162話 帰省
俺たちが魔族の国でやることはもうなくなった。冒険者ギルドの再建もできたし子どもたちに魔法も教えた。次は何をしようかとみんなで話し合った。外界を飛び回って魔物討伐をしたりエクサフォン国内に戻ろうなどの意見が出た。もう今年も終わりが近づいていることから外界を飛び回る案は却下された。俺たちはどうしようかと悩んだ。しばらく悩んだのちリベルが最適解を導いた。
「帰ろうか。」
みんなはどこにと不思議そうな顔で聞いていたが、俺はすぐに理解できた。そうペタフォーン家だ。俺たちが帰る所と言えばそこしかない。この世界で一番落ち着ける場所。グロウとマイヤーが暖かく出迎えてくれる家それがペタフォーン家だ。去年の夏以降帰っていなかったから約一年半ぶりの帰省だ。俺は久しぶりにグロウとマイヤーに会えると思うと涙が出てきた。
「どうしたの!?」
「目にゴミが入ったか?」
俺が急に泣き出すものだからみんなオロオロしていた。俺はみんなの様子に笑ってしまった。涙を流しながら笑っているという不可解な状況にみんな引いていた。流石に自分が変な感じになっているのは客観視できていたためすぐに感情を抑え込んだ。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫。いろんな感情が混ざって…」
ユディが心配してくれた。俺はユディの問いかけに何とか答えた。俺は深呼吸して何とか心を落ち着かせた。
「よし。帰ろっか。」
「「「いや、無理無理無理。」」」
俺が仕切り直して言うとジュナ、ユディ、ルリがツッコんだ。俺は流石に無理あったかと苦笑いしながら頭を掻いた。するとルナが言った。
「帰るってどこに帰るんですか?」
上手く軌道修正してくれたルナに乗っかってリベルが説明した。
「僕とリフォンの実家だよ。去年の夏に帰ってからそれっきりだったから、特認実習とかジュナたちの話をしなくちゃいけないから丁度良いかなって。」
「お二人の実家!俺気になります!」
「私もー!」
そんな感じで一年半ぶりの帰省が決まった。俺たちはギルドの人たちや子どもたち、自警団の人たちにここを離れることを伝えた。みんな最初は別れを惜しんでくれたが、本心では俺たちがいなくなることで魔物の討伐数が減って前みたいな一件が起こるのではないかと心配していただけだった。俺は何だか寂しくなったと同時に信頼されていたんだと嬉しくもなった。俺たちは長らくお世話になった魔族の国に別れを告げた。
俺たちは外界を風魔法で飛んで移動した。前まではワイバーンと対峙しないために歩いたりしていたが、今ではワイバーンなんて敵ではないから、飛んで一秒でも早く家に帰りたかったのだ。道中遠くに飛んでいるワイバーンを見かけたが、こちらには気づいておらず普通にスルーできた。ワイバーンは目はあまり良くないのかなと思った。特に魔物が襲ってくるわけでもなかったからすんなりとエクサフォン国内に戻ることができた。そして俺はルナに注意喚起をした。
「ルナ、一応言っておくけど翼は生やさない。爪は伸ばさない。闇魔法は使わない。普通の人間ですよって感じで振る舞うこと。良いな?」
「承知しております。完璧に人間を演じますのでご心配なく。」
俺はルナなら大丈夫だろうと思いそのままペタフォーン家に向かった。俺は早くグロウとマイヤーに会いたいからかいつもより飛ぶスピードが速かった。だからか一時間程度で屋敷に着いた。俺はその時ふと思った。猫の状態で会ってから人間になるか、人間の状態で会ってから猫に戻るのどっちが良いのだろうと。俺が一人で考えているとリベルたちはそんな俺を放っておいて屋敷の中に入った。
「ただいまー!」
リベルがそう声を上げると屋敷中からドタドタと足音が響いた。近くにいたメイドと執事が口を押さえて驚いていた。涙を流している者までいた。すると二階からグロウとマイヤーが降りてきてリベルに抱きついた。
「連絡もよこさず今までどこに行ってたんだ。夏にも帰ってこず、リーンも二人のことを見ていないと言っていたから攫われたのかと…」
グロウが涙ぐんでいた。マイヤーは静かにリベルの方に顔を隠して泣いていた。
「ごめんなさい。忘れてた…」
俺もグロウたちに何の手紙も書かなかったことを今思い出した。ひとしきりグロウとマイヤーが泣くと俺たちの方を見てきて言った。
「リフォンはどこ!?後この人たちは!?」
マイヤーが今までに見たことないぐらい焦っていた。その言葉を聞いたグロウも焦っていた。俺は二人を安心させるために猫の姿に戻った。
「「リフォン!?」」
二人は目が飛び出そうなほど驚いていた。二人は何か言いたそうに口をガクガクさせていた。
「ただいま。」
「「お、おかえり…」」
俺は二人を落ち着かせるために言ったが、二人は状況をうまく理解できていないようだった。とりあえずゆっくり話すために来賓用の客間に移動した。
「そ、それでリフォンは何で人間の姿になれるんだ?」
グロウが聞いてきたので俺は見えざる手と同じ魔法だと教えた。いまいち納得できていなかったが、何とか理解してくれたようだ。そしてジュナたちの話もした。出会いからダンジョンのことまで全て話した。そしてユディ、ルリ、ルナの種族までも。グロウとマイヤーは絶句していた。たった一年半でここまで変われば誰だって驚くのは無理はない。するとマイヤーが言った。
「学園にはまだ人間になれることは言っていないのよね?事前に学園長に手紙を書いておいた方が良いんじゃない?急にリフォンが行ったら学園長も驚くんじゃないかしら?」
「確かに。明日にでも書くよ。」
次はグロウが言った。
「三年生からは普通に学園に通うんだよな…?」
グロウが心配な表情で言った。するとリベルはすぐに返した。
「分からない!」
リベルを除いてその場にいた者全員驚いた。学生なんだから普通に勉強しててくれとも思うが、ジャドゥー帝国とかも気になってるのは事実だ。でも俺は普通に学園に通いたい思いの方が強い。リベルは違うんだろうなぁと思った。その予想は当たりで今実家に帰ってきたところなのに目をキラキラさせていた。実家に帰ってきたら普通ゆっくりするもんなんだよとツッコミたかったが、リベルにそんなこと言っても通じないのは知ってるため何も言わないようにした。
「今年はもう家にいるのよね?」
マイヤーが不安そうに問うてきた。俺とリベルはそんな不安をかき消すぐらいの良い笑顔で言った。
「「うん!」」
俺たちはまだまだ子どもだ。
次回もお楽しみに




