180話 悩み
俺がリベルたちの元に戻るとチャヤの言っていた通りみんな案外寂しがっておらず何とも言えない気持ちになった。それから、俺たちは冒険者らしい生活を始めた。魔物を討伐しては、ギルドでみんなとワイワイ楽しんだりした。そんな日々を送ってはや一ヶ月が経った。俺たちは毎日を愉快に過ごし学園に通っていた頃より楽しくしていた。学園では学生という身分であるため常にやらなくてはいけない課題や授業などに追われてこれほどのびのびとはできていなかった。だからか、リベルの笑顔は何のしがらみもなく何の悩みもない。そんな笑顔をしていた。きっと、学園はリベルに合わなかったのだろう。今こうして楽しそうにしているのが何よりの証拠だろう。
宿に戻り酒を煽っていたリベルはすぐに寝息を立てた。布団もまともに被らずに眠るリベルに俺は起こさないようにそっと布団をかけた。みんなが落ち着いて各々好きなことをしている時、ユディが言った。
「俺たちって何でジャドゥー帝国に来たんだっけ?」
「そりゃリベルが世界を旅するって言ったからだよ。」
俺がそう言うとユディは言った。
「それはリベルの父と母に建前を言っただけだろう?リベルの真意を俺たちは知らない。もちろん魔法…と言うか、強くなるのを一番に考えているだろうが、明確にどのぐらい強くなりたいとかが分からないからどこまでも突き進んでしまいそうで怖いんだ。いつか、俺たちが制止しても止まらなくなるんじゃないかって。」
俺はユディの言葉も一理あると思った。リベルは自分の目的のためなら死をも厭わないそんな性格だ。そして、俺たちはそんなリベルについて行っているだけ。本当に危険な場面に出会した時、リベルを止められないと俺たちまで危険な目に遭う。ユディが言いたいのはこうじゃないかと解釈した。
「今度二人で話してみるよ。」
その日はそれで会話は終わりみんなで川の字になって眠った。次の日の午後、酒が抜けたリベルを二人で買い物に行こうと街に誘った。すると、リベルは久しぶりに俺と買い物できるのが嬉しいのか満面の笑みで行こう行こうとはしゃいでいた。
「何買うの?」
「特に決めてない。」
宿から街に出てすぐリベルが聞いてきた。俺は特に決めていなかったからありのまま答えた。すると、リベルは楽しそうな笑みを浮かべながら言った。
「じゃあ見つかるまでいろんな所まわろ!」
「うん!」
俺たちは理想の休日を過ごした。リベルは俺の買い物に全力で付き合ってくれて、日用品から食品など様々な物を見てくれた。夕暮れが近づきお腹が空いた俺たちは、あまり人が多くない店に入り好きな物を注文した。夕食を食べているとリベルが言った。
「急にどうしたの?」
リベルが急に神妙な面持ちで聞いてくるものだから、俺はどう言えば良いか少し考えた。自分の中で答えを出してリベルに聞いた。
「昨日リベルが寝た後にユディがこう言ったんだ。リベルの本音が知りたいって。グロウたちの元を離れる時にリベルは世界を旅してくるって言ってたけど、それは建前で本音は聞けてないって、不満というか何かモヤモヤしてる感じだったんだ。それで、俺もリベルの本音が知りたいなって思って、二人きりなら話してくれるかなって思って今日誘ったんだ。」
俺は包み隠さず言った。するとリベルは予想外にケロッとした、何も深く考えていないような感じで言った。
「そんなの簡単だよ。僕は世界一強い魔法使いになりたいから、今こうやって世界を旅してるんだ。」
俺はその回答が腑に落ちなかった。いつもはもうちょっと賢そうなリベルが小学生のような言葉を口にしたのだから仕方がないだろう。でも、そんな失礼な言葉を言うわけにもいかず、グッとその言葉を飲み込み言った。
「えっと、じゃあ世界一になるまでこの旅は終わらないってこと?」
「そう言うことになるね。」
リベルは平然としており俺は開いた口が塞がらなかった。きっとリベルなら自分が何歳になろうと世界一強い魔法使いになるのを諦めないだろうから、俺は一生涯続くかもしれないこの旅に恐怖すら覚えた。その後はリベルの夢や未来像を聞きながら夕食を食べた。宿に戻りリベルはみんなにも俺とした会話の内容を伝えた。みんなリベルの本音に頭を抱えていた。それもそのはずだ。誰しも終わりがあると思っていたのに、その終わりが遥か遠くにあり残りの人生全てを費やしても届かないかも知れないのだから。そんな俺たちとは違いルナは平然としていた。なぜそんなに平然としていられるのか疑問に思い聞いた。
「ルナは随分とあっさりしてるけど、何でそんな反応で済んでるんだ?」
するとルナは微笑みながら言った。
「我はリフォン様含め、皆を看取れるほどの寿命がありますので。むしろ、退屈だった日々に彩りを添えてくれることを約束してくれたようで嬉しいのです。」
ルナは悪魔だから人間や魔族とは寿命の長さが違うのだろう。そして、ルナの言い方から察するに現在の年齢も俺たちとは比べ物にならない程だろう。そんなにも長い時を生きる種族はそれはそれで不便だなと感じた瞬間でもあった。でも、ルナの言葉を聞いたリベルは嬉しそうに言った。
「任せて。ルナが見たこともないような所まで連れて行ってあげる!」
「よろしくお願いしますね。」
ルナは嬉しそうにニコッと笑い言った。でも、ユディは納得していないようでリベルに言った。
「ちょっと待ってくれ。そんな抽象的な目標だと今後どう行動するかに困るだろう。だから、今のうちにきちんと本筋を立てておこう。例えば、世界中を旅するって言うことなら次に行く国を決めておくとか、ある程度先を見通して行動しよう。その方がやることが決まってて良いだろ?」
ユディの言い分にリベルも納得したのか深く考え込んだ。そして、結論が出なかったのか俺たちにこう言い残し眠りについた。
「明日みんなで話し合おう。眠いから今日は寝る!おやすみ。」
自分勝手なリベルに俺たちは当分振り回されることが決定付けられたように感じたが、今までとさほど変わっていないなと思い受け入れることにした。
次回もお楽しみに




