いた。すると、ルーツォスはニヤリと笑いながら言った。
「うめーからに決まってるだろ。」
その言葉に俺たちは唖然とした。美味しいからという理由だけで家のすぐ近くに家を作り、そこで魔物を飼育するなんて考えられないからだ。安全な動物を家畜にするのは十分に理解できるが、危険なのに飼育するのはリスクが大きいと思った。でも、ルーツォスはそんなこと全く気にしていないようだった。俺は危険ではないのか聞いてみた。
「危なくないんですか?魔物ですし怪我したりとか。」
「大丈夫だ。網で何匹か掬ってさっさと逃げれば他の奴らは襲ってこないから掬った奴を気絶させれば終わりだ。」
さも普通みたいに言っているが、かなりリスクのあることには違いない。でも、魚人たちにはこのぐらいなんともないのだろう。プサーリもなんの反応も示していないことから、これぐらいが魚人の常識なのだろう。人間と魔族で常識の違いは多々感じているが、魔族の中でも常識の違いは異なるのだろう。現に鬼人であるユディは怪訝な顔をしている。こういう違いは知れて面白いが、その異なる常識の被害に遭わなければの話だ。
次回もお楽しみに




