170話 内情
ジャドゥー帝国の中に入った俺たちはまず冒険者ギルドに向かうことにした。道中、魔族と人間が仲良く生活しており感動した。エクサフォン国は異世界らしいと言えばらしいのだが、中世の西洋諸国のような雰囲気を感じる所であったため異世界らしさが薄れていた。でもジャドゥー帝国はまさに異世界という感じで胸の高鳴りを抑えられずにいた。所々で魔族の子どもが人間の子どもと遊んでおり本当に仲良く暮らしているのだと実感した。大通りを歩いていると大きな建物が目についた。その建物に大きな看板が打ち付けられており冒険者ギルドと書かれていた。俺たちは早速中に入った。中では冒険者たちがどんちゃん騒ぎをしていた。人間と魔族が共に杯を交わし楽しそうにしている。エクサフォン国では見られなかった光景に俺は感激した。リベルもその光景に驚いていた。エクサフォン国内に魔族がいないというのが普通だったから、人間と魔族が楽しそうに交流しているのに驚いているのだ。エクサフォン国が普通なのか異端なのか比較対象がないから分からないが、俺はジャドゥー帝国のように人間も魔族も一緒に暮らしているこちらの方が好きだ。
「お!新顔かい?」
気前の良さそうなお姉さんが笑顔で俺たちに話しかけてきた。その人の笑顔は太陽のように明るくこちらまで笑顔になる程だった。
「はい。ついさっきここに着いたんです。」
リベルが愛想良く答えた。するとお姉さんは立ち上がり大きな声で言った。
「みんなー!新顔だよ!歓迎してやんな!」
お姉さんの声に呼応するように冒険者たちが言った。
「「「ようこそジャドゥー帝国へ!」」」
「歓迎するぜ!」
「新しい戦力は大歓迎だ!」
口々に俺たちのことを持ち上げるようなことを言ってくれており自然と口角が上がった。持て囃されながらカウンターに向かうとそこには恰幅の良いおばちゃんがいた。安心感を覚えるおばちゃんの元に向かった。
「あたしを選ぶなんて見る目あるね兄ちゃんたち。それで何用だい?冒険者登録はしてそうだけど…」
おばちゃんの問いにリベルが答えた。
「今日はここの雰囲気がどんな感じなのか知りたかったので訪れただけです。依頼を受けるのは今度お願いします。」
「そうかい。それなら好印象を与えられたんじゃないかい?ここのやつらはうるさいけど悪いやつらじゃないんだ。きっと一週間もしたらここに慣れるさ。それと宿がまだならカルタ・ビヤニーシュって宿がオススメだよ。この大通りの三つ目の十字路を右に曲がった所にあるから。」
「ありがとうございます。行ってみます。」
俺たちは言われた通りカルタ・ビヤニーシュに向かった。そこは俺たち全員が泊まれる大部屋もありもってこいの宿だった。さらに、価格もかなり抑えられており良心的だった。俺たちは各々やりたいことをやることにした。リベルとジュナは冒険者ギルドに戻り冒険者と話をしたいとのことだったのでそうさせた。ルリは買い物をしたいとのことだったのでお金を渡しユディに付き添いをしてもらった。俺とルナは特にやりたいこともなかったのでジャドゥー帝国内を歩き回ることにした。新天地に来たらまずはそこに慣れるために色んな場所に赴くことが一番だ。
俺とルナは大通りを歩いたり人気の少ない所を歩いたりした。所々に空き地のような所がありそこでは子どもたちが遊んでいた。しばらく歩いているとどこかから女の子の悲鳴が聞こえてきた。俺たちはその声の方に走った。
「さっさと歩け!」
野太い男の大声の後バチンと何かで叩かれたような甲高い音がした。俺たちは何をしてるんだと思いスピードを上げた。男の声の方に向かうとそこは人気のない空き地で魔族の女の子が首輪を繋がれていた。その女の子の左太ももには何のマークか分からないが、刻印があった。太った男の手には鞭が握られており先ほどの甲高い音は鞭の音だと分かった。
「おい!可哀想だろ!」
俺がそう怒鳴ると鞭を持った男が言った。
「何だ貴様は、コイツは俺の奴隷なんだから何したって関係ねぇだろ!ムシャクシャするなぁ!」
そう言うと男は魔族の女の子を鞭で叩いた。俺はこんな酷いことをする男のことを殴りそうになったが、すんでのところでルナが止めた。俺は何で止めるんだと言おうとした時ルナが先に言った。
「相手の素性も知らずに手を出してはいけません。こんな酷い目に遭わせることに怒りを覚えるのは重々理解できます。ですが、ここはエクサフォン国とは違うのです。ここではこれが当たり前なのかも知れないのです。」
ルナの説得に納得はできなかったが、理解はできたため怒りを収めることにした。すると男が言った。
「貴様らがこの私と会話できていることに感謝してほしいぐらいだ。分かったらとっとと消えろ。」
俺たちは何もできないまま帰るしかなかった。冒険者ギルドの人たちはあんなに暖かかったのに、どうしてここまで差が生まれるのか不思議でたまらなかった。アイツのような性格の悪いやつらは大抵悪知恵を働かせているに違いない。そしてその悪知恵で得た汚い金で罪のない奴隷を痛ぶっているに違いない。そう思うと怒りが腹の底から沸々と湧いてきた。この怒りをどう処理しようか悩んでいるとルナが言った。
「きっとこの国の治安はリフォン様が過ごしていたエクサフォン国より大幅に悪いと思われます。奴隷制度がそれを物語っています。深い事情があるのでしょうが、これから先数々の奴隷を見ることになると思います。それを普通と思わなくても不快感を覚える程度にとどめてください。我らは部外者です。まだ右も左も分からない者があちこちに首を突っ込むのは推奨できません。」
「ごめん。」
ルナの説得に俺は猛省した。ここは異世界であり俺は部外者だ。前世の常識が通用しないのは痛いほど理解していた気になっていた。ここに染まるのは絶対に出来ない相談だが、慣れることは許容しなくては俺たちに被害が出るかも知れない。俺は悶々としたまま宿に戻りみんなにそのことを話した。みんな奴隷制度に絶句しておりエクサフォン国がどれほど治安が良かったのか再認識した。一方で、完全に除外するエクサフォン国と最大限共存しようとするジャドゥー帝国どちらの方が良いのか分からなくなった。でも、ジャドゥー帝国の奴隷制度に心を許すことは一生ないと断言できる。
次回もお楽しみに




