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転生するなら貴族の飼い猫でしょ 〜飼い猫兼相棒として異世界を旅します〜  作者: 描空
世界放浪編

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172話 奇策

俺とルナはリベルたちとは別行動を取っていた。なぜかと言うと奴隷の現状をもっとよく知るためだ。マーラのことを教えてくれた男の人はどこかに行ってしまい、奴隷のことについてはあまり聞けなかった。だからもう一度冒険者ギルドに戻り情報収集をすることにした。話しかけれそうな人全員に聞いて回ったが、冒険者だからか奴隷について詳しい人は少なかった。でもその中に奴隷を荷物持ちとして雇ったことのある冒険者がいた。その人からできるだけ多くの情報を聞き出そうと躍起になった。


「奴隷はどこで雇ったんですか?」


「えーとな…確か街の掲示板に仕事募集の用紙が貼り付けられてて、それで雇ったんだ。そいつはどこの組合にも所属してない放浪奴隷でここで仕事を探してたんだ。ちょうど魔物討伐に持って行く荷物が多くて人員が欲しい時だったから雇ったんだ。でも、ちゃんとした奴隷が良いなら組合に所属してる奴隷を雇うことだな。」


放浪奴隷という気になる単語が出てきたが、それ以上に組合について聞けそうだからそっちを聞くことにした。


「組合というのはどんな感じなんですか?」


「組合は奴隷を管理してる組織で、仕事の斡旋だったり売買を執り行ってる。俺たちは冒険者がギルドに所属するみたいに奴隷も組合に所属してるんだ。ちなみに、組合は大通りの一つ目の交差点を左に曲がったその先にあるから。」


「ありがとうございます。最後にもう一つだけ聞いても良いですか?」


俺はその人の優しさに甘えて放浪奴隷についても聞くことにした。


「おう、もちろんだ。」


「それじゃあ放浪奴隷って具体的にどんな奴隷を言うんですか?」


「放浪奴隷ってのは組合に所属してない奴隷で、自分で仕事を探さなくちゃいけない奴隷だ。今帝国にいる奴隷の約四割が放浪奴隷だって言われてる。放浪奴隷は問題を起こした奴隷だったり、きちんと仕事をしない奴隷で、組合から除籍された奴隷たちだ。でも、自ら放浪奴隷を選ぶやつもいる。組合に所属してると手数料とかで結構引かれるらしいから、それを嫌って放浪奴隷をやってるらしい。リスクリターンをきちんと見分けられるやつだったら組合はいらないってことだ。」


思いの外重要な情報を得られて俺は歓喜した。でも、一つ疑問が浮かび上がってきた。


「組合に所属するメリットって何ですか?やっぱり仕事を自分で探す手間が省けることですか?」


「それもそうだが、一番は奴隷オークションだ。どこぞの役人に買われれば一生安泰だからな。」


俺はその言葉を聞いてマーラのことが思い浮かんだ。あいつは奴隷に鞭を打ったり罵声を浴びせていた。それは奴隷オークションで買った奴隷なのだろう。でも、奴隷は法律できちんと保護されているはずなのになぜそんなことができるのか。それはあいつが役人だからだと確信した。役人に買われれば一生安泰なんて嘘だ。酷い目に遭わされた奴隷をこの目で見たのだから。俺はこの事実を告発するために何が必要か考えた。


「もう聞きたいことはないか?」


「あ、すいません。もう大丈夫です。ありがとうございました。」


自分の考えに没頭しておりこの人のことを完全に忘れていた。俺とルナは情報をまとめるために宿に戻った。


「まず、マーラを役人の地位から引き摺り下ろすにはどうしたら良いか、俺は奴隷を酷い目に遭わせていることを告発すれば良いと思うんだが、ルナはどうだ?」


「我も同意です。ですが、やつはかなり権力を持っている様子、また消される可能性は十分ございます。ですので、第二第三の策が必要かと。」


「やっぱりそうだよな…」


俺は考えた。奴隷を痛ぶっているという事実をカメラのように写真に残せれば確実なのだが、生憎この世界にそのような物はない。文書だけでは裏が取れない。かと言って実際に暴行を受けた奴隷に証人になってもらおうとしても、マーラの報復を恐れ本当のことを言ってくれないかも知れない。俺は悩んだ。どうすればあいつを一泡吹かせることができるのかと。そんな時ルナが言った。


