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転生するなら貴族の飼い猫でしょ 〜飼い猫兼相棒として異世界を旅します〜  作者: 描空
世界放浪編

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179話 再会

マーラが斬首刑になった翌日、俺は自室でカミーヤにどう話を切り出そうか考えていた。きっと俺がカミーヤの元を離れることを知れば全力で止めてくるだろう。だからと言って、何も言わずにここを去ればグラヴたちに迷惑をかけることになる。そんな考えを巡らせていると誰かが部屋のドアをノックした。


「どうぞ。」


俺は何事もなかったように答えた。ドアをノックしたのはカミーヤだった。でも、その顔はどこか寂しそうだった。


「どうしたんですか?」


俺が何事もないように答えた。するとカミーヤは優しく俺に抱きついて言った。


「どこにも行かないで…」


カミーヤは俺の目的であったマーラの一件が終わったからここを去ると考えたのだろう。理由は異なるが、ここを去ることには違いない。でも、どう言い出せば良いのか見当もつかない。俺が黙っているとカミーヤの鼻を啜る音が聞こえてきた。俺はどうしたのかカミーヤの顔を見ると涙を流しているのが分かった。俺は何か言わなくちゃいけないのは分かっているが、その言葉次第では永遠の別れとも、一時の別れともなる重要な言葉だ。俺はカミーヤを少し離して言った。


「カミーヤ様、もう少しお時間をくださいませんか?私も気持ちの整理ができていないので、カミーヤ様はその間にお花の手入れをしてきてください。」


「分かったわ…私はイナームのこと、大好きだからね…」


涙声で言うカミーヤに俺は心臓が締め付けられた。カミーヤが部屋を後にすると俺は大きなため息をついた。どう言うのが正解なのか、どう言えば傷つけないのか分からない。でも、言わなくちゃいけないことは確かだ。俺は限られた時間の中で幾千もの案を出しては除外してを繰り返した。結局のところ、これだとピンとくる案は思いつかなかった。でも、カミーヤを最低限傷つけない案は何個か思いついた。一つは、俺がリフォンという存在を明かして、カミーヤと二人だけの秘密にしておくこと。もう一つは、グラヴの言葉を借りて、カミーヤを守るには自分が弱過ぎるから旅に出て強くなって帰ってくること。最後は、互いに贈り物を贈り合い、それを形見としどんな時も肌身離さず身につけておくことだ。恋愛経験ゼロ且つ人生経験も浅い俺に思いつくのはこれが精一杯だった。


その日の午後、カミーヤと昼食を食べ終えカミーヤが俺の言葉を待っていた。俺は言い出さなくてはいけないのにカミーヤを悲しませるのが怖くて言い出せずにいた。ただ世間話をして、青空を眺めて、木々の擦れる音と風の音を聞きながらのんびりする。こんな幸せな日常を崩してしまうのが怖かった。カミーヤが俺を好いてくれているのは十分に理解しているからこそ、言い出せなかった。こんなことになるのなら素っ気なくしておくんだったと後悔した。


その日の夜、カミーヤは俺のベッドに潜り込んできて言った。


「イナーム、言って。私のことを心配して言ってくれてないのは分かってる。でも、私そんなにやわじゃないよ。イナームと離れ離れになるのは悲しいけど、それがイナームの幸せなら笑顔で送り出せる。ずっとメソメソしてばかりじゃないんだよ。だから、言って。」


俺はカミーヤに後押しされてようやく言う決意ができた。俺はカミーヤを抱きしめて言った。


「私はここを去ります。本当ならずっとここにいていたいぐらいですが、それはできない相談なのです。」


俺は午前に考えた案を全て言うことにした。


「私はイナームと名乗ってきましたが、本当は別人なのです。」


「どういうこと!?」


カミーヤは驚きのあまり俺の腕の中から抜け出しベッドから上体を起こした。カミーヤの目線に合うように俺も上体を起こし続けた。


「私の本当の名前はリフォンと言います。ジャドゥー帝国の隣国であるエクサフォン国から来た冒険者なのです。そして私には旅を共にする仲間がいます。ですので、ここを去らなければいけないのです。」


カミーヤは驚きの連続で口が閉じない様子だった。


「私はイナームとしてカミーヤ様の奴隷になれて本当に幸せでした。結婚しても良いと思うほど幸せでした。ですが、私にはカミーヤ様をお守りするだけの力がありません。ですので、仲間と世界中を旅して強くなって戻ってきます。もし、その時までイナームもといリフォンのことを好いてくれていたのなら、カミーヤ様を一生涯かけてお守りすることを誓います。」


俺の言葉にカミーヤは涙を流していた。


「イナームは仮初の姿ですので、リフォンとなってみせます。驚かれると思いますが、どうか受け入れてください。」


俺はリフォンの姿に戻った。久しぶりの男の体に違和感があったが、そのまま続けた。


「俺の本当の姿はこの姿です。こんな俺でも良いのならその証としてカミーヤ様がしているイヤリングを頂いてもよろしいですか?私からはこの指輪を授けます。」


カミーヤはコクコクと頷いてイヤリングを渡してくれた。俺はカミーヤの左薬指に指輪を嵌めた。奇跡的に指輪の号数がピッタリと合った。これも何かの運命なのだろう。


「以上が俺が話せる全てです。もしリフォンの姿がお気に召さないのであれば、イナームの姿に戻りましょうか?」


カミーヤは首を横に振り言った。


「本当のイナームを知れて良かった。改めてよろしくねリフォン。私ずっと待ってるから。」


「いつになるか分かりませんが、必ず帰ってきます。その時を楽しみにしていてください。」


俺はベッドから離れベランダに向かった。カミーヤも俺の後をついてきた。


「これで本当にお別れです。長い間待たせると思いますが、寂しくなった時はその指輪を俺だと思ってください。それでは…」


俺がベランダから風魔法で飛ぼうとするとカミーヤが腕を引っ張り止めた。


「最後に…」


カミーヤがそう言うと、カミーヤは俺にキスをした。カミーヤは俺の腕を離した。俺は名残惜しいが、そのまま風魔法で飛び去った。しばらくの間、カミーヤの唇の感触は俺を高揚させるのに十分な刺激だった。


カミーヤの屋敷からしばらくの間飛んでいるとジャドゥー帝国の中心街が見えてきた。エクサフォン国のように中央に王都があってその周辺に役人の屋敷があるみたいな感じになっていたようだ。もちろん王都に住んでいる役人もいるだろうが、カミーヤたちは違ったようだ。そしてリベルたちが泊まっている宿、カルタ・ビヤニーシュが見えてきた。夜ということもあり、俺はみんなを起こさないようにドアを開けた。


「おかえりなさいリフォン様。」


何とルナは起きていたようで、蝋燭に火を灯しながら本を読んでいた。俺はいつもこうしているのかと思ったが、しょっちゅうルナと一緒に寝ているのを思い出し俺が帰ってくるのが分かっていたかのように待っているルナに驚いた。


「ただいま。」


でも、俺は驚きよりルナと久しぶりに会えたのが嬉しくて抱きついた。ルナは少し驚いていたが、そっと抱き返してくれ俺はその優しさに甘えることにした。

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