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転生するなら貴族の飼い猫でしょ 〜飼い猫兼相棒として異世界を旅します〜  作者: 描空
特認実習 後編

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168話 再出発

成果発表を終えた俺たちは学園を辞める手続きや必要な物を購入したりと忙しい日々を送っていた。その間も学園長室にいさせてもらった。すると、学園長は学園を辞めることに否定的だということを明かした。


「ワシは別に学園を辞めなくても良いと思っておる。休学したりじゃダメなのか?」


学園長がリベルに問うとリベルは答えた。


「心残りはゼロにしたいので。」


覚悟の強さというか、魔法に対する情熱というか、リベルの心根の強さを感じた。ここに戻ってこれなくても良いと思えるほどの覚悟がひしひしと伝わってきた。俺はリベルのその覚悟がどこからきているのか知りたいと思った。まだ十五歳の子どもにどうしてこれほどの覚悟があるのかと。そして、死をも恐れぬ胆力はいつ培われたのかと。俺はまだ八つの命があって七回は死ねると分かっていながらも、死ぬのは怖い。俺を置いて先に進むリベルに追いつくために、俺は必死になってリベルの旅について行っている。いつかリベルの心が折れてしまった時、俺が隣で支えてあげるために。


「そうか…そこまで言うのなら信じよう。でも、帰ってきたくなったら、いつでも帰ってきなさい。ワシより先には死んでくれるなよ。」


「分かってますよ。」


学園長の冗談とも本気とも取れる発言にリベルは笑って答えた。きっとリベルには学園長の心配している気持ちが伝わることはないんだろうなと感じた瞬間でもあった。書類を書き終えたリベルが学園長に書類を渡した。


「お願いします。」


リベルの淡白な声に不気味さすら感じた。これを出してしまえば、ハーリーたちと学園に通うこともできなくなると本当に分かっているのか疑問に思うほど淡白だった。学園長もそう感じたのか言った。


「本当に良いんじゃな?」


「はい。」


でも、リベルは何ら問題ないと言わんばかりに答えた。リベルの返答に寂しさなど一切感じなかった。


「そうか…気をつけてな。」


学園長は寂しそうに呟いた。


「はい。」

「ありがとうございました。」


俺たちはそんな学園長に別れの言葉を告げ、学園長を背に学園長室を後にした。俺たちがまず向かったのは公爵領だ。と言っても屋敷に用があるわけではない。俺たちはジャドゥー帝国に向かうために公爵領に向かうのだ。以前学園長にもらった世界地図を見ると公爵領から北東に向かうとジャドゥー帝国があるため、公爵領を中継地点とするのだ。だからグロウたちに学園を辞めたことやジャドゥー帝国に向かうことを直接伝えるのだ。しばらく飛び屋敷に向かった。


「ただいまー。」


俺たちの早すぎる帰宅にメイドと執事は逆に驚いていた。何か問題が起こったのかと邪推する者までいた。その考えは半分だけ当たっていることになるが、それを知るのはグロウから説明された時だろう。グロウとマイヤーに少し時間をもらいリベルが説明し始めた。


「学園を辞めてきました。」


「「え!?」」


二人は予想外な言葉に今まで見たことないほど驚いていた。それもそのはずだ。エクサフォン国内で唯一にして至高の学園を辞めたのだ驚くのも無理はない。


「ほ、本当に辞めたのか…?」


「はい。本当です。学園長に手紙を書いてもらえれば確実です。」


「い、イジメられたりしてたの…?」


マイヤーは心配そうに聞いた。


「まさか。自分の意思で辞めたんです。」


「何か他にやりたいことができたのか?」


グロウがリベルの目を見て聞いた。


「世界を旅してきます。まずは隣国であるジャドゥー帝国に向かいます。」


二人はリベルの言葉に驚きすぎて何も言えなくなっていた。


「お父様?お母様?」


リベルは何も言えなくなった二人に問いかけた。すると二人は眉間を指で押さえたり、ため息をついた。グロウが俺たちにも視線を向けて言った。


「私たちはみんなが行うことを否定するつもりはない。でも、生き急いでいるなら止める。それに、ジャドゥー帝国を含め他の国との関わりは一切ないんだから何があるのか分からないぞ。」


「重々承知しております。その上で何があるのか知りたいのです。エクサフォン国という箱庭の中で緩やかに老いて死ぬのは嫌なんです。それなら見たこともない所に行き、様々な人、見たこともない生き物に出会い、旅の末、命を煌びやかに散らしたいのです。」


リベルの理想を聞いた二人は呆れていた。もう何も言ってもリベルの意思は変わらないなと感じたのだろう。最後の砦だった二人も陥落し俺たちはジャドゥー帝国に向かうことが決まった。すると二人が立ち上がりグロウが言った。


「渡す物がある。」


その一言だけを言うと二人はどこかに歩いた。俺たちはその後に続いた。しばらく歩くと俺が見たことも行ったこともない地下室に向かった。存在自体は知っていたが、別に行く意味もなかったので今回ば初めてだ。グロウが地下室の扉に右手をかざすと、人差し指に嵌めていた指輪の魔法石らしき物が光った。するとグロウが地下室の扉を開けた。中には剣や杖など様々な物があった。


「一つ好きな物を持っていきなさい。」


リベルは壁から剣を手に取った。するとその剣はリベルを拒絶するように柄の部分が燃え出した。


「熱ッ!」


リベルは柄を両手で握っていたことから両手を火傷してしまったようで俺が手当てしてあげ大事にはならなかった。


「その剣を手にする者は炎龍の加護がもたらされると言い伝えられているが、その剣は今まで誰も使えたことはないらしい。きっとこれから先も誰にも使えないだろうな。」


リベルは残念そうにしていたが、別の剣を手に取った。変なことも起こらずその剣を帯剣した。


「リフォンも選びなさい。」


「え!?良いのか?」


俺はあまりのことに声を上げてしまった。


「リフォンはもう我が家の一員だ。もちろんジュナたちもだ。自由に選びなさい。」


グロウの懐の広さに俺は拍手喝采を送りたくなった。俺たちは自分の好きな物を手に取った。俺は瞳と同じ紫色の魔法石がついた背丈ほどの杖を。ジュナはリベルと同様に剣を。ユディはネックレスを。ルリは水色の魔法石がついた三十センチほどの杖を。ルナは黒い手袋を。俺はルナの手袋が何の効果があるのか全く想像できなかった。試しにルナが爪を伸ばしてみると、その手袋は破れることなく爪の形に適応し、鋼鉄のような硬さを誇った。そんな時グロウが話し始めた。


「その手袋は装着者のイメージで形を変える物だけど、まさかそんなふうになるとはね。リベルとジュナの剣は魔法剣士用の剣で、ユディのネックレスは任意のタイミングで火の壁を作り出す物で、ルリの杖は水魔法を強化する杖で、リフォンの杖は全ての魔法を強化する杖だ。自分に合った物を選んだようだな。」


俺たちは屋敷の者総出に見送られた。みんな口々に俺たちの旅のことや無事を祈ってくれた。みんなの人の良さに俺は涙が出そうになったが、何とか我慢して笑いながら言った。


「行ってきます!」

次回もお楽しみに


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