154話 指輪
雨季になりコンクリート防壁がきちんと機能して指輪の光が明確に方向を指し示すようになった。俺はいつ次の階層に行くのか話し合うことにした。
「もう貢献度は十分だけど、いつ次の階層に行く?」
「僕は村の人たちに挨拶できたらいつでも。」
みんなリベルの考えに頷いた。みんな案外あっさりしてるなと思った。俺が情をかけすぎたわけではないと思うが、一ヶ月ほどお世話になったのだからもう少し別れを惜しんでも良いのではないかと感じた。
「それじゃあ、雨が弱い日に集まってもらおうか。」
みんな頷いた。俺はもうここを離れることになるのかと少し寂しく感じた。みんなは俺のように感じていないのか真顔だった。おそらく俺が異端でみんなが普通なのだろう。俺たちは冒険者で世界を転々とする者だから、一期一会で出会った人たちとの別れを惜しむものではないのだろう。
それから数日経ったある日、その日は珍しく晴れだった。事前に村長に連絡してもらっていたため村の人たちはすぐに集まってくれた。そして俺たちは集まってくれた村の人たちに別れの挨拶をした。まずは俺からだ。
「みなさん今までお世話になりました。短い間でしたが、自分が教えられる魔法は全て教えました。後はみなさんの努力次第です。またいつか会った時に成長を見せてください。」
リベル、ジュナ、ユディ、ルリ、ルナと続いた。みんなここでいろんな経験をしたことを話していた。思い出はあるが、それを惜しむのではなく笑い話に昇華していた。俺は再会のことを話したが、みんなはこれっきりと割り切っており、俺の未練が残っていることが顕著に現れた。村の人たちももう会えないだろうと割り切っていて俺の未練がさらに強調された。そして最後になるだろうと村の人たちは宴を開いてくれた。踊りを披露してくれたり、豪華な夕食を食べたりそれはもう楽しい宴だった。
宴が終わり俺は村長の家がある巨木の上に登りぼーっと月を眺めていた。この世界に来て月を眺めるなんて今までしてこなかったから少し特別に感じた。一見すると前世の月と遜色ないが、少し赤みを帯びているように感じた。のんびりこことの別れに浸っていると下からリヴとクルネの声が聞こえてきた。
「リフォっちー何してんのー?」
「チルってんのー?」
「そうそうチルってんのー。」
俺は適当に答えた。すると二人が俺の所まで登ってきた。
「ウチもチルするー。」
「アタシもー。」
二人はそう言うと何も発さず俺の両隣に座り月を眺めた。二人がこんなに静かだったことは今までになく少し意外だった。少ししてリヴが口を開いた。
「リフォっちはさー、ここに戻ってきたい?」
俺は急な問いかけに何と答えれば良いのか分からなかった。正直に言えば帰ってきたいが、ダンジョン内がどのようなシステムで作られていて、どうやって階層を生み出しているのか理解できないことには、ここに帰ってくるのは至難の業だろう。それを二人に伝えたところで何にもならないし、どうしようもできない。俺がそんな考えを巡らせて黙っているとクルネが言った。
「アタシらはずっと待ってるからね。」
そう言うとクルネは頬にキスをした。
「ウチもー。」
クルネに続きリヴも頬にキスをした。俺は二人と離れたくないと心底思った。でも、俺は冒険者でありリベルの使い魔だ。そしてルリとルナの主人だ。俺の一言が何人にも迷惑をかける。俺の葛藤は二人にも伝わったようでリヴが言った。
「返事はいらない。ただウチらがそう思ってることを知ってて欲しいだけ。ウチらはリフォっちを想い続けるからね。」
俺はその言葉に涙が出そうになった。でもここで泣いているようじゃ冒険者は務まらないと感じた俺はグッと涙を堪えた。
「それじゃあまたねリフォっち!」
「またねー!」
俺は一言も発さないままリヴとクルネと別れた。何かを言っておいた方が良かったのかと思うのと同時に何も言わなくて良かったと思った。こんな俺を好いてくれる二人なら、俺が何も言わなくてもきっと分かってくれる。俺はそう確信している。でもこれでお別れかと思うとさっきまで堪えていた涙が溢れてきた。俺は声を殺して誰にも気づかれないように泣いた。
翌日、俺たちは誰も起きていないまだ夜も明けていない早朝に村を離れた。指輪が指し示す方向に長いこと飛んで行くと、そこには今までに見たこともない大きさの巨木があった。俺たちは一目でこれが御神木だと確信した。俺が御神木に近づくと指輪の光が一層強くなった。そして指輪の光と呼応するように巨木が眩い光を放った。目の前が白くなるほど強烈な光で俺たちは少しの間目を抑え悶絶した。ようやく目の前が見えるようになると、巨木の一部がドアのように開いていた。恐る恐る中に入ると中は螺旋階段となっており俺はみんなを連れて飛んだ。目がまわるほど上っていると次第に明るくなってきた。もう少しで二十七階層に着くと確信した。
「もうすぐだ。」
俺がみんなにそう伝えるとユディとルナを除きリベル、ジュナ、ルリの三人はぐったりしていた。おそらく螺旋階段を一気に上ったから目がまわったのだろう。とりあえず二十七階層手前で三人が回復するまで休憩することにした。その間俺とユディ、ルナは朝食を作って待っていた。朝食ができても三人はまだぐったりしていて食欲がないと言うと、俺たちは作戦会議をすることにした。
「次の階層何の魔物が来ると思う?」
二人に問いかけると想定内の答えが返ってきた。
「次はドラゴン三体だな。」
「次はドラゴン三体です。」
二人は互いに同じ回答だったことに驚いていた。でも俺は二人の回答に何の疑問も驚きも感じなかった。なぜかと言うと俺の直感がそう告げているからだ。ランダムで階層ボスが選ばれるのだから、最後の三階層がまとめてきてもおかしくない。でも俺は恐れていた。前はワイバーンだったから一人で討伐できたが、より等級のブラックのドラゴンとなると一筋縄ではいかないだろうからだ。俺たちは三人が万全の状態に回復するまで待つようにした。
次回もお楽しみに




