181話 黒い噂
ジャドゥー帝国に来てから数ヶ月が経った頃、俺たちは冒険者ギルドで一つの噂を耳にした。それは魔神教団の噂だった。俺とリベルは魔神教団の噂に食いついた。でも、ジュナたちは魔神教団のことは知らないから俺たちに説明を求めた。
「魔神教団って何?」
ジュナが言った。ジュナも仲間になって約一年半も経っており敬語はなくなりすっかり打ち解けていた。そんなジュナの問いにリベルが答えた。
「魔神教団って言うのは名前の通り、魔神を崇拝?信仰?している教団でどんなことをやっているのかあまり分かってないけど、悪い集団なのは間違いない奴らだよ。」
その言葉にルナが疑問を投げかけた。
「そんな奴らの目的は一体何なのでしょうか?」
リベルは言われてみれば何が目的なのか分からないから顎に手を置いて考え始めた。俺は女神の手伝いで断片的というか、少しは分かっているが、それを言ってしまったらなぜ知ってるのか問い詰められそうで言わないようにした。リベルが何か一つの答えを出したのか言った。
「多分だけど、魔神って名前を名乗ってるぐらいだから魔神をこの世界に降臨させるとかそんなことを考えてるんじゃないかな?」
リベルが導き出した答えはほとんど正解と言っても良いだろう。おそらく魔神教団は魔神を復活させて、人間に対する恨みを発散させるつもりなのだろう。
「魔神ですか…」
ルナは難しい顔をした。悪魔のルナが魔神という存在がどれほど凶悪なのか知っているように表情を曇らせた。俺は何か情報を得られるのではないかと思いルナに聞いた。
「何か知ってることがあったりするのか?どうも反応を見るに、話ぐらいは聞いたことがありそうだと思ったんだが。」
俺がそう言うとルナは少し息を整えて話し始めた。
「我ら悪魔はどちらかと言うと魔神側の勢力ですので、ある程度のことは知っています。知っているからこそ厄介なのです。まず、魔神という存在がどれほど強いかと申しますと、人間と魔族が総力を上げて戦いようやく勝てるほどです。それに加わって我ら悪魔や魔人も敵対する可能性は十分にあります。ですので、総力戦は必至です。魔神は名前の通り神です。不可能なことはほとんどありません。それに神ですから計り知れない強大な力を有しています。魔神教団を壊滅させることが先決と言えるでしょう。」
俺たちは魔神の恐ろしさと魔神教団がやっていることがどれほど取り返しのつかないことなのか十分に理解できた。でも、ユディは疑問に思ったことがあったのかルナに問うた。
「なぜ悪魔が魔神に協力するんだ?何かメリットはあるのか?」
ユディの問いにルナが答えた。
「メリットデメリットの話ではなく、魔神に協力しろと命令されるのだ。悪魔の中でも闘争を好まない者は多くいる。そのような者を魔神は、見せしめとして殺害し協力することを強要した過去があるんだ。おそらく今回もそうなると思う。」
ルナは俺以外に話す時は露骨に口調を変えるから少し変に感じるが、それ以上に思うことがありルナに聞いた。
「強要された過去があるって言ってたけど、その時の魔神は誰が殺したんだ?」
俺は何も知らないふうに装い聞いた。実際、誰が魔神を殺したのかまでは知らないため、聞きたかったのは事実だ。
「特定の人ではなく人間が総力を上げた結果何とか勝てたという感じです。ちなみに、悪魔は戦うことを強要された者は戦場に赴くは赴きますが、一切人を傷つけることなく帰ってきます。闘争を好む者は魔神の指示に従いますが、全員が全員そうではないのです。それに、人間と悪魔は互いに不干渉ですから殺す理由がないのです。」
俺はその言葉にホッとした。悪魔が魔神の力によって強制的に指示に従わされているのであれば話は変わってきたが、そのようなことはないのだと分かりルナが魔神の支配下に置かれることはないのだと安心した。そんな時珍しくルリが言った。
「魔神って神様なんでしょ?強制的に従わせることとかできそうだけど大丈夫なの?」
俺はルリの問いに確かにと思った。神だからどんなことでもできそうという先入観なのかは定かではないが、ルリの言っていることができそうでルナが心配になった。ルナも魔神ができないという確証はないのか少し心配そうに言った。
「分からない。ただ、前回の魔神はそんなことしなかったと聞いているが、もし魔神教団の手によって復活した魔神が過去より凶悪になっていたら話は変わるかも知れない。」
俺はその言葉に心拍数が一気に上がった。もしかしたら、ルナが魔神の手によって敵になってしまう可能性も十分にあるのだ。もし、そうなった場合のことなんて考えたくない。そんな考えを巡らせているとルナが俺の手を握り言った。
「我はリフォン様一筋です。どんなことがあってもリフォン様だけは守り通してみせます。」
ルナの真剣な眼差しに俺は少し安心した。でも、不安要素がなくなったわけではない。俺は何としてでも魔神教団を壊滅させると自分に言い聞かせた。
それからの俺たちは行動が早かった。ジャドゥー帝国中に散らばり手分けして情報を集めた。冒険者から空き地で遊んでいる子どもまでどんな人にも話を聞いた。でも、魔神教団の話は全然出てこなかった。そもそも魔神教団がジャドゥー帝国にいないのが噂になっていない要因の一つだろう。そして、俺たちは一つの結論に至った。魔神教団がいる国を見つけるまで旅をすれば良いのだと。でも、それにはリスクがある。隣国に行くまで外界を飛ばなくてはいけないこと、魔神教団のことを嗅ぎ回っていることを悟られないことなど様々だ。でも、俺たちがやらなくちゃ家族が、今まで出会ってきた人たちが犠牲になるかも知れないと思うと、俺たちはリスクを冒してまで旅をすることを決めた。
そうと決まれば次の行動は簡単だ。もっとこの世界について調べれば良いのだ。俺たちはジャドゥー帝国で最も大きい図書館に赴き様々な本を読み漁った。学園長から貰った世界地図と一緒にここはなんて国だろうと話し合った。学園長の地図の文字がきちんと読み取れたらこんな苦労はなかったのにと少し学園長を恨んだ。その結果、ジャドゥー帝国から一番近い国はヴォディカ国という国だと分かった。そして、国さえ分かれば後はその国について書かれている本を読むだけだと意気込んだのは良いものの、あまりにも他国についての本が少なかった。と言うか、この世界は自国のことばかりで他国については毛先ほどの情報しか知らないことが分かった。魔物が多いから他国との交流もないだろうし、国のトップが自国民を統制するには情報を規制するのが一番手っ取り早いのだろう。そんなことを思っていた。
俺たちは次の目標が決まり後は必要な物を用意するだけとなった。ヴォディカ国までどのくらい距離があるのかなど正確ではないため、必要以上に食材を持って行くことにした。ともかくヴォディカ国に向かう準備は整ったため、俺たちは連日の疲れを癒してから出発することにした。
次回もお楽しみに




