171話 奴隷
ジャドゥー帝国に来て二日目、俺はどうにかして奴隷たちを解放できないかと考えた。でも、解放したところで路頭に迷う奴隷たちの就職先を与えられるわけでも、希望を与えられるわけでもない。俺は自分の無力さに絶望した。だからと言って心を入れ替えて冒険者ギルドに依頼を受けに行くこともできないし、奴隷を見捨てれるほど薄情でもない。俺はそんな感情に板挟みにされていた。そんな時ルナが言った。
「リフォン様、一度ここで言う奴隷というものがどのような意味を持っているのかしっかりと確認してみてはどうでしょうか?可能性は低いですが、奴隷という存在が職業として受け入れられているかも知れません。昨日の件はイレギュラーで、本来は万屋のように依頼したら何でもやってくれる、いわば市民版の冒険者のような立ち位置の可能性もございます。」
俺はルナの言葉に耳を疑った。そのような夢物語が実際にあれば素晴らしいが、その可能性はごく僅かだろう。でも可能性はゼロではない。俺は一縷の望みにかけることにした。俺はそこで一つ問題があることに気がついた。それはどうやって奴隷の現状を知るかだ。奴隷を扱う組合などがあればそこに掛け合えば良いのだが、ジャドゥー帝国に来て二日目の俺たちにそんな情報あるわけもなく、どうすればいいのか困った。情報収集のために冒険者ギルドに向かうことにした。
俺とルナはギルドに入り話を聞いてくれそうな人を探した。みんな楽しそうに話しているから近づきづらく少しの間誰に話しかけようか歩き回った。そんな時ギルドの端のテーブル席に一人で腰掛けて酒を飲んでいる男を見つけた。あの人なら大丈夫だと直感した俺はその人に話しかけた。
「あ、あのー俺ここに来て二日目で右も左も分からない新参者なんですけど質問しても良いですか?」
「はぁ…まぁ座れ。」
たどたどしい問いかけにその人は面倒臭そうにため息をついたが相席を許してくれた。俺たちは言われるがまま座り、奴隷について質問することにした。
「あの、奴隷について聞きたいんですけど、昨日太った男が奴隷の女の子を鞭で叩いてたんですけど、それってどうなのかなって…」
俺がそう言うとその人は信じられないものを見たように目を大きく見開き立ち上がった。俺はその人のリアクションに驚いた。酒を飲んで酔っ払っているからこれほどのリアクションをとっているのかと思った。でも、表情からそんな感じはしないため声をかけた。
「ど、どうしたんですか?」
俺が聞くとその人は答えた。
「ここで奴隷にそんなことしたら処罰の対象になる。そもそも奴隷というのは名前だけで普通の人と何ら変わらないんだ。だから、そんなことしたら法律で裁かれるんだ。その太った男っていうのはどんなやつだ?」
急に食いついてきたことに驚いたが、それ以上に奴隷がきちんと保護されているようで安心した。でもそれと同時に奴隷にそんなことをするやつを成敗できるチャンスだと思い、その太った男の容姿を思い出して全てを伝えた。
「えっと、その太った男は百キロぐらいの巨漢で、髪の毛は金色で短く、左右の耳にピアスが二個づつぐらいあって、高級感のある服を着てました。」
俺が太った男の容姿を伝えるとその人は黙ってしまった。そして残っていた酒を一気に飲み干した。急にどうしたのかと思っていたらその男が立ち上がりどこかに歩いて行った。俺たちは何がどういうことなのか全然理解できず、その人の手を握って聞いた。
「急にどうしたんですか?何か変なこと言ったのなら謝りますから教えてください。」
するとその人は俺たちの方を向いて小声で言った。
「ここで下手に喋って周りのやつらに聞かれたら洒落にならない。教えてやるからついてこい。」
そう言われ俺たちは黙ってついて行くことにした。しばらく歩き誰も通らないような人通りのないところに着くとその人が話し始めた。
「お前が見たそいつはここらで権力を振り翳して好き勝手やってる役人のマーラ・ガディって男だ。悪いことは言わないから首を突っ込むな。今日のことは誰にも言わないからお前も言うなよ。」
そう言うとその男は顔をスカーフのような布で覆い隠しどこかに去った。やつの情報を知れたことは良いが、まさか権力者だとは思わなかった。あの人の言い分から察するにマーラはかなりの権力を持っており、その権力で奴隷に酷いことをしているのだと断定した。もしかすると奴隷以外にも権力で好き勝手やってるのではないかと思うと虫唾が走った。でも、ここはエクサフォン国ではなくジャドゥー帝国なため権力が強いマーラに敵う術はほとんどないと言っても過言ではない。まずは俺たちがジャドゥー帝国になれる必要がある。その上でマーラがやっていることをどんな手を使ってでも成敗すれば良いだけの話だ。俺は権力を持ち有頂天になっているマーラを地に撃ち落とすために心を鬼にした。
次回もお楽しみに