「他の役人に直接マーラが暴行している場面を見せるのはどうでしょう?」


確実に俺たちの証人になってくれるであろう人物を今から用意するのは骨が折れる。それに、一度俺たちに現場を見られたマーラが再び外で奴隷に暴行を加えるとは考えづらい。


「流石に厳しいな。と言ってもそれぐらい確実な証拠が欲しい。確実に俺たちの証人になってくれて、確固たる証拠を提示できる人物…そんな都合の良いことないよな…」


俺がそう呟くとルナが立ち上がり言った。


「我が奴隷になりましょう。そして、マーラに自分を売り込み買ってもらう。我が鞭で打たれればそれが証拠になる。どうです?良い考えでしょう?」


俺は眉を顰めた。確実に証人になってくれて、確固たる証拠ではあるが、流石にそれだけのために奴隷になって鞭に打たれるルナを放っておくのは忍びない。それなら俺が奴隷になれば良いのだと気がついた。


「俺が奴隷になるよ。」


俺がそう言うとルナはすぐに否定してきた。


「リフォン様が奴隷になるぐらいなら我がなります!リフォン様のお美しい姿に傷を残すわけにはいきません!」


ルナの俺を思ってくれる心は本物だ。でも、ルナが奴隷になるより俺が奴隷になる方が都合が良いことを説明した。


「俺は猫被りでどんな人にもなれる。マーラが好きそうな女性になることだって、力持ちそうな大男になることだって。それに奴隷になったら左太ももに刻印されると思う。ルナは姿を変えられないけど、俺は姿を変えられる。その刻印だって屁でもない。それに、ルナが酷い目に遭っているのを傍観してられるほど俺は薄情じゃない。」


俺が説明するとルナは悔しそうにしながらも、何とか説得されてくれた。そうして俺がマーラの奴隷になる何とも奇妙な作戦が立案されたのだ。


まずは、マーラの情報収集だ。どんな奴隷を求めているのか、どんな奴隷が好きなのか聞き回った。どうやらマーラは綺麗な女性の奴隷しか購入しておらず、街で見かける時はいつも複数の女性を侍らせているそうだ。俺はその日から綺麗な女性に猫被りするために練習した。マイヤーの姿を思い浮かべたり、街行く綺麗な女性の姿を思い出したりした。


その結果、俺の猫被りの精度は誰もが認めるほどのものになった。でも、流石に女性の姿は抵抗があるためその姿で街に出るということはしなかった。何となく申し訳ないと感じたのだ。そんな感じで、作戦は順調に進んでいった。リベルたちにも手伝ってもらい来月の頭に奴隷オークションが行われるということを知った。それまでに奴隷になるために俺は女性の立ち振る舞いや言葉遣いなどをリベルに叩き込んでもらった。さらに、ルリからオシャレやメイクについても教わった。ジャドゥー帝国に来てからというもののルリはオシャレに目覚めており、毎日可愛い服を着飾りメイクをしていた。魔物討伐にはまだ行っていないが、その時には邪魔になるだろうから控えるように言っておいた。


俺がマーラの奴隷になる作戦の残りは奴隷になるだけとなった。いざ奴隷になると決めるのは覚悟がいることだった。自分ではないけど、自分であるため抵抗があった。いつでも元の姿に戻り逃げ出せるとは言え恐怖心はあった。そんな俺を気遣ってみんな優しくしてくれた。そして俺は覚悟を決めて奴隷になることにした。

次回もお楽しみに


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