177話 真実とその対応
カミーヤに落札されてから三日が経った。リベルたちが今どうしているのか心配だ。というかマーラに落札される計画だったが、カミーヤに落札されてしまったことをリベルたちは知らないのではないかと気づいた。俺はどうにかしてリベルたちに情報を伝える手段はないかと考えた。手紙ではカミーヤたちに親族がいないのに誰に手紙を送るのかと怪しまれてしまう。そんな時声が聞こえてきた。
(僕の出番!?)
俺にはチャヤという頼れる仲間がいることがすっかり抜け落ちていた。チャヤならマーラの知られたくない秘密も探ることができるかも知れない。そんな考えが頭をよぎったが、危険な目には遭わせたくないからやめておくことにした。
(そうだチャヤの出番だ。俺はカミーヤって言う役人に落札されたことと、計画は失敗ではなくまだ続いていること、カミーヤに真実を話して協力してもらえないか交渉中だと伝えてくれ。後、リベルたちは無理にマーラのことを探ろうとしなくて良いとも伝えてくれ。)
(分かった。それじゃあ行ってくるね!)
チャヤは俺の影から離れた。リベルたちのことだから心配事はあまりないが、空回ってしまっては計画が水の泡になってしまいかねない。だから役人であるカミーヤに協力してもらいたいのだ。俺は隠してきた真実を話すことにした。
「カミーヤ様、お時間よろしいでしょうか?」
「ええもちろん。メイドにお茶を持って来させるわ。」
少ししてメイドが紅茶を持ってきた。カミーヤはその紅茶を一口飲み言った。
「どうしたのそんなに改まって。」
「実はカミーヤ様に隠していたことがあります…」
俺がそう言うとカミーヤは優しく言った。
「続けて。」
「私が奴隷になった理由はマーラという役人の悪行を世間に告発するためだったのです。マーラが奴隷に鞭を使い必要以上に痛めつける現場を見たのです。そのような悪人を野放しにしておきたくないと思い、自分がマーラの奴隷となり内部告発をしようと企んでいたのです。」
俺がそう言うとカミーヤは驚きと困惑など様々な感情が入り混じった複雑な表情を見せた。俺は続けた。
「カミーヤ様に落札されて後悔はしていません。ですが、マーラに暴行を加えられている奴隷がいると思うとやるせない気持ちで胸が張り裂けそうなのです。カミーヤ様、どうかご助力していただけませんか?」
俺は真剣な眼差しでカミーヤを見つめた。それに気づいたカミーヤは覚悟を決めた表情で俺を見た。
「分かったわ。お父様にも話してくるから少し待っていて。」
カミーヤは紅茶を飲み干しグラヴの元へ向かった。俺はその間祈ることしかできなかった。グラヴが保守的な性格ならば協力は得られない。協力的でもグラヴたちにメリットがないと言われてしまってはどうしようもできない。そんな考えを巡らせていると部屋の外からドタドタと小走りでこちらに向かってくる足音が聞こえた。
「イナームその話は本当なのか!?」
グラヴが今まで見たことのない表情でやってきた。怒りと困惑、悲しみが混ざって訳の分からない表情だった。一瞬笑いそうになったのを必死で抑えて答えた。
「本当です。嘘偽りはございません。」
「きちんと話してくれ。」
俺はマーラが獣人の奴隷に暴行を加えていた場面を包み隠さず話した。
「そんな役人がいたとは…」
グラヴの拳は力強く握られ小刻みに震えていた。この調子なら協力してくれると確信した俺は最後の一押しにかかった。
「この問題を解決できるのはグラヴ様しかいません!」
俺の言葉にグラヴは覚悟が決まったのかどこかに走った。そして、グラヴと入れ替わりでカミーヤが帰ってきた。
「お父様ってば急に走り出してどうしたのかと思ったら、またどこかに走り出して一体どうしたのかしら?」
「きっとマーラを告発するために何かしてくださっているのだと思います。私に事実確認をしたらグラヴ様は、真剣な表情になられたのできっと行動に移されたのです。」
「あんなお父様初めて見たわ。」
俺は協力してくれるんだと分かり心の中でガッツポーズをした。まさかこんなに事がうまく進むとは思っておらず少し予想外だった。でも、これならマーラを役人の地位から引き摺り落とすことが可能だ。少し待っているとグラヴが部屋に戻ってきた。
「今、裁判所と役人議会にマーラの身辺調査を依頼してきた。内容が内容だからすぐに動いてくれるだろう。」
俺はその言葉に驚きを隠せなかった。役人だからというのもあるのかも知れないが、裁判所と役人議会といういかにもお偉いさんが集まっていそうなところが、すぐに動くというのに奴隷の保護、及びその周辺の法律が厳重なのが分かった。でも、俺は心配な事が一つあった。
「グラヴ様、私が見たという証拠だけで動いていただけるのでしょうか?」
俺の言葉にグラヴは疑問を持っているように言った。
「イナームが見たと言ってるのだからそれが証拠になる。それに、もし、奴隷に光魔法を施し鞭の痕を完璧に消せたとしても、奴隷の内一人でも鞭で叩かれたことがあると証言したらそれが決定的な証拠となる。それに、裁判所は特別なアーティファクトを有していて、使用者が今まで行った悪行を全て映し出すジュータ・ダルパンという鏡があるんだ。それを使用する前に罪を認めれば軽い刑で済む場合もあるが、罪を認めずに使用し悪行が事実と分かれば、即刻極刑となる。」
俺は驚愕した。そんなアーティファクトがあるのにも驚いたが、嘘をついていた場合即刻極刑になるというのに腰を抜かしそうになった。罪を認め悔い改めることができない者に生きる意味などないと言っているのと同義だ。でも、少しだけその考え方には賛同できる。罪を隠し通そうとするやつは制裁を受けないとまた同じことをするだろう。きっと、過去にそのような事例があったからこそ即刻極刑を取り入れたのだろう。
「とりあえず、そういうことだからマーラの奴隷の心配はいらない。言ってくれてありがとう。」
グラヴは俺の肩に手をポンと置き部屋を去った。俺はひとまずなんとかなったと安堵した。カミーヤは俺の心労を労るように隣にそっと座り寄り添ってくれた。
次回もお楽しみに




